殺し芸vs蘇生芸――「ゾンビランドサガ リベンジ」5話レビュー&感想

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©ゾンビランドサガ リベンジ製作委員会
ゾンビランドサガ リベンジ」5話はリリィと天才子役・大空ライトの対決回。今回はよく似ていると共に対照的な、二人の芸が混じり合う一瞬を描いたお話だ。
 
*「究極進化したフルダイブRPGが現実よりもクソゲーだったら」5話のレビューは日曜に更新予定です。すみません。
 
 

ゾンビランドサガ リベンジ 第5話「リトルパラッポ SAGA」

佐賀アリーナ大戦を経て、『フランシュシュ』の名も多少は全国に広まった。
身体が腐りかけのあいつらも、心を腐らせずによくやった。
たまには主導権を握らせてやるのもいいだろう。
世の中のライトサイドとダークサイドを知る良い機会だ。
わんぱくなゾンビィでもいい。たくましく育ってほしい。
アイドルとして。表現者として。
―――――《巽幸太郎》の日記より
 

 

公式サイトあらすじより)
 
 
 

1.似ているようで対照的な二人

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純子「最近、あちこちのテレビでお見かけしますよ。お芝居もお上手で、ちょうど生前のリリィさんみたいな感じです。」
 
今回のゲスト・大空ライトと、フランシュシュ6号こと星空リリィは確かによく似ている。天才子役であること、マルチな才能の持ち主であること。ライトを知らない皆に純子が生前のリリィになぞらえるのはもっともな例えだろう。しかし、似ている二人を見れば目立つのはむしろ違いの方だ。
かたや楽屋裏ではマネージャーに威張り散らす腹黒(松原おこしを葉巻の代用品的小道具に使うセンス!)、かたやどこでも天真爛漫。かたや子役の先の未来を見据えた少年と、かたや永遠に子役に留まるゾンビィ。こうした二人の対照性は、その芸風にもはっきり現れている。
 

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ライト(……計画通り)
 
ライトの芸風は「殺しの芸」だ。子供の「かわいい、ちっちゃい、いじらしい」は観客や審査員の心を射抜く"殺し文句"であり、天才子役たるライトはそれを自在に操って決勝へと歩を進める。そもそも有名人の彼がオーディション番組の地方大会に出ること自体"大会殺し"でもある。
 

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©ゾンビランドサガ リベンジ製作委員会
サキ「くそ、ちんちくりんに泣かされるなんてよう」
愛「さすが天才子役!」

 

殺しの芸で勝ち抜くのがライトならもちろん、彼と対照的なリリィの芸もそれとは対照的なものになる。"殺し"の反対は"蘇り"――予選で見せたリリィの芸は落語、江戸時代のある親子の様子を観客や審査員の眼前に"蘇らせる"ものであった。蘇りしゾンビィであるリリィの力は今回、ライトとの対決によってよりくっきりと浮かび上がってきたのだ。
 
 

2.殺し芸vs蘇生芸

殺し芸のライトと蘇生芸のリリィ。同じ決勝の舞台で対決する二人の芸風はあまりに対照的で、故に実力伯仲で競い合うような様相にはならない。先手を取ったのはライトであり、彼は当然リリィを「殺し」にかかる。
 

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ライト「かわいいだけがウリのお前は、そこで指をくわえて眺めているといいさ」
 
ライトは、凡百の子役と自分は違うと示すことで精神的に"殺す"。
 

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さくら「この歌、まさか……!」
純子「リリィさんが歌う予定の曲です」
サキ「やべえじゃねえか、それって!」
愛「この流れで同じ歌を歌ったら、完全に二番煎じ扱いされてしまう。そうなったら、勝ち目はもう……」

 

またリリィが歌う予定だった「命」を先んじて歌い、相手を二番煎じにして"殺す"。
 
ライトの芸は完璧だった。これが他の子役であったならあらゆる点で彼の勝利だったろう。ただし一点、彼は見落としている。リリィの芸は"蘇り"である。蘇りはそもそも死ななければ――"殺されなければ"始まらない。
 

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審査員「見事だよ、とっさのアレンジとは思えない完璧なパフォーマンスだった!」
 
リリィの思い出の歌であった「命」は、ライトによって確かに殺された。しかしそれをスキャットにアレンジした「リトルパラッポ」が輝くのは、「命」が殺されているからこそだ。蘇る余地などなく完璧に殺されていればいるほど、そこからアレンジによって蘇った「リトルパラッポ」は強い印象を残す。リリィが披露したのはまさしく、蘇生の芸そのものであった。
 
 

3.殺し芸と蘇生芸のマジックアワー

先の段で書いたように、ライトとリリィの芸風は対照的なものだ。リリィはライトによって殺されながらも、だからこそいっそうキラキラ輝き蘇った。ならばライトがリリィの芸から受けるものは当然その逆になる。彼は、蘇りによって殺される。 
 

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番組で地方大会優勝に選ばれたのはライトの方だったが、彼は自分がリリィに勝ったとは到底思えなかった。栄光のスポットライトはむしろ自分を世界から切断する暗闇であり、だから彼はトイレにこもらずにおられない。
 

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ライト「おれだったら無理だ……負けだ。番組では勝っても、表現者としておれは……」
 
一人打ちのめされるライトの姿には、マネージャーに威張り散らしリリィに悪態をついた腹黒天才"子役"の面影はない。ただの子供だ。ライトはリリィの芸によって己の中の子供を蘇らされたわけだが、それはライトにとっては自分を"殺された"ようなものだったのだろう。そして殺されたなら、次に来るのはやはりその逆――"蘇り"である。
 

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©ゾンビランドサガ リベンジ製作委員会

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リリィ「ライトくんは6号には絶対にないものを持ってる。だから叶えてみせてよ。その夢を!」
ライト「……言ってくれるぜ」

 

これまでも述べたように、二人の芸は対照的なものだ。番組として勝敗は決められるけれど、本質的には優劣はない。ライトが表現者として敗北したと思っても、番組で勝った業界的正当性はなんら揺るがない。
だから敗者であるリリィの言葉が、むしろ勝者のライトへの励ましにもなる。リリィの芸が「蘇生芸」だからこそ、その言葉はライトに再び生意気さを取り戻させる。蘇らせる。
 

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ライトとリリィの最初の握手は灯の下だった。二人はライバルだった。
 

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次の握手はスポットライトの光と影に切断されながらだった。ライトは勝者に選ばれながら、むしろ分け隔てられたように感じた。
 

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そして最後、ライトとリリィは拳を交わす。それは灯の下でも、光と影に分け隔てられながらでもない。黄昏時――光と影が混じり合う奇跡のような時間。対照的な二人が共にあるのは、そういうわずかな時間でいい。一瞬にも等しいその時間だけは確かに分かち合えて、だから二人は別々の方向へ歩き続けられる。
 

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リリィの道は"蘇り"にある。それを象徴するように、「リトルパラッポ」は多くの人に真似されていく。多くの人の中で蘇っていく。見た者が思わず真似せずにいられない、蘇らせずにいられない輝き。アイドルとは、トウィンクルスターとはきっと、そういうものなのだ。
 
 

感想

というわけでゾンサガ2期の5話レビューでした。アレンジって蘇りだよね、からライトの芸風をその対極に置いてみたらどうなるかな……と書いてみた次第です。アイアンフリルもそうですが、ライバルがいると物語がキュッと締まりますね。「見た目は子供、頭脳は大人」たる名探偵コナンを演じる高山みなみさんがライトを演じることもあって、非常に味わい深い内容でした。たえの表情豊かさも良かったなー。
さて、次回はそんなたえが中心の回になるのかしらん。正体に迫りそう&迫られそうでもあり、ハラハラドキドキのお話が楽しめそうです。
 
 
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