春夏秋冬のシンコペーション――「響け!ユーフォニアム3」2話レビュー&感想

©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

選択の「響け!ユーフォニアム3」。2話では久美子達がコンクールで演奏する自由曲を決める。だが、彼女達が決めたのはただの曲目ではない。

 

 

響け!ユーフォニアム3 第2話「さんかくシンコペーション

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1.3で作られた2話

土手に響く謎のユーフォニアムの正体は、福岡からやってきた転校生・黒江真由であった。吹奏楽全国大会常連の強豪校からやってきた彼女を加えた北宇治高校はサンライズフェスティバルの練習と共にコンクールの準備を始めるが、久美子達は顧問の滝先生から課題曲はどれがいいか意見を求められ……?

 

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麗奈「たぶん、この3人だからだと思う」

 

曲選びの「響け!ユーフォニアム3」。2話は目標であるコンクールで演奏する自由曲を決める回だ。これまでは顧問の滝先生が決めていたが、今年は候補曲3曲の中から部長の久美子、副部長の秀一、ドラムメジャーの麗奈の3人が事実上決定することとなった。選曲を任された理由を麗奈は「この3人だから」と推測しまたそれぞれ選んだ曲が一致していた点から、この2話が久美子達3人での選択を1つのゴールとして設定しているのは明白であろう。曲を決める少し前、久美子は部員である釜屋姉妹のトラブルで自分が部長に向いていないのではと悩んでいたが、「1人で部長ができなくても、3人なら」という話としても受け取ることができる。ただ、今回描かれている「3人」はけして吹奏楽部の幹部3人だけではない。

 

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例えば前回のラストで現れた黒江真由という少女の正体は久美子達の通う北宇治高校への転校生であったが、北宇治には既に2人のユーフォニアム奏者がいる。3年の久美子、そして2年の奏……すなわち真由を加えれば「3人」だ。また吹奏楽部の新入生はパートごとに分かれて加入しているが、久美子達の低音パートに加わったのもまた釜屋すずめ、上石弥生、針谷佳穂の「3人」。久美子達幹部に限らず、この2話は様々な「3人」によって構成されていると言える。

 

2.3人は予想を裏切る

「3人」とは不思議なものだ。2人の場合それは1対1でしかなく、その関係性は良くも悪くも安定している。1人なら尚更だろう。だが3人の場合各人は常に2人を相手にすることになるから、自然そこには1人や2人とは異なる姿が見え隠れしていく。

 

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久美子「わざわざ上がってこなくても、下から言ってくれればいいのに」
奏「いえいえ、そばに私がいなくて先輩が寂しいかと思いまして」
真由「そうなの?」

 

変化の1つとして分かりやすいのは、2年の奏であろう。昨年1年を通してからかうような口ぶりながらもすっかり久美子に懐いた彼女は、2人でユーフォをやると思っていたところに現れた転校生という変化球に警戒することしきりだ。久美子が来るまでの間に真由の事情調査をしようとしたり、久美子と真由が二人で話していれば割って入ったり……真由の加入で人間関係がどうなるか気が気でない彼女の様子は、「これ以上久美子先輩の胃をいじめるのはかわいそうですし」などと笑顔で語っていた前回とはいささか異なって見える。

 

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すずめ「なーんだ、最初からそう言ってくれればいいのに」
つばめ「だから!」

 

また1年生の1人であるすずめはこれまでは弥生や佳穂との仲良し3人組でコミカルな様子を見せていたが、久美子は今回彼女の別の一面を知ることとなる。すずめは姉にしてパーカッション担当のつばめが大好きなあまりに暴走しがちなところがあり、近々行われるサンライズフェスティバルでつばめがカラーガード(旗係)を担当するのは嫌々やっているに違いないと久美子に直談判してきたのだ。真由の加入で変化した奏の場合と逆に、すずめの場合は友人との3人組がその危うさを上手く隠してくれていたと言えるだろう。

 

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麗奈「気づいてないの、久美子にプレッシャーかけることにしかならないの? 『部長として信頼されてる』なんて」
秀一「それがなんでプレッシャーになるんだよ?」

 

3人であることは人を変化させる。これはもちろん久美子、秀一、麗奈の3人がもっとも顕著で、この3人の中で人間関係の調整を行っているのは意外にも(と言ったら怒られるだろうが)麗奈だ。幼馴染にして元恋人(それも喧嘩別れしたわけではない)ですらある久美子と秀一はなまじな近さ故にかえって心の通わない部分があり、それを補正するには麗奈の存在が欠かせない。麗奈は麗奈で2人の間を取り持とうとする中で久美子が秀一を好きになった理由をなんとなく理解することにも繋がっており、直接話しているのは2人の時であろうと「3人」であることが彼らに変化を、「らしくない姿」をもたらしているのだ。そしてこの「らしくない姿」は今回の副題と密接な関係を持っている。

 

3.春夏秋冬のシンコペーション

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2話の副題は「さんかくシンコペーション」である。シンコペーション(切分音、切分法)とは、弱拍と強迫のパターンを変えて演奏することで、その肝は聴衆の「予想を裏切る」ところにあるらしい。どこが弱拍でどこが強拍かは流れで本来決まっているところ、それを裏切ることで新鮮な感覚がもたらされる――人間関係に置き換えて考えるなら、予想を裏切るとは「らしさを裏切る」ことであろう。ここで彼女ならこう言うはず、彼らはこう行動するはず……そういう「らしさ」を登場人物が裏切る姿に、思いもよらぬ物語を感じた経験は多くの人が覚えがあるはずだ。ただ、もちろんそれは単に予想外であればいいわけではない。十分な説得力が、上手さがなければその意外性に私達は騙されることができない。そして、この関係性は実はコンクールの自由曲選びと大きな重なりを見せている。

滝先生が提示した候補曲とは「雨夜の月」「蜉蝣奇譚」「一年の詩~吹奏楽のための」であったが、この3曲についての麗奈の評は以下のようなものだ。

 

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麗奈「『雨夜の月』か。物語性が強くて表現力が求められる」
久美子「うん……」
麗奈「『蜉蝣奇譚』は技術力が求められるし、『一年の詩』はその両方。どちらが欠けても貧相なものになる」

 

そして、久美子達が選んだのは表現力と技術力の両方が求められる「一年の詩~吹奏楽のための」であった。そう、この曲が必要とする表現力(物語性)と技術力とはすなわち、シンコペーションにおける「予想を裏切る展開」「それを納得させる上手さ」と同じものだ。本作において「一年の詩~吹奏楽のための」は曲自体がシンコペーションの象徴である。そしておそらく、滝先生は久美子達がこの曲を選ぶことを最初から予想していたのではあるまいか。決定ではなく選ばせる・・・・・ためにあえて「3曲」を提示したのではあるまいか。

 

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滝「分かりました。では今年の課題曲は『スケルツァンド』、自由曲は『一年の詩~吹奏楽のための』に決定します。いいですね?」
久美子・秀一・麗奈「はい!」

 

報告を受けた際、滝先生は「いいですね?」と念を押した。これはつまり前回の――いや1年前、2年前の「皆さんは今日、今、目指すと決めたんです」と同じことだ。この瞬間久美子は、吹奏楽部最後の1年間を「シンコペーション」的に過ごすと宣言したと言ってよい。「サンフェスが終われば依頼演奏に学内行事、コンクールの練習に合宿の段取り」という大変ではあるが決まり切った1年を、これから久美子は裏切っていかねばならない。いや、裏切ってかつそれに説得力を持たせなければならない。でなければ「一年の詩」は、いや、久美子達の一年という詩は全国大会金賞を取るだけの「演奏」たり得ない。だが、久美子達はそれを自分で選んだ。コンクールに一番相応しい曲だと、自分達で選んだ。
久美子達3人が今回決めたもの、それはただの曲目ではなく自分達の一年そのものだ。これから過ごす春夏秋冬、その全てが私達の前で演奏される恐るべきシンコペーションなのである。

 

感想

以上、ユーフォのアニメ3期レビューでした。3人を核にすれば描写全体をだいたい踏まえられるな、と考えながらレビューを書き始めたのですが、書いている内に「予想外になるのは個々人に留まるわけじゃないな!」と思い至ってこんな内容になりました。これからの試練が相当に厳しいんだろうなと勝手に想像して既に胃が痛くなっております。麗奈の「やっぱりお尻濡れちゃったじゃない」みたいに笑えるシンコペーションもあったにはありましたが。さてさて次の曲は。

 

 

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