それはそれ、これはこれ――「ワンダーエッグ・プライオリティ」5話レビュー&感想

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©WEP PROJECT

秘密と危険は友情のスパイス、「ワンダーエッグ・プライオリティ」。ねいるに助けられた少女・綾香は、自分のためではないという言葉を受け入れつつも嬉しかったという。「それはそれ、これはこれ」――この5話はその強さと重さを描くお話だ。
 
 

ワンダーエッグ・プライオリティ 第5話「笛を吹く少女」

エッグをきっかけに出会い、友情を深めていくアイ・ねいる・リカ・桃恵の4人。
日々戦いに臨む4人の中でも、ねいるは人一倍多くの戦いに身を投じ、様々な思いを抱えた少女たちと出会ってきた。
物事を冷静に、論理的にとらえてしまうため、彼女たちの思いをうまく理解できずにいたねいる。
ある日、ねいるはリカ・桃恵と共にアイの家に遊びに行くことになるのだが……。

 

 

1.アイ達が得たかけがえのないもの

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エッグを通じて出会ったことは、アイ達を強く結びつけている。秘密の共有は仲間意識を強める大きな要素だ。他人に話せないものを共有しているから、他人に話せないことを話せる。自分の秘密も、吐き出せなかった思いも、素直な言葉も。遊んでいる時のアイ達の表情は豊かで、幸せと救いに満ちている。彼女達が素晴らしい関係を得たことは誰も否定できない事実だろう。誰かを失った痛みと後悔から始まったものだとしても、今ここにあるのがかけがえのない関係であることは確かだ。
では、そのきっかけと今の関係のどちらかを天秤にかけろと言われたら?
 
 

2.新しく得た幸せは、残酷な選択に耐え得るか

きっかけとなった過去の後悔の清算と、今の友情の継続の二択。残酷に見えるそれはしかし、常にアイ達の前に突きつけられている。エッグによる戦いは熾烈だ。夢の中では不死身でもその傷は現実にフィードバックされ、死の危険からは逃れられない。こうして今笑い合っている相手が、明日には亡骸になっているかもしれない。その危険は止めようとすれば簡単に止められるのだ。エッグさえ、買わなければ。
 

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リカ「悪役やってやってんだ、友達ならできたじゃんか!」
 
 
リカがエッグを買うのをやめようと言うのはもちろん、蘇らせようとしたちえみがどうでもよくなったからではない。アイ達が大切になったからだ。踏み込むようで遠ざける自分の天の邪鬼なコミュニケーションに、呆れながらも付き合ってくれる仲間たち。けして失いたくない相手を死なせたくないのは当然の気持ちだ。知り合ったきっかけが自分と同じように重いものと知りながら「命までかける責任は無い」と悪魔的な正論を吐くのは、まさしく天の邪鬼の彼女にしかできないことだろう。
 
リカは過去の清算と今の友情を二択にかけて、自分が泥をかぶってでも後者を提案した。感情は爆発するものと言いながらも論理的なその献身はしかし、本作の結論とはならない。
 
 

3.それはそれ、これはこれ

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過去の後悔の清算と今の友情の継続。後者を選ぼうというリカの提案をねいるは受け入れない。いや、二択そのものを受け入れない。それは彼女にとってアイ達との友情が大切でないから、ではない。過去の後悔の清算が重過ぎるから、でもない。
 
論理で見るなら、生き返らせようとしている相手への責任はねいるがもっとも軽い。なにせその相手である妹は、彼女を刺した上で橋から飛び降りて死んだのだ。妹がそんなにも強い感情を向けた理由は今は語られないが、罰と言うなら負傷でICU送りにされた時点で受けている。
ねいるは、呪いのような傷のうずきを鎮めるためエッグを買うのだと言う。贖罪などと立派なものではなく、あくまでも自分のためだと言う。冷静で論理的な彼女はしかし、ここでは感情的で非論理的な自己を表明していると言える。
 
ねいるの選択は、新しく得た幸せがかけがえがないことは否定しない。しかしそれだけで全ては完結しないことを示してもいる。「それはそれ、これはこれ」なのだ。人にも、物事にも多面性がある。利己的な少女の献身も知的な少女の愚行も、矛盾にすら思えるものは見る角度による違いに過ぎない。むしろ、そうした面の多さこそは人を人たらしめていく。
 
裏アカが言うように反抗期とは、自分のアイデンティティを作り上げる行為だ。それは自分の面を増やす行為だ。
与えられた一面に逆らうことで、人はそれとは違う面を自分の中に作り上げていく。与えられた「それ」だけではない「これ」を持つことで、己を持っていく。今回ねいるが巻き毛(奇しくもアイ達の三色と同じ配色である)にとらわれずワンダーキラーの本体を撃ち抜けたのは、それを宿していた護衛対象・葵の後悔を見抜けたのは、彼女が最初にリカの提案を振り切ったことと無関係ではないのだろう。
 

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友達はできた。けれど「その」事実は「この」戦いが不要になったことを意味しない。もちろん、その逆も。
 
 

感想

というわけでワンエグの5話レビューでした。手間取りましたがなんとか自分なりにまとめられた……7回見てようやくとっかかりが掴めた有様でしたが、その分プランニング時点での進行度は割と高めで直接書く時間自体は少なめで済みました。全体で見るとかかり過ぎの遅刻ですが。
 
小糸の死を巡る事情が今後明らかになるにあたって、アイはきっと「それ」に打ちのめされるのでしょう。対抗できるだけの「これ」を、彼女はいかに手に入れるのか。今後の展開も、安心できるものではなさそうです。