祝祭の薄明かり――「響け!ユーフォニアム3」5話レビュー&感想

©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

薄明かり覗く「響け!ユーフォニアム3」。5話、久美子達はあがた祭りの時期を迎える。祭りの灯り、それは久美子と麗奈が見るトワイライトである。

 

 

響け!ユーフォニアム3 第5話「ふたりでトワイライト」

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1.きれいでない合奏

サインライズフェスティバルが終了し、いよいよコンクールに向けて準備を本格化させる北宇治高校吹奏楽部。ただ、3年生である久美子には進路選択の問題も残されている。そうこうしている内に、初夏のあがた祭りも近づき……

 

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問いが重なる「響け!ユーフォニアム3」。5話は前回前々回とは少し毛色の異なる回だ。1年生の沙里や2年生の求といった北宇治高校吹奏楽部の1人の部員にフォーカスして問題が起きるわけではなく、出来事も吹奏楽コンクールに向けたオーディションをどうするかや主人公である久美子の進路、あがた祭りと多岐に渡っている。本ブログのこれまでの読み方に倣うなら、各要素が「合奏」している回、と見ることもできるだろう。そして合奏として見た場合、久美子は今回2人の人間との「合奏」の問題を抱えている。

 

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真由「ご、ごめん! びっくりさせちゃった!?」

 

合奏の問題を抱えた相手。その1人目は転校生の黒江真由である。自己認識通りイレギュラーな彼女は息を吸うように久美子と意見が食い違い、敵意がなくとも2人の間には齟齬が生じてしまう。例えば久美子達は強豪校の清良女子高校を参考に府・関西・全国の大会ごとにオーディションを行うことを決めるが、それに最も乗り気でないのはなんと清良に通っていた真由であった。また彼女は初夏に開かれる「あがた祭り」に久美子を誘うが、相当に勇気を出して言ったであろうこの誘いを久美子は先約があるからと(なんとなく)嘘をついて断ってしまう。久美子が個人練習を始めようとした瞬間に真由が声をかけてびっくりさせてしまう場面が象徴するように、2人の間にはなぜだか呼吸が合わない相性の悪さがある。

 

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麗奈「じゃあ……何を目標に生きてるわけ?」

 

嫌っているわけではないが上手く息が合わない。真由との合奏の問題は棚上げとなっているが、久美子には今回もう一人同じような問題を抱えた相手がいる。誰あろう、同じく吹奏楽部の幹部にしてトランペット担当の高坂麗奈だ。親友とも呼べる間柄の2人はもちろん喧嘩になったりはしないが、進路が問題の1つであるこの5話では彼女達の話は今ひとつ噛み合わない。子供の頃からプロ奏者を目指してきた麗奈にとって、そもそも目標自体が見えずに生きてきた(故に進路に悩んでいる)久美子の心理はおよそ想像することすら困難だからだ。

 

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秀一「それは確かに部の緊張感は保てるな」
久美子「ただ、でも……滝先生の負担が大きいかもしれないけど」

 

世の中にはおよそ様々な問題や課題が同居しているもので、敵意がなかったり距離が近くともそれらがきれいに「合奏」できるとは限らない。大会ごとにオーディションを行う新方式が部の緊張感の維持に効果的な一方、部長である久美子を始めとした幹部や顧問の滝先生に大きな負担をかける点なども一例に挙げられるだろう。だが、そもそも合奏とはそんなにきれいなものなのだろうか?

 

2.祝祭の薄明かり

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久美子「ですよね。でも本当に目標もなく決めていいのかなって……」

 

合奏はきれいなものとは限らない。奇妙なことを言っているように見えるかもしれないが、例えば2話の副題に用いられたシンコペーションは常識的な強弱をあえてずらすところに面白さがある。つまり理路整然としたきれいさを外したところにかえって音楽的美しさを見出しているのがこの技法であり、そしてそれはもちろん音楽に限らない普遍的真理でもある。今回久美子は進路二者面談で担任の松本先生から様々な助言を受けているが、「今では天職と考えている教職も、きっかけは安定のため選んだに過ぎなかった」「目標を立ててやるのもいいが大抵設計図通りにはいかない」といった先生の言葉やそれを肯定しつつも全てには納得できない久美子の姿などは「きれいでない合奏」そのものであろう。

 

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葉月「久美子は来てないよ」
秀一「お、おう……」

 

様々な問題や課題が同居する世の中は混沌としている。だが、見方を変えればそこには思いもよらぬ可能性もまた潜んでいるものだ。あがた祭りで別グループだったとして祭りの中で落ち合うこともあれば、そこに終わった恋の残滓や敬愛に留まらない感情の兆しが覗くこともある。入れ替わりで卒業・入学した吹奏楽部の生徒が互いの顔も知らぬまま出会っていることだってある*1。それは久美子と麗奈の場合も同様だった。

 

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麗奈「だって、別の大学行ったら会う理由がない限り会わなくなる気、しない?」

 

久美子をあがた祭りではなく自宅に誘った麗奈は、音楽家である父の自宅のスタジオに久美子を誘い一緒にコンクールの自由曲を演奏しようと言う。以前真由と一緒に吹いていたのだから自分とも吹けるでしょ、と。「以前」のケースでは本来ユーフォを担当する真由が麗奈のトランペットパートを代行していたことを踏まえれば、ここにはある種の嫉妬が見え隠れする。また麗奈は前から久美子に音楽大学への進学を積極的に勧めていたが、今回明らかになったのは、彼女は別の大学に進めば今のように会えなくなるのではと懸念してそんなことを言っていた「かわいい(by久美子)」事実であった。普段はクールに振る舞っている麗奈のこうした子供っぽさは「きれい」ではもちろん無い。だが、その両方が混ざっているところに「合奏」的な――音楽にも似た美しさは宿っている。

 

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麗奈「私、全国で久美子とこのソリを一緒に吹きたい」
久美子「私も」

 

久美子と麗奈(そして副部長の秀一)がコンクールの自由曲に選んだ「一年の詩」には、麗奈が担当するトランペットと久美子が担当するユーフォニアムの合同ソロパート(ソリ)が含まれている。彼女達はあくまで全国大会で金賞を取るためにこの曲を選んだのだが、スタジオで一緒に演奏して二人が感じたのは「全国でこのソリを一緒に吹きたい」というごく個人的な欲求……目標であった。もちろん、そんな願いを他の部員の前で口にすることはできない。幹部の言動として見ればこれは邪に過ぎる。けれど、このきれいでない願いあればこそ彼女達がより必死に練習に励むであろうことも事実だ。その小さな目標はきっと、大会ごとのオーディションがそうであるように大きな目標への飛び石になる。久美子の進路にも、彼女と麗奈の卒業後の関係にも繋がっていく。

 

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久美子「記念かな、高校最後のあがた祭りの」

 

全国大会金賞、進路、そして麗奈と一緒に全国でソリを吹くこと。あがた祭りで久美子が持ち帰った金魚が3匹目であるように、これら3つはけして衝突も矛盾もしない。様々なものが混ざり合うお祭りのような5話で、久美子が見つけたそれらの同居こそ今回の一番の合奏――祝祭の薄明かりトワイライトなのである。

 

感想

©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

以上、ユーフォのアニメ3期5話レビューでした。まとめるのが手強くなってきたな! 要素を拾うのと副題の意味を満たすのを並行すると負担が大きくもあり、緊張感が維持できるのもあり。小笠原先輩と中世古先輩の再登場がニアミス的なのがまたなんとも。
何を今更という話ですが、高校生活というのを改めて感じた回でした。さてさて次の曲は。

 

 

 

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*1:この状況に今はカメラマンという形でしか混ざれない真由……