絶対≠唯一無二――「ゾンビランドサガ リベンジ」4話レビュー&感想

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©ゾンビランドサガ リベンジ製作委員会
選択を生み出す「ゾンビランドサガ リベンジ」。ライブ後、純子は愛を「絶対に」渡さないと宣言する。前回アイアンフリルの詩織はこの世界に「絶対は無い」と言ったのを思い出そう。4話レビューは、その対比から見えるものを書きたい。
 
 

ゾンビランドサガ リベンジ 第4話「純情エレクトリック SAGA」

サガに生まれた新たな戦場でフランシュシュが負ける訳にはいかない。
が、どうやらメンバーの間でまたうじうじやっとるらしい。
このままではあいつらにうじが湧きそうなので、作戦でも考えてやる。
アイアンフリルというどでかい敵に対し、こちらはどう戦うべきか。
全てをぶち壊すようなインパクト勝負でいこう。
俺は確かにそう言った。それが、何故ああなった?
―――――《巽幸太郎》の日記より
 

 

 
 

1.絶対≠唯一無二

「絶対」の意味を辞書で引いてみよう。小学館デジタル大辞泉を出典とするgoo辞書では、以下のような解説がされている。
 
 
1 他に比較するものや対立するものがないこと。また、そのさま。「絶対の真理」「絶対な(の)存在」「絶対君主」
2 他の何ものにも制約・制限されないこと。また、そのさま。「絶対な(の)権力」
3 ⇒絶対者
4 (副詞的に用いる)
㋐どうしても。何がどうあっても。「絶対に行く」「絶対合格する」
㋑(あとに打消しの語を伴って)決して。「絶対に負けない」「絶対許さない」「絶対反対」

 

意味として共通するのは、他の何かに揺るがされないことだろう。似たようなものがなく、時の移り変わりで消えもしないのが"絶対"。絶対の存在はすなわち、唯一無二の存在だ。
ただ、絶対と唯一無二は完全にイコールではない。唯一無二のものが時の趨勢に抗えず消えていくのは珍しくない。範囲としては絶対≦唯一無二であり、唯一無二はどこまで行っても絶対とは別物でしかない。アイアンフリルのリーダー・詩織が「絶対はない」と言う一方で「私達こそが唯一無二の存在」と称するのは、意識の高さだけでなく畏敬の現れでもある。詩織にとって"絶対"は別にいる――そう、水野愛だ。
 

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詩織の中で愛は"絶対"だ。幼少時目を輝かせて見つめた愛の姿は今も鮮明に残っていて、インタビューでも勧誘の時でも、詩織は彼女への敬意を忘れない。ある種の信仰とすら言っていいだろう。しかし愛が絶対なのはあくまで、詩織1人の中の話に過ぎない。
 

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ユイ「不動の伝説、永遠のセンター……アイアンフリルにとって忘れることのできない名前。すごい存在だったのは私も認める。でも、彼女は『過去』よ」
 
メンバーの一人であるユイは愛を唯一無二と認めつつも、絶対の存在とはしない。詩織自身が言ったように、アイアンフリルが目指すのは唯一無二であって絶対ではないのだ。なのに"絶対"である水野愛によく似た3号を加入させようとする詩織は、絶対と唯一無二の境を踏み越えかけているのではないか。そう懸念するからこそ、ユイは3号の加入より彼女を勧誘する詩織の方を気にするのである。
 
 

2.愛を囚える"絶対"の呪縛

前段では詩織を囚える"絶対"について触れたが、"絶対"に悩まされているのは彼女だけではない。愛もだ。
 

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さくら「大丈夫だよ、愛ちゃんがわたし達ば置いてアイアンフリルに行っちゃうなんて"絶対"なか。だって愛ちゃんはフランシュシュやし、ゾンビィやし、私達の仲間やけん」
 
さくらが指摘するように、愛がアイアンフリルに加入するのは現実的には不可能だ。幸太郎の化粧もなしに、ゾンビの体を観客だけでなく仲間にも隠してアイドル活動などできるはずもない。愛は古巣のアイアンフリルに"絶対"に戻れない――しかし、それだけで納得できるほど人の心は単純ではない。
 
フランシュシュを大切に思う気持ちは本物だが、同時に愛の中にはアイアンフリルへの思いも確かに残っている。パフォーマンスににじみ出る未練は詩織に見透かされ、アイアンフリル時代の方が良かったのではと純子に問われれば否定できない。もし、もし自分がゾンビィでなく生きた人間であったなら。
 

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愛「……10年遅いのよ」
 
かつてアイアンフリルで歌っていた自分に指名されたような錯覚を抱きながらも、愛はそのポスターに拳を突き返して返らぬ時を語る。それは誰よりも自分に言い聞かせる言葉だ。ゾンビィである自分を縛る枷は"絶対"にどうしようもないと、他に選択肢がないと自分に言い聞かせるほかに愛にできることはなかったのである。
 
 

3.自ら選ぶ意味

形こそ違えど、詩織だけでなく愛もまた"絶対"の枷に縛られている。選択肢を失っている。しかし選択肢が無いことと自分で選ばないことは本来、全く別のはずだ。
 

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幸太郎「ぶち壊せ! 輝けない自分を、諦めるための言い訳を、自分で作った枷の全てを、欲しい物があるのなら全てを壊して奪い取れ!」
 
愛の抗えぬ絶対と諦めに思い悩んでいた純子は幸太郎の叱咤に力を取り戻す。そして幸太郎の言葉通り、幸太郎の想像を超えて彼のギターをぶち壊す・・・・。幸太郎が語ったように、人が壊せるのは腕力に訴えられるものだけではない。思考を縛る枷もまた、人は壊すことができる。
 

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純子が壊したのは幸太郎のギターであり幸太郎の想像だ。つまりそれは、幸太郎が立場上どうしてもフランシュシュに課してしまう枷の破壊でもある。
ゾンビィの自分達には確かに、幸太郎のもとでフランシュシュとして活動する以外の選択肢は無いのかもしれない。けれどそれを諦めの言い訳にするのと、自ら意思を持って進むのは全く別だ。諦めで選んだ道の先に、輝きなど待っているはずがない。
 

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純子は壊したギターネックと共に、愛に「選べ」というメッセージを突きつける。諦めでフランシュシュを続けるのか、それとも望んで共に進むか選択を提示する。
彼女は愛に「私達6人には、あなたにそれを選ばせてやれる力はあるんだぞ」と挑発しているのである。
 

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だから愛は選ぶ。他に道はなくとも、それを諦めではなく自ら望んで選ぶ。その選択あって初めて7人のフランシュシュは蘇り、「目覚めRETURNER」もまた新たな姿でそれを体現するのだ。
 
 

4.蘇る"絶対"と"唯一無二"の境界線

かくてフランシュシュは蘇ったわけだが、ここでもう1つ蘇るものがある。そう、"絶対"だ。
 
詩織にとって"絶対"とは神聖にして侵すべからざる領域であり、しかし彼女はその境を踏み越えかけていた。
愛にとって"絶対"とは選択の余地を与えぬ運命に等しきものであり、しかし彼女はそれでも諦められぬ未練を抱えていた。
 
立ち入れないが踏み入りかけた絶対、逃れられないが外への思いを捨てられぬ絶対。2人にとって"絶対"とはそういう苦しみであり、だからこそ交わりかけていた。しかし純子はそこに明確な線を引く。自らのステージが愛に唯一の選択肢を提示できると考える詩織を、純子は愛の腕を引いて拒絶する。
 

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純子「3号はフランシュシュのメンバーです。絶対に渡しません!」
 
愛は既に3号として、フランシュシュとして歩むことを自ら選び直している。なら、愛の意思は守られるべきものだ。詩織が立ち入ってはならないものだと、純子はこの言葉で線を引いたのである。それは"絶対"と"唯一無二"の境界線であり、フランシュシュとアイアンフリルを分ける境界線でもあった。詩織に、踏み越えかけた一線から引かせるものでもあった。*1
 

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詩織「彼女達こそが、私達アイアンフリルにとって最大のライバルだと思っています。」
 
かくて今回の出来事を通して、フランシュシュはアイアンフリルの下位互換ではなくなった。愛にとっても、詩織にとっても。だからこそ詩織は、フランシュシュをライバルだと公言する。
"絶対"と"唯一無二"、よく似た別物を背負うからこそ、2つのグループはライバルたり得るのである。
 
 

感想

というわけでゾンサガ2期4話のレビューでした。前回書いた唯一性と代替性の反転がこんな形で行われるとは目からウロコ落ち。しかし純子の魅力に悶絶してるのになんでレビュー書くとむしろ出番が控えめになるのか。ギターネック突きつける場面の格好良さときたらもう。
 
前後編ともなるとやはり書くことが多く、疲れましたが面白いお話でした。次回はリリィ回っぽいですが、どんな内容なんでしょうね。楽しみです。
 

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はぁ、それにしてもかわいい。
 
 

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*1:詩織は幼少時に目を輝かせた愛と一緒にいられないが、愛は動画を見て惚れ惚れしてしまった純子と一緒にやっていくのも示唆的