お揃いは誰の色――「ワンダーエッグ・プライオリティ」9話レビュー&感想

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「友達」を描き続ける「ワンダーエッグ・プライオリティ」。9話、ねいるの家に遊びに行ったアイ達は皆で皆にネイルを施す。人差し指だけ違う色でお揃い――それは誰の色だろうか?
 
 

 

ワンダーエッグ・プライオリティ 第9話「誰も知らない物語」
 
ある日、会社に住んでいるというねいるの元に遊びに行くことになったアイたち。
ねいるはそこで、阿波野寿という少女を紹介する。
彼女はとある実験をきっかけに永遠に眠ったままになっていた。
そんな寿の状態を認められずにいるねいるだったが、そんな彼女を愕然とさせたのは、エッグから現れた寿の姿だった。
寿がねいるに託した最後の「願い」を巡り、4人はすれ違い……。

 

 
 
 

1.お揃いの指は1本

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寿「神を信じられない科学者は無能よ?」
ねいる「わたしは根っからの科学者じゃない。知ってるくせに」
寿「もちろん。ただの意地悪さ」

 

今回はねいるの友人として、阿波野寿という少女が登場する。ねいる同様にプラティなる団体の人工授精で生まれた天才の彼女は、ねいるに最も近い存在と言っていいだろう。
が、エッグの夢などを通して見えてくるのはむしろ二人が大きく違うことのほうだ。アルビノで奔放で根っからの科学者の寿は終始ねいるを振り回すし、彼女といる時のねいるは感情的で別人のよう。"ネイル"に重ねるなら、二人の指は4本までは違う色をしている。
 
けれど一方で、寿はねいるのことをよく理解している。自分の望みを察せないほど鈍くはないと、口に出したなら必ず実行すると知っている。だから自分にはできない自分の望みを託す。指1本分だけはやはり、二人はお揃いの色をしている。
 
 

2.お揃いの色は誰の色

臨死実験で植物状態に陥り、もはやエッグによっても蘇らない自分を、政府の実験体にされる前に死なせてほしい。寿の願いを果たそうとするねいるを、リカや桃恵は止めようとする。そこにあるのは指4本分の色の違いだが、逆に言えば二人がねいるを止めようとするのは1本分はお揃いの色だからでもある。
 

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桃恵「そりゃ友達だから、もしそんなことをしてあなたがトラウマっていうか、ひきずるっていうか」
 
ここで見える"お揃い"は、単に気が合うというのよりもう少し先にある。二人は嫌なのだ。ねいるが心の傷を抱えるのが「我が事のように」嫌で、ねいるが傷つくことによって二人もまた傷つくのだ。
 
 

3.あなたの色だったもの、私の指に残ったもの

本レビューの始まりでは僕は、お揃いの人差し指の色は誰の色かと問うた。答えるならそれは4人の誰の色でもあり得て、そして誰か1人だけの色ではない。
誰かとお揃いの部分、気の合う部分は互いに影響し合って互いを変えていくものだ。元は"あなた"だったものが私になっていくとも言えるし、私だったものが"あなた"になっていくとも言える。
 

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アイ「でも、ホント分からない。それって、ファンタジー
 
私かもしれない、私ではないのかもしれない。人と付き合うとは、友だちになるとは、そういう揺らぎの中に身を置くことだ。パラレルな可能性を受け止めることだ。
 
それは自分を不安定にするが、救ってもくれる。アイが小糸としたコックリさんで、コインを動かしたのが誰か分からないように。リカや桃恵にはねいるを直接救えなくても、意地を張っていることは察したりアイに託せはするように。アイとねいるが二人で同時にスイッチを押せば、寿の生命維持装置を止めた苦しみを確実な一人で負わずに済むように。
 

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お揃いを持った片割れが失われたとしても、それは消えない。ねいるが持ち出す寿の蔵書は、指1本分のお揃いを通して寿から託されたものの象徴だ。かつて間違いなく私ではなかったものの、これからきっとまた、お揃いとなった誰かに託していくものの象徴だ。「死の誘惑」の正体のヒントに限らず、それは残っていくのである。
 
 

感想

というわけでワンエグ9話のレビューでした。友達ができた先の話という感じで、後半らしさを感じます。ねいるがいじらしくてまあ。そしてアイが本当に優しくてまあ。納得の方法だけど普通思いつかんぞ、こんなの。一緒に死んでくれって頼まれても構わなかった後悔が残ってる。
謎の真相も明らかになり始めましたが、いったいどんな結末が待っているのでしょうね。