不協和音はどこで鳴る――「響け!ユーフォニアム3」6話レビュー&感想

©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

奏でる「響け!ユーフォニアム3」。6話では副題通りディゾナンス=不協和音が鳴り響く。だが、それは吹奏楽部の中で鳴っているのではない。

 

 

響け!ユーフォニアム3 第6話「ゆらぎのディゾナンス」

anime-eupho.com

1.悲喜こもごもという調和

季節は夏を迎え、コンクールメンバーを決めるオーディションの迫った北宇治高校吹奏楽部。しかし、真由は相変わらずオーディションに自分が参加することに消極的で……

 

©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

滝「では、次にソリのパートを」

 

不調和の「響け!ユーフォニアム3」。6話の副題は「ゆらぎのディゾナンス」であり、dissonanceは不一致や不協和音を指す。吹奏楽コンクールのためのオーディションが行われる今回の話にはぴったりの副題と言えるだろう。今年は地区大会・関西大会・全国大会それぞれでオーディションをやり直すからまだチャンスもあるとはいえ、選ばれた者と選ばれなかった者で部内は悲喜こもごもだ。……ただ、それは本当に不協和音なのだろうか?

 

©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

オーディションが演奏者の選抜である以上、そこに採否が発生するのは必然だ。誰もが合格ではやる意味がなく、ドラマやアニメの受験話がそうであるように採否には必ず喜びと悲しみが同居している。昨年に続き選ばれなかった2年生の鈴木さつきや3年生にして初めて選ばれた加藤葉月の姿に私達が大きく感情を揺さぶられるように、オーディションに伴う悲喜こもごも自体は不協和音どころか極めて協調の取れた演奏・・ですらある*1

 

©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

美玲「はっきり言って、さつきが落ちる理由が分かりません」

 

本当に不協和音が生じるのは、判定基準に納得がいかない時だ。現実なら例えば就職氷河期の時代にまま見られた採用の絞り込みや試験自体の不実施、例えば医大でこっそり行われていた女子受験者の一律減点。判定する者やルールに不信感を抱いた時、人の心には結果に納得できない気持ちが生まれる。6話では2年生の鈴木美玲が主人公にして部長の久美子にオーディション結果への疑問を投げかけていたが、筋が良いとはいえまだ演奏の基本も覚束ない1年生(釜屋すずめ)が2年生(鈴木さつき)を押しのけて選ばれたのを不自然に感じるのは当然のことだろう。

 

©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

久美子「私も意外だとは思った。けど、滝先生は常に全体を見てどうすればいい演奏になるか考えてると思う。私はその判断を信じるべきだと思ってる」

 

それでも、美玲の「不協和音」は一旦は止む。彼女は久美子を信頼しており、その久美子が選抜を行った顧問の滝先生を信じるべきだと思うと言うからだ。しかし実のところ、これは不協和音の停止ではなく移動に過ぎない。実のところ久美子もすずめの何がさつきに勝っているのか説明できておらず、つまりこの結果に納得していないからだ。そう、この6話、不協和音は吹奏楽部ではなく久美子の心の中で鳴っている。しかも、鳴っているのはオーディションの結果に限った話ではない。

 

2.不協和音はどこで鳴る

副題が示すように、この6話は不協和音を巡るお話である。加えて難しいことに、不協和音は単純に調和が取れれば鳴らないわけではない。

 

©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

梓「私も音大目指してはいるけど、あの子みたいにその先のことなんてそこまで本気で考えてないよ」

 

オーディションの少し前のある日、久美子は同じ中学校から立華高校に進学した佐々木梓と再会する。彼女が音楽のレッスンに通う途中だったのもあって自然と話題は高校卒業後の進路の話になったが、久美子が驚いたのは音大を受験する梓が必ずしもプロの演奏者を目指しているわけではないことだった。

これまた中学を同じくし音大を志望する高坂麗奈がプロのトランペット奏者へ一直線なのに比べれば、梓の進路選択は不調和・・・にも思える。けれど彼女は言う。高校を卒業してばっさりと音楽をやめてしまう方が怖いし、続けていれば何かやりたいことに変わっていくのかも……と。これはこれで調和の取れた考え方で、つまり梓の選択は一見不協和音のようだが長い目で見ればそうではない。協和音か不協和音かがスパンや視座によって変わるというのは、目の前のことで精一杯の久美子にとっては思っても見ない発見であった。

 

©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

「私からしたら、音楽に関わってない久美子は想像できないけど」……そう言って梓は去っていく。彼女との再会はおそらく、久美子の進路選択に大きな示唆を与えるだろう。だが、彼女が見せた協和音と不協和音の変化は必ずしもいいことづくめではない。不協和音が視座次第で協和音になるのなら、逆もまたしかりで協和音も視座次第で不協和音になりかねないからだ。

 

©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

練習を終えて音楽室の鍵を返す際、久美子はつい滝先生にオーディションの選考基準について尋ねてしまう。返ってきた答えは、未熟なすずめが選ばれたのは音量の大きさが全体のバランスを考えた際に魅力的だったから――つまり個人としては不調和でも、全体に調和をもたらせるからというものだった。「高音域など難しいところは、吹かないでもらえばいいだけですし」とも滝先生は言った。びくんと震える手の動きが示すように、これは久美子にとってショックな言葉だったことだろう。彼の示した基準は、極言すれば「全体として上手く聞こえるなら、個々人はいくら下手でも構わない」と言っているに等しい。ならば自分達はなぜ毎日練習しているのか。一人ひとりが上手になる意味はあるのか。……久美子の中に湧き上がっただろう疑問はすなわち、不協和音である。

 

©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

真由「ごめん、邪魔だったよね」

 

©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

真由「ごめん、邪魔だったよね」

 

滝イズムをほとんど内面化していたはずの久美子の中に生じた、指導方針への疑問。それに加えて、久美子にはもう一つ「不協和音」をもたらす相手がいる。この春、吹奏楽の強豪校である清良女子高校からユーフォニアムを携え転校してきた同級生の黒江真由だ。

 

©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

高い演奏技術を持ち、同時に北宇治の文化に染まっていない真由は久美子にとってほとんど無意識の部分で衝突を――すなわち調和も不調和も引き起こす存在である。新参者の自分がオーディションで他の人間を押しのけて軋轢を生むのを恐れる彼女の姿勢に久美子は困ってしまうし、一方でそれでも彼女がオーディションで手を抜かない姿を見れば(聞けば)久美子は触発されもする。けれど真由に自分の縄張りを荒らされるような警戒感を抱いているのも否定できず、つい彼女と距離を取ってしまう……部長としても人間としても大きく成長したはずの久美子はしかし、真由を前にした自分にどうしてもぎこちない不協和音を感じずにいられない。

 

©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

久美子「北宇治ファイトー!」

一同「おおー!」

 

「これから、問題も必ず起きるだろう。でも信じて、目指す目標に向かって吹き続けるしかない」、久美子は己にそう言い聞かせて不協和音を抑え込む。部長である自分がそれをあふれさせてしまえば、吹奏楽部全体が調和を失いかねない。だが、だからといってこれは一人の胸の中にずっとしまっておけるようなものでもないだろう。結局のところこれは、久美子の問題であると同時に吹奏楽部全体の問題である。
この6話、不協和音は吹奏楽部ではなく久美子の中で鳴っている。だが、北宇治の象徴ともなった彼女の不協和音とはすなわち、北宇治高校吹奏楽部全体が奏でる不協和音に他ならないのだ。

 

感想

以上、ユーフォのアニメ3期6話レビューでした。放送直前に5話を見返して「金魚は年数=3匹=3年の証だったのでは?」と思い浮かんで動揺してしまったのですが、今回の話についてはあまり迷わずレビューを書くことができました。真由が久美子に近づこうとする場面、久美子が感じる「踏み込まないでほしさ」が画面に現れていて恐ろしかったな。さてさて、残り2回のオーディションではどんな変化があるのか。次の曲を聞くのもおっかなびっくりです。

 

 

<いいねやコメント等、反応いただけると励みになります>

*1:もちろん、当事者にすればそんなふうに「楽しまれる」のはたまった話ではないだろうが