再継承する物語――「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン」1話レビュー&感想

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©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
牢獄から始まる「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン」。1話では主人公・空条徐倫がなぜ囚人となったのかが描かれる。今回は6代目の主人公となる彼女はいったいどんな存在なのか、どんな物語をたどるのか考えてみたい。
 
 
恋人とのドライブ中に起きた不慮の事故により、窃盗とひき逃げの罪で起訴された空条徐倫。無実を訴えたものの、恋人と弁護士に裏切られ「州立グリーン・ドルフィン・ストリート重警備刑務所」に収容される。15年の実刑に絶望する徐倫だったが、父から贈られたペンダントに触れたことにより、不思議な力が目覚めていて…
 

1.受け継ぎ損ねた女

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©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
空条徐倫は一言で言って「これまでのジョジョらしからぬ主人公」だ。シリーズ初の女性主人公であり、これまでの多くのジョジョ達のように大柄ではなく、顔立ちもストレートな似方をしてはいない。また彼女は窃盗経験もある不良だが、それは第3部の承太郎や第4部の仗助のように文化的に許容されるものでもなければ第5部のジョルノのギャング・スターのような華々しさもなく、その夢のなさ故に物語は監獄一歩手前の状況から始まることになる。もちろん背中の星型の痣や卓越した洞察力などこれまでの主人公と共通する部分もあるが、留置所で自慰行為を見られたショックでベッドに頭を打ち付ける姿と英国貴族の末裔を結びつけるのはなかなかに難しい。
 
物語開始時の徐倫ジョジョらしからぬという以上に、ジョジョらしさを受け継ぎ損ねている。徐倫スタンド能力は矢の破片によって引き出された=自然には発現しなかったが、これは彼女がシリーズの伝統の継承に失敗している現れなのだ。
 
 

2.共有できない貧しさ

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©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
徐倫「あの親父を呼ぶだって?来るわけないじゃん……あいつ……あいつなんか……」
 
徐倫はシリーズの伝統の継承に失敗している。これは少し見方を変えれば、従来の主人公との共有に失敗しているということだ。父・承太郎は母と離婚している上に海洋学者として海外におり、徐倫が彼を嫌悪していることからも親子が共有する時間は非常に少なかったと伺えるのだから当然だろう。
 

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©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
弁護士「感謝は君の金持ちの父上にするんだね」
 
DV被害を受けて育った子供が他に育児の方法を知るのが難しいように、共有してもらった経験に乏しい人間は自らが共有するべきものを判断する能力に乏しい。自慰行為を留置係に見られるあるまじき経験に始まり、1話の徐倫は共有に失敗してばかりだ。
愛情を共有したかったボーイフレンド・ロメオは我が身可愛さに恋人を売る軽薄な男だったし、それを見抜けなかった徐倫は彼にほだされ負わなくていい罪まで共有してしまう。また信頼し頼るべき弁護士は実はロメオの父の依頼で徐倫を罠にかけ、自分にかけられている嫌疑を正確に共有できなかった徐倫は15年収監の判決を下される有様。共有できないということは、騙され食い物にされることだとも言える。
 

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©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
エルメェス「お願いだ、その50ドルで許して。あたしには面会に来るヤツなんていないんだよ。だからその金がなくなったら中で命に関わる……!」
 
留置所で徐倫と知り合ったエルメェスは留置係に金をたかられた際「自分には面会に来てくれるような身内はいない」と容赦を乞うたが、共有する物がなく孤独に陥った人間にはただ生きるだけのことすら高いハードルの向こうに遠ざかってしまう。徐倫もまた、このままでは孤独にこのグリーン・ドルフィン・ストリート重警備刑務所で――"石作りの海"で朽ち果てるだけだったろう。
 

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©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
だが、彼女にはそれを避けるための蜘蛛の糸が一筋垂らされていた。そう、徐倫が困った時に渡すよう承太郎が託していたペンダントと、それに隠されていた矢の欠片によって発現したスタンド能力だ。
 
 

3.共有は再継承を生む

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©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT

 

矢の欠片によって発現した徐倫スタンド能力、自分の体を糸に変えて伸ばす能力だが、注目したいのはこれが遠くの言葉を聞く力として機能する点である。
徐倫はこの糸を使って今回、本来得られないはずの様々な情報を獲得していく。仕切られた運転席の会話に始まり、移送車に一人残されたエルメェスが留置係達に暴行されている様子、弁護士が自分を罠にかけたのはロメオの依頼だったという真相……本来厳重にあるいは巧妙に隠された真実は、普通の人間には見えないこの糸によって明瞭に徐倫の前に引きずり出されていく。すなわちそれは、一方的ではあるが徐倫が共有の手段を獲得したことに他ならない。
 

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©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
徐倫「これで自分の身を守れってことか、あのペンダントの意味は」
 
この糸のスタンド能力によって、徐倫はこれまで届かなかった遠くへ手を伸ばしていく。共有していく。それは理不尽な暴力に襲われる友人を救う力であったり、自らを罠にかけた悪徳弁護士に復讐する力であったり、何の説明もなく託されたペンダントがこの力で自分を守るようにとのメッセージに気付く力であったりする。
その一つ一つに触れ、共有することで徐倫は成長していくだろう。承太郎の真意に気付いたことに代表されるように、そこには今の彼女が受け継ぎ損ねたシリーズの伝統がある。ジョジョにふさわしい主人公に、徐倫は成長していく。
この物語はきっと、共有によって再び継承を行う物語なのだ。
 

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©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT
???「これ、ホント面白い……」
 
ただし、矢の欠片は素質を持つ人間であれば誰からもスタンド能力を引き出すように、この共有はけして徐倫だけが独占できるものではない。徐倫が投げ捨てたそれを拾った何者かとの戦いは彼女にそれを問う幕開けともなるだろう。およそ20年の時を経てアニメ化された本作の今後から、僕もまた多くのものを共有できることを期待したい。
 
 

感想

というわけでジョジョ6部のアニメ1話レビューでした。懐かしいなあ!劇中の舞台は2011年ですが、これ連載当時(2000~2003年)はごく近未来の時代設定だったんですよね。なんだか不思議な気分です。この物語をこうして噛み締め直す機会をもらえたのがとてもありがたい。ファイルーズあいの徐倫田村睦心エルメェスもパワフルだし、すっと連載当時の記憶が蘇ってきました。まだ発表されていない個性豊かな敵キャラクターを誰が演じるのかも含め、今後が楽しみです。
 
 

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