人魚の居場所――「ルパン三世 PART6」21話レビュー&感想

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV
安らぎと騒動の「ルパン三世 PART6」。21話では小さな島の少女とルパン達の騒動が描かれる。今回は人魚が象徴する、妄想の可能性に関するお話だ。
 
 

ルパン三世 PART6 第21話「うたかたの島へようこそ」

穏やかな時が流れる島・ミトン。橋の故障で島に閉じ込められたルパンたちは、思いがけない休暇を過ごすことになる。暇をもてあそぶルパン一味の佇まいに、カフェで働く娘・ムルーは興味津々。夢見がちな彼女は、スケッチブックを片手に、ルパンたちの関係を勝手に妄想し始めた。そんな中、不二子は島に古くから伝わる人魚の伝説を聞きつけて……?
 

1.人魚姫と愛

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV

ムルー「どこまで話したっけ。生まれ故郷を出発して……」

 
今回のゲストヒロインはムルーという少女だ。運河に囲まれた小さな国境の村・ミトンに住む彼女がルパン達を振り回す様が描かれるのがこの21話であるが、彼女の特徴としては以下の2つが挙げられる。
 
その1.妄想がたくましい
その2.愛とは何か悩んでいる。
 
一見するとこの2つは全く別の話に見えるが、ここで注目したいのはミトンには人魚姫の伝説がある点だ。村が町おこしにも活用しているその伝説では、人魚の姿を見た者は"愛"が成就するとされている。また不二子の美しさを人魚姫に例えるムルーも妄想の中で言及しているが、アンデルセン童話で人魚が地上で暮らすため必要とされるのもまた"愛"であった。
 

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV
ムルー「ねえ、愛ってなんだと思う?」
 
人魚が現実に存在するわけはもちろんなく、それはつまり妄想の存在に過ぎない。ムルーの妄想にしても村人は暖かく受け入れてはいるが、成長すればいずれ彼女は夢から覚めていくだろう。
ムルーにとっての人魚姫とは自分の中のあまりに豊かな妄想であり、彼女が愛が分からないと悩むのはそれが自分の妄想を守るために必要なものだからだ。そして、そんなムルーの前に現れたのがルパンであった。
 
 

2.人魚の居場所

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ムルー「やっぱり、あの人とマダムじゃ釣り合っていないものね……」
 
夢見がちなムルーは島を訪れていた不二子・次元・五ェ門から三角関係の妄想を繰り広げるが、ルパンにだけはそうしたことを考えない。終盤自分が台本を書いた不二子への愛の言葉を囁かせる時も一人背景が変わったりしないことからも分かるように、ムルーにとってルパンは妄想をかき立てられる対象ではなくあくまで現実の人間として立ち現れている。しかし現実の人間として接したルパンの言葉こそは、彼女に愛についてのヒントを与えてくれるものだった。
 

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ルパン「どんなお宝よりも厄介で、挑戦し甲斐があるものさ」
 

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ルパン「とにかく愛ってやつは簡単には目に見えないんだ。川底を泳ぐ伝説のマーメイドフィッシュみたいに!」
 
ルパンの愛に関する言葉は、ムルーが書いた台本のようにキザなロマンスにあふれてはいない。しかし一方で冷たく突き放しているわけでもなく、大人が子供に説く言葉として絶妙な体温を持っている。例えて言うなら、その言葉自体に愛が込められている。
 

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©モンキー・パンチ/TMS・NTV
ルパン「よーし。お嬢ちゃんとおじさん、どっちが先に真実の愛を掴むか勝負だな!」
 
考えてみればルパンは、いやルパン三世とは常に現実に対して"妄想"を打ち立て続けてきた作品だった。不可能と思える相手に挑み、時代の変化にそぐわなくなった物語像を打ち直し、数十年エンターテイメントであり続けてきた。ムルーの突拍子もない想像は私達を笑わせずにおかないが、そういうものを失っていればこの作品はとっくの昔に泡となって消えていたことだろう。ムルーの途方も無い妄想はルパンの途方も無い盗みと同質のものであり、だからこそルパンは彼女にどちらが先に真実の愛を掴むか勝負だとライバル宣言をするのである。
 
ムルー「わたしも、お母さんやマダムみたいに格好いい女の人になれるかな?」
 
物語は最後、変わらず妄想に励みながらも未来に思いを馳せるムルーと伝説のはずの人魚を映し出して終わる。彼女が実際には何者になっていくのか誰も知らない。けれど想像した未来に彼女が手を伸ばしていくのも確かなことだろう。
人魚も愛も容易には見えない場所にいる。そして、見えない場所にこそ可能性はあるのだ。
 
 

感想

というわけでルパン三世TV6期21話のレビューでした。うわあしんどかかった。夢と現実とかあれこれ考えて書き始めては見たのですがどうも迂遠で要領を得ず、書いている内に浮かんだ結論に直行できるようばっさりやり直しました。不二子が次元や五ェ門には愛の修行が足りないというのは彼らがロマンチストかつ格好良すぎるからで、サル顔とか軟派とか言われるルパンのある種の現実味が愛の証明なのでは……とか考えもしましたが、こういうの加えてるといつまで経っても結論にたどりつけない。これまでの話とはまたちょっと違った難しさのある回だったと思います。
 
さて、話数からすると次回は最後のオムニバスエピソードでしょうか。マティアやアリーのその後も気になりますが、バラエティ豊かだったので名残惜しいですね。
 
 

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