嘘は嘘の母――「ルパン三世 PART6」18話レビュー&感想

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV
嘘の根本が見えない「ルパン三世 PART6」。18話ではトモエの過去が新たに語られるが、それはルパンや私達が土台としている認識をぐらつかせる。いったい、どこからどこまでが嘘なのだろう?
 
 

ルパン三世 PART6 第18話「フェイクが嘘を呼ぶ 前篇」

オークション騒動以来のニューヨーク。退院したマティアと再会したルパンは、彼女が花屋を離れることにしたと知る。一抹の寂しさを感じつつ、ふと目にした新聞から「トモエ」の情報を入手――コトルニカ共和国の女性議員・ヘイゼルが、かつてトモエから教育を受けていたというのだ。トモエの生存を確かめるため、コトルニカに飛ぶルパン。しかしそこにはなんと、偶然旅行中のマティアがいた。
 

1.フェイクが嘘を呼ぶ

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV
ルパン「後ろの姉ちゃんはあんたか」
ヘイゼル「らしいわね」
ルパン「"ディープフェイク"か」

 

この18話では「ディープフェイク」なる言葉が登場する。AIにより画像や音声を映像に写し込み、実際にはしていない行動や発言をあたかも本物のように仕立てあげたこのディープフェイクは判別が難しく、世界を一層混乱に導く危険が指摘されている。ルパンが今回接触するコトルニカの政治家、ヘイゼルは自身について作られたこのディープフェイクについて次のようなことを述べている。
 

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ヘイゼル「たとえフェイクだろうと、証明するまでの間に世論は大きく傾く」
 
偽造されたものである以上、それが嘘だと証明することは不可能ではない。嘘には多くの場合、賞味期限とでも呼ぶべきものがある。
しかし問題なのは、嘘からは更に多くの嘘が生まれることだ。虚偽答弁が公文書の改ざんに繋がった疑惑の例を挙げなくとも、伝言ゲームで些細な間違いからどんどん内容が変わっていく例は多くの人に覚えがあるはずである。副題の通り「フェイクが嘘を呼ぶ」わけだが、この話におけるその範囲はもう少し広い。
 

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ヘイゼル「不思議な人だった。私が利他的な性格だと見抜き、それを効果的に活かす方法を考え一流の専門家達を付けてくれた」
 
ルパンがヘイゼルに接触したのは彼女の家庭教師だった"トモエ"が自分の知るそれと同一人物か確認するためだったが、ヘイゼルの話から分かるのはトモエが彼女の人生を変えるきっかけになったことだ。両親を亡くし叔父の家で暮らしていた彼女にとって、学校での勉強は本来望むべくもなかった。しかし叔父の知人でやってきたのが家庭教師のトモエによる勉強――すなわち学校の"フェイク"であった。
貧しい家庭の出身ながらヘイゼルが政治家にまでなれたのは、その資質を見抜いたトモエが家庭教師に更に一流の専門家達を加えた指導の賜物。これも広い意味では「フェイクが嘘を呼ぶ」一例と言えるだろう。意地悪な言い方をすれば、国を豊かにしようと邁進する新進気鋭の女政治家の苗床はフェイクにあったのだ。
 
 

2.嘘は連鎖する

嘘には賞味期限があるが、嘘は期限が切れる前に更に嘘を生み出す。これはもちろん、ヘイゼルに限った話ではない。
 

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ルパン「はっ!お前こないだ水やりながら話しかけてたの俺知ってんだぞ?」
次元「知ーらね、寝る!」

 

例えばルパンがニューヨークで頻繁に花を買うのは花屋のマティアの心証を良くしたかったから、すなわち花の購入自体は「嘘」に過ぎなかった。故にマティアが花屋を辞めて別の場所に行くと聞けば購入する理由はなくなってしまう。賞味期限は切れてしまう。しかしこまめに買い続けたそれは既に次元を魅了しており、文句を言っていたはずの彼はいつの間にか水やりの時に花に話しかけるようになっていた。それを指摘された次元が知らんぷりを決め込めばそれもやはり「嘘」だ。最初の嘘の賞味期限は切れても、既に次の嘘は生まれている。
 

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マティア「これがプライベート?」
ルパン「ち、違うのよマティアちゃん?ものすごーく誤解してると思うよ」

 

また、偶然にもコトルニカを訪れていたマティアと再会したルパンは自分が何を目的にしているのか彼女に語らず嘘をつくが、それは更に誤解という名の嘘を生む。ヘイゼルと自分が恋愛関係なのではとマティアに疑われたり、マティアもマティアで変装したルパンが自分の歳の離れた兄だと顔見知りの八咫烏刑事やアリーに説明することになったり……フェイクや嘘は連鎖的に影響を与えるものであり、けしてその場限りで済んではくれない。
 
 

3.嘘は嘘の母

フェイクは嘘を呼び、連鎖的に影響を与える。逆に言えば、一つの嘘を暴くことはそこから繋がる嘘を連鎖的に暴きもする。
 

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ヘイゼル「推進派の私を憎む人間は大勢いる。これまで何度も危ない目に遭った!」
 
国を豊かにする信念に燃えるヘイゼルは、けして清廉潔白な政治家ではない。時には人に言えないこともやってきたのではとルパンに指摘された際、彼女は否定しなかった。ヘイゼルはいわば国民に嘘をついているわけだが、彼女はそれが必要な犠牲だと信じて疑っていない。
 

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ヘイゼル「違うの、急に色々分からなくなって……自分が何をしてるのか、今までの私が本当に正しかったのか」
 
正しさが土台にあれば、いずれ罰を受けるとしても嘘は許される。ヘイゼルはそう考えている。だからパパラッチや敵対政党による妨害の数々にも彼女は屈せず戦い続けて来られた。しかしルパンの調査で妨害していたのが敵対政党ではなく自分をやっかんでいた仲間、それも自分をもっとも身近にサポートしていたセリムという男だったと知ると彼女の信念は揺らいでしまう。共に正しい道を歩んでいると思っていた男が間違っていたのなら、自分は本当に正しかったのか?自分がやむを得ない犠牲と信じて疑わなかったものは、本当にそうだったのか? 土台となる嘘の賞味期限が切れたことで、ヘイゼルは自分の行動全てがぐらついてしまったのだ。
 

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マティア「こうすると長持ちするしね」
 
切り花の根本を湯上げすれば日持ちするように、嘘は土台が肝心である。それは「人を欺く時には必ず、二重三重に策を練っておきなさい」というトモエの言葉で言えば一番奥の策に相当するものだからだ。トモエに教え子とは違う意味で子供がいたらしいというヘイゼルの話は、彼女はあくまで泥棒としての自分の母に過ぎないというルパンの認識をぐらつかせる。揺るぎない真実と思っていたものすら賞味期限のある嘘だったなら、人は何を頼りに歩くこともできず全ての行動は嘘になってしまう。嘘は嘘の母なのだ。
 

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銭形「勘違いするな!」
警官「膝をついて両手を頭の上へ!」

 

全てが疑わしくなり始める中、異変を感じ侵入した部屋でヘイゼルの亡骸を見つけ逮捕されてしまった銭形の身に降りかかるのは、おそらく単に一人の人間を殺した嘘だけではない。彼女を殺すことで生まれる利益を隠すための全ての嘘が、その背中に覆いかぶさることだろう。それを暴いた先に待っているのはいよいよ真実なのか、それとも果たして?
 
 

感想

というわけでルパン三世のTV6期18話レビューでした。プラネテスの再放送前に……というつもりでいたら今日は放送がお休みなのが分かり、そのまま気が抜けてしまっておりました。
 
トモエは二重三重の嘘で包まれていると以前のレビューで書きはしましたが、ルパンの育ての親という設定まで嘘の可能性があるとは驚きです。出番が終わりというわけではなかったマティアの今後なども含め、全体像がずいぶん気になる展開になってきました。さてさて、ヘイゼル殺しの真相はどんなものなんでしょう。
 
 

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