Re:大戸アイはなぜオッドアイなのか――「ワンダーエッグ・プライオリティ」特別編レビュー&感想

f:id:yhaniwa:20210703224701j:plain

©WEP PROJECT
美麗なデザインとえげつない展開で話題を呼んだ「ワンダーエッグ・プライオリティ」。第1話で僕は主人公のアイがなぜオッドアイなのかを軸にレビューを書いた。最終回となるこの特別編でも、それについて改めて書いてみたい。
 
 
 

ワンダーエッグ・プライオリティ」 特別編 「私のプライオリティ」

エッグの世界でのミッションをクリアし、現実世界へと戻ってきたアイ。
そんなアイにペットのアダムを託したねいるは、その日を境に連絡が取れなくなってしまう。
ねいるを心配したアイは、田辺のもとを訪れるが……。
沢木から明かされる小糸の自殺の真相、ミッションクリアを経て、少し変わってしまった世界に戸惑うアイ、リカ、桃恵。
様々な思いが交錯する中、アイは――。

公式サイトあらすじより)

 

1.振り返るは馬鹿げた戦い

大戸アイがオッドアイなのはきっと、見て見ぬ振りをされ隠されてきたものを見るための、そして私達に見せるための瞳だからなのだ。
 
 
1話レビューでアイのオッドアイの理由について、僕はこのように書いた。ではその隠されてきたものとは、彼女が私達に見せてきたものとはなんだったのだろう? それを解き明かすためにまず、本作がどういう内容であったかを振り返ってみよう。
 

f:id:yhaniwa:20210703224831j:plain

©WEP PROJECT 「ワンダーエッグ・プライオリティ」1話より
「夢の中で卵を割って出てきた少女を敵から助け続ければ、自殺した大切な人を取り戻せる」……これが本作でアイ達が挑んだミッションだが、文字にすると改めてはっきり見えるものがある。「馬鹿げている」ということだ。
 
夢の中の戦いで現実が変わる?夢の中では無敵だけど現実にダメージは負う?卵から現れた少女は結局消える?それを何回繰り返せばいいのか?そもそもそんな方法で人が生き返るのか?
 
シチュエーションも勝利条件も労力や危険もメチャクチャだし、案内人となるアカと裏アカもどう考えたって怪しい。警戒して挑まないのが現実的――大人の判断というものだろう。こんなものに挑むのは1話の副題通り「子供の領分」である。そして既に明らかなように、この警戒感は全くの正解であった。
 
 

2.解決しない問題が示すもの

f:id:yhaniwa:20210703224904j:plain

©WEP PROJECT 「ワンダーエッグ・プライオリティ」11話より
物語が進む度、エッグを巡るこの戦いは奇妙な内実、すなわち現実を抱えていることが明かされていった。突如現れパニックや万年を惨殺したハイフン達、それに指示を出すAI少女フリル、フリルを作ったアカと裏アカの事情、エロスの戦士、パラレルワールド……アイ達が身を投じた戦いの内実は、ただ1人の相手を救う動機からはかけ離れている。
 
そして「これだけ広げた風呂敷をどうやって畳むのか?」という私達の疑問に、この特別編は驚きの答えをもって回答してきた。そう、これらは何一つ解決されることはなかったのだ。アイが再び戦うことを決めたからには解決はするのかもしれないが、物語が終わった以上それはあくまで可能性でしかない。
 

f:id:yhaniwa:20210703224934j:plain

©WEP PROJECT
「メチャクチャな戦いにはメチャクチャな内実があってメチャクチャな相手がいました。そんなもの子供がホイホイ解決できるわけがありません」……本作のあらすじを本当にあらっぽく書けばこうなるだろう。馬鹿げているほど非現実的な設定の本作が示したのはむしろ、馬鹿げているほど(ひどいと言われてもおかしくないほど)"現実"的な物語だったのである。
 

f:id:yhaniwa:20210703225059j:plain

©WEP PROJECT
先に示したように、この特別編はこれまでの物語で明かされた現実的な問題を一切解決していない。どころか、現実的な問題を更に複雑化すらする。小糸を始め確かにアイ達の大切な人は生き返ったが、彼女達の復活と整合性を取るため世界にはノイズが入り、小糸はアイのことを覚えてもいない始末。更にはねいるが実はフリル同様のAI少女だったことも明かされる。
 
ミッションクリア報酬の実情と友人の正体という内実、すなわち"現実"。多少体が鍛えられていようが一介の少女に過ぎないアイ達が覆すには、それはあまりに大き過ぎる。もう傷つきたくない桃恵の思いも、大切な人にやはりもう一度は会えないことやねいるの正体にリカやアイが打ちのめされてしまうのも当然だろう。その結果、彼女達の関係が自然消滅してしまうこともまた。
 
 

3.パラレルは択一

f:id:yhaniwa:20210703225203j:plain

©WEP PROJECT
寿「わたしは死んでないよ。この世界のわたしが死んだからこっちに来たんだ、二人同時には存在できないからね」
 
真相を語るべくアイ達の前に現れたパラレルワールドの寿は、パラレルなものは同時には存在できないと言う。それは人と人の関係においても同様で、生き返った小糸達はかつてのアイ達のポジションに別の人間、すなわちパラレルなものを据えている。ねいるに至ってはその正体自体が妹のアイルのパラレルで、彼女を生き返らせたために自分の居場所を失ってしまった。
 
パラレルなものが挿し込まれてしまえば、そこにあったものはもう存在できない。例えば桃やリカにとっては「大切な人を生き返らせたい思い」のパラレルな存在が「恐怖」や「憎しみ」で、それを挿し込まれた二人は戦う意思や資格を失ってしまった。
 
この特別編で、物語全体に挿し込まれていくのは"現実"である。事態の複雑さ、ままならなさといったものが容赦なく少女達を苛んでいく。他のものなど入る余地は無いのだと、打ちのめしていく。だがそうやって現実が挿し込まれるということは、同時に現実もまたパラレルな存在を持つことの証明に他ならない。
現実のパラレルは何か?考えるまでもない。"夢"だ。
 
 

4.Re:大戸アイはなぜオッドアイなのか

f:id:yhaniwa:20210703225223j:plain

©WEP PROJECT
ねいるに関する田辺の話からもねいるの電話からも逃げ出し、編入して新たな学校生活を送っていたアイは再びエッグを巡る戦いへ身を投じる。それを決めた瞬間の彼女の思いは言葉にされないが、明白だ。彼女が耳にした「夕方から雨が降るが天気は快晴」という言葉も、それを聞いた駄菓子屋の前という場所も、ねいると最後に言葉を交わしたあの日と同じもの――パラレルだった*1
 

f:id:yhaniwa:20210703230323j:plain

©WEP PROJECT
はっきり言えば馬鹿げている。場所も言葉もただの偶然に過ぎないし、打ちのめされた複雑な背景は何も変わっていない。一度逃げ出した自分をねいるが待っていてくれる保証はどこにもない。現実的に考えて馬鹿げている。だが馬鹿げているのは――夢のようなのは、小糸を生き返らせる戦いに身を投じた始まりの時からそうだったはずだ。いや、馬鹿げていなければ夢ではなく、夢でなければ現実には対抗できない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。生半可な現実の解決がないからこそ、ここでの終わりに価値がある。
 

f:id:yhaniwa:20210703225314j:plain

©WEP PROJECT 「ワンダーエッグ・プライオリティ」1話より
裏アカ「夢じゃ駄目か?」
アカ「現実の方が良かった?」

 

アイは最初から、馬鹿げた現実の中にそれに匹敵するほどの馬鹿げた夢を見ていた。色の違う両の瞳は、現実だけを見なければならない世界でそれを覆し得る夢をも見ていた。
 
話を最初に、一番の問題に戻そう。
大戸アイはなぜオッドアイなのか?何を見るためにその瞳の色は違うのか?――それは、現実とそのパラレルたり得る夢を見るためにあったのだ。
 

f:id:yhaniwa:20210703225340j:plain

©WEP PROJECT
アイは再びこの馬鹿げたこの戦いに挑む。夢が現実のパラレルとなったように、ねいるは小糸のパラレルとしてアイを再起動させる。それこそは大戸アイの"復活"なのである。
 
 

感想

というわけでワンエグ特別編のレビューでした。忙しかったのもありますがお手上げ感も強く、ウンウン悩むことに。今回は「イマワノキワ」のコバヤシさんの感想ツイートに大いにヒントをいただきました。こちらをパク……もとい自分の中で整合性がつくように焼き直したのが本レビューになります。
 
「いわゆる考察」を全力で置いていく終わりにびっくりしましたが*2、これはこれでいっそ痛快かもしれない。1話がねいるとの出会いで終わってたの、展開を急いでいるのではなく必然だったんだなあ。
レビューを1回お休みしたりもして悩んだ作品でしたが、見てよかったと思います。スタッフの皆様、お疲れさまでした。
 
 

<いいねやコメント等、反応いただけるととても嬉しいです>

*1:そもそも雨天と快晴がパラレル(択一)だ

*2:2話で僕が書いた小糸像への疑念もはっきりとは回答はない