泥棒道とはシェアすることと見つけたり――「ルパン三世 PART6」20話レビュー&感想

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV
一人にさせない「ルパン三世 PART6」。20話では不二子と並ぶ泥棒としてアメリアというキャラが登場する。今回は彼女を始めとした泥棒達を通し"盗み"の可能性を見せてくれるお話だ。
 
 

ルパン三世 PART6 第20話「二人の悪女」

不二子の目の前に現れた、屈託のない輝く笑顔。彼女の名はアメリア――かつて不二子と組んで、共に盗みを働いた女。天性の愛嬌で人の懐に入り込む天才だが、作戦の詰めが甘いことが不二子の不興を招き、関係は長くは続かなかった……。そのアメリアが持ち掛ける、新たな誘い。不二子は溜息をつきながら車を飛ばす。真逆な性格を持つ、二人の泥棒のドライブが始まった。
 

1.不二子泥棒・アメリ

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV
不二子「勘弁して。あんたとの仕事いっつもメチャクチャなんだから」
アメリア「でもメッチャ楽しいでしょ?」

 

広義の「女泥棒」を多数登場させてきたPART6 第2クールだが、20話のゲストであるアメリアはかつて不二子と組んだこともある正真正銘の泥棒だ。数年ぶりに不二子の前に現れたという今回にしても、持ちかけるのはカルト教団の教祖の財宝を盗もうというもの。ただこれまでのゲストが様々なものを盗んでいたように、アメリアが盗むのもまた金銀財宝だけとは限らない。
 

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不二子「あんたが勝手に言ってるだけでしょ」
 
アメリアが盗むのは言ってみれば「不二子らしさ」とでも呼ぶべきものだ。奔放な行動で同行者を困らせ、肝心なところで裏切り、しかし不思議に人の心を掴んで憎ませない……TVスペシャル時代などでお馴染みの不二子の行動は今回もっぱらアメリアが担っており、彼女の前では不二子は相対的に常識人になってしまう。豪華なデートと洒落込んでいたルパンから不二子を奪い取ったアバンに象徴されているが、アメリアという女泥棒はまず何よりも「不二子泥棒」なのだと言える。そして実は、今回登場する広義の泥棒は彼女だけではない。悪役として登場する男・グレイソンもまた泥棒として解釈可能な存在だ。
 
 

2.専有の泥棒・グレイソン

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グレイソン「久しぶりだな。私の美しい顔に傷をつけた恨み、忘れたことはないぞ」
 
数年前は一流IT企業の社長だったが不二子とアメリアが盗みに入った際の事故で顔を焼かれ失踪、カルト教団の教祖として再び姿を現した今回の悪役・グレイソン。彼がなぜ広い意味で泥棒なのか? それを考える上でポイントとなるのは、グレイソンが強烈な所有欲の持ち主であることだ。
 

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グレイソン「私のものにしてやる」
 
IT企業社長だった過去も教祖となった現在も彼は焼印、いや所有の証に拘泥している。企業ロゴには自分のイニシャルである「G」を使い、自分の顔を焼いてしまった原因も不二子を自分のものにしようと「G」の焼きごてを突きつけていたところを抵抗されたため。教祖となっても裏切り者には焼印を付けそこに用いられるのはやはり「G」のイニシャル……立場は変わろうと、強引に他者を支配する焼印こそは彼の精神を象徴する道具だと言える。そして人に焼印を押し付けようとしたことから分かるように、その所有欲の矛先は金品や名誉に限らない。
 

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不二子「その子は、あんたが昔誘拐して売った子供の一人よ」
 
この20話では終盤、グレイソンが人身売買に手を出していたことや幼い頃のアメリアがそのために誘拐され孤児となった過去が明かされる。もしグレイソンがそんなことをしていなければ、アメリアの一生は全く違うものになっていたはずだ。グレイソンはアメリアを始めとした子どもたちの人生を"盗み"、金品に変えて"所有"した。他人のものを勝手に奪い取って我がものとすることはすなわち盗みであり、社長だろうが教祖だろうが所有欲で人を虐げるからこそ彼もまた広義の泥棒の条件を満たしている。
 
盗むことは所有すること。だが、ならば本物の泥棒であるルパンや不二子もグレイソンと全くの同じ穴のムジナなのかと言えばそうではない。盗みという行為には別の可能性が存在している。
 
 

3.泥棒道とはシェアすることと見つけたり

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最初にアメリアについて触れた際、私はアメリアを不二子らしさの泥棒であると書いた。彼女は不二子の前では本人以上に不二子らしく、故に不二子自身は相対的に常識人になってしまう。とはいえ彼女が不二子から別人になってしまうわけもなく、彼女達が一緒にいればそこには不二子が2人いるような不思議な状況が現出する。
 
アメリアは不二子らしさの泥棒ではあるが、不二子らしさを所有、いや専有してしまうわけではない。この時不二子らしさは盗まれることによって"共有"されているのである。不二子に女友達がいたと聞いて次元は驚いていたが、ふだん彼女が一人で背負っている「不二子らしさ」を共有してくれる相手、荷を軽くしてくれる相手はなかなかいないのだからそれも当然だろう。
 

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不二子「母親が手を汚したら子供が悲しむわ」
 
人間とは、ともすれば過剰に自分一人で物事を抱え込んでしまう生き物だ。過去、悩み、憎しみ、身体の変化……過剰な仕事を一人で抱え込んで心を病むケースなどはよく言われるし、アメリアにしても笑顔の下にグレイソンへの恨みや自分が妊娠したことを隠してしまっていた。専有すべきでないものを専有してしまっていたのだ。だからそんな時には"盗む"ことこそが救いになる。迷惑なようでもお節介なようでも相手が抱え込んでしまっているものを盗んでシェアすること……"共有"することが救いになる。
 
アメリアの本当の目的が復讐にあることや妊娠中なのを見抜くことで不二子は彼女の秘密を"盗み"、"共有"することで救った。胎内を盗む泥棒とも言える赤ん坊の存在や、アメリアがお願いを聞いてもらう時の言葉を逆に不二子が使ったことでアメリアが殺人者にならなかったのも共有のもたらす効果の一環と言えるだろう。これはグレイソンがやったような専有の盗みではけしてできなかったことだ。
 

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アメリア「ほーら、不二子パパでちゅよ」
不二子「はぁ?誰がパパよ」

 

物語は最後、アメリアと不二子、そして生まれた赤ん坊を描いて幕を閉じる。赤ん坊の父親とアメリアがどういう関係なのかは描写されていないが、アメリアが冗談めかして「不二子パパ」と言うようにここにも家族のような関係はある。時には赤の他人が父親の役割を盗んで共有することがあってもいいのだ。また赤ん坊は不二子とアメリアの間だけだったはずの魔法の言葉を覚えて口にするが、これも継承という形の盗みであり共有であろう。
 

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV
アメリア「忘れちゃいけないのは『あなたといつまでも一緒』っていう気持ち」
 
犯罪行為を描くはずのアニメ「ルパン三世」が輝いて見えるのはきっと、それが専有ではなく共有の泥棒だからなのだ。
 
 

感想

というわけでTVルパン三世6期20話のレビューでした。初見時は「不二子泥棒」の先をどう広げたものか悩んだのですが、グレイソンの焼印など早々に歯車が合ってレビューを書き切れました。
 
第2クールは視聴していて「女」をキーワードにするなら不二子を描かないでどうするのか?という思いもあったのですが、これは素晴らしい。不二子も手玉に取るようなアメリアというゲスト、それに存在感を失わない不二子やルパン(今回ルパンは不二子とヒーロー性を共有し、またグレイソンが悪どく貯め込んだ金を世界に共有する役割を担っている)の立ち回りもまとまりが良かったです。
 

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そういえばアメリアの銃が銃口4つあるタイプ(検索したら「COP .357」というのがひっかかった)だったのは友達も含めて4人分というつもりだったのかしらん。さてさて、次のオムニバスエピソードはどんなお話が待っているのでしょう。
 
 

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