心の蘇生術――「ゾンビランドサガ リベンジ」8話レビュー&感想

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©ゾンビランドサガ リベンジ製作委員会
佐賀ではなくなっていた時期の佐賀が舞台となる「ゾンビランドサガ リベンジ」8話。今回はゾンビィは出ない。しかしそれは、蘇りと無縁の回を意味しない。
 
 

ゾンビランドサガ リベンジ 第8話「佐賀事変 其ノ壱」

佐賀が消えて、早六年。
このままでは人々の心からも消えてしまう。本当に死んでしまう。
なんとしても蘇らせねばならない。行動を起こさねばならない。
あのひとと出会ったのはそんな時だ。
私の志を素敵だと言ってくれたひと。
住む世界が違うなど、些細な事だった。
―――――『佐賀県立歴史資料館』所蔵 《ある青年》の手記より 
公式サイトあらすじより)
 

1.花魁として死に、市井の人として甦れぬゆうぎり

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女将「あたしゃ二度はごめんだけどねえ。人気があり過ぎて客の取れない花魁なんて、伝説にも程がある」
 
1期紹介時も言われたように、生前のゆうぎりは伝説の花魁である。どこが伝説なのかと言えば男だけでなく女にも大人気、客が張り合って揚げ代が天井知らずに跳ね上がり、誰にも呼び出せなくなった逸話があるほど。つまり花魁という「アイドル」の頂上に立ち、それゆえに花魁としては死んでしまったのがゆうぎりだったと言える*1。そんな彼女にとって、明治朝廷の高官である日比谷の旦那の身請けは市井の人への蘇りの機会――となるはずだった。
 

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しかしと共に佐賀へやってきて程なく、その日比谷の旦那は病に倒れ息を引き取ってしまう。遺産の一部を与えられ余生を安堵されたとは言え、縁も既知もいない土地で余生を送るさだめは喜びに乏しい。嫌いこそしなくとも、元伝説の花魁には周囲の人も遠慮し近所付き合いらしいものは生まれない。「未ダ亡クナッテイナイ人」となったゆうぎりはすなわち、生ける屍である。
死者ではない、しかし蘇ってもいない。前回さくらが恐れた「諦めてただの動く屍になっちゃう」状態は、けしてゾンビィだけに当てはまる状態ではない。
 
 

2.喜一の「蘇らせる力」とその危険性

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喜一「おお、俺はただ取り戻したいだけとさ、失われた佐賀ば!」
 
ゆうぎりの精神が動く屍であるなら、必要なのはもちろん生命の息吹だ。それを吹き込み蘇らせる存在だ。その点で、彼女が出会った百崎喜一という青年は確かにうってつけである。喜一の目的は、士族の反乱への警戒から三潴と長崎に分割され、その名の失われた佐賀を取り戻すこと――すなわち「蘇らせること」なのだから。
もっとも、そのための喜一のビラ配りははっきり言ってただの空回りだ。「佐賀を取り戻したい」とは言うが具体性はなく、本人は戦を起こしたいわけではなくとも周囲はそう受け取らない。
 

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伊東「だいたい佐賀の名を取り戻したとしてだ、その先に何がある?」
 
佐賀の名を取り戻してその先に何がある? 友人の伊東に問われても喜一は何も答えられない。あるのは愚直さだけ――本気さだけ。言ってみれば、蘇らせる力はあるがその対象が見えていないのが8話序盤の喜一だと言える。
 

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ゆうぎり「それは、とても素敵な夢でありんすな」
 
生ける屍となったゆうぎりと、蘇らせる力はあるがそれを向ける先が分からぬ喜一。凹凸のように噛み合う二人が出会えば引き合うのは必然で、それは互いに力を与えていく。踊りの弟子以外はろくな交流もなかったゆうぎりが喜一の家を訪ねたり訪ねられたりするようになり、喜一は伊東の問いには答えられなかったその先を、誰もが自分で自分の道を決め笑える佐賀の創造を目標に見出す。ゆうぎりとの出会いをきっかけに喜一が夢描いた「佐賀」は確かに、「伝説」となって死んだ花魁にすら見たいと思わせる「サガ」の地であろう。
 
しかし、喜一の「蘇らせる力」が作用するのはゆうぎりだけとは限らない。未だ荒削りな喜一の夢は、佐賀戦争のような戦を再びと願う者すら蘇らせかねない危険もまた秘めている。
果たして次回、ゆうぎり達はいかな運命をたどるのか。その死は、挫折は今のゆうぎりに何を残しているのか。彼女の核心が蘇るまでは、あともう少しだ。
 
 

感想

というわけでゾンサガ2期8話のレビューでした。喜一の立ち位置の見立てができるまでが大変でしたが、それが浮かぶと後は迷わず書けました。
 

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友人の伊東が喜一に向ける感情が色々想像を刺激して面白いですね。喜一と伊東の馴れ初めが語られる場面でゆうぎりは、伊東を警戒しつつも彼の喜一への友情自体は本物なのだと感じているように思います。伊東にとって喜一は、自分に子供のような感情を「蘇らせて」くれた相手であり、だから彼の力が具体的になって、本人にそのつもりがなくとも危険分子を呼び起こす可能性を恐れているのかな……などと。
 
フランシュシュの他のメンバーのちょい役出演も嬉しかったです。前後編ということでどうなるかなという気持ちもありましたが、今はとにかく次回が待ち遠しい。
 
 

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*1:水野愛が落雷による事故死で"伝説"と化したのにも似ている