覆せず、されど朽ち果てず――「ゾンビランドサガ リベンジ」10話レビュー&感想

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©ゾンビランドサガ リベンジ製作委員会
いよいよ復讐の始まる「ゾンビランドサガ リベンジ」。10話では駅スタの悲劇が振り返られ、その色彩をまた少し変える。「リベンジ」とは果たして何を指すのか、今回はその片鱗を見せるお話だ。
 
 

ゾンビランドサガ リベンジ 第10話「ゾンビたちはどう復讐するのか SAGA」

いつかこの時が来るとは思っていた。
中途半端な嘘や言い訳は通じない。
ゾンビィに真実など必要ない。不屈の精神があれば、それでいい。
一年前、確かに俺は間違えた。
だがあの日、あいつらを選び蘇らせたことに悔いはない。
―――――《巽幸太郎》の日記より

公式サイトあらすじより)

 
 

1.駅スタライブ大爆死をここで描く意味

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©ゾンビランドサガ リベンジ製作委員会
リリィ「お客さん、ペナルティエリア内に収まってる……」
 
今回の前半描かれるのは、2期冒頭の苦境の原因となった駅スタライブ爆死の経緯だ。幸太郎の無茶振りもさくら達の前向きさも、そこだけ見ればこれまでの話と変わらない――だが私達はこのライブが大失敗に終わることを知っている。その過去が覆し難いことを知っている。覆し難い失敗を、死を見せられるのは苦痛としか言いようのない時間である。
 

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©ゾンビランドサガ リベンジ製作委員会
さくら「わたし達、間違っとったとだ。やろうと思えばできるとよ、たえちゃんみたいに」
 
しかし一方で、この振り返りは駅スタライブ爆死の別の面にもスポットを当てる。それは、この爆死がさくら達にとって気付きの機会にもなっていたことだ。
幸太郎に蘇らせられ彼のもとで成功を収めてきたさくら達は一方、彼に頼るのを当たり前にしてしまっていた。彼がいなければゾンビィの自分達は何もできないと思いこんでいた(純子の言う「考えるのをやめていた」とはすなわち、動く屍になっていたということ)。さくら達がそれに気付けたのは、ライブの失敗で幸太郎が飲んだくれて食べ物にも困る状況になったからこそだ。
 
その気付きはもちろん、駅スタライブを成功だったと塗り替えてくれるわけではない。集客率1.66%の興行は誰が見ても否定できない、覆しようのない失敗――爆"死"以外の何物でもない。だが、かけらほどでも意義を見つけられたなら失敗はただ失敗で終わらない。"蘇る"ことができる。
 
 

2.覆し難いものに抗うには

思い返せば、この2期でフランシュシュが直面した苦難とは「覆し難いもの」の数々であった。年波に逆らえぬ番組終了のさだめ、フランシュシュ以外でアイドル活動できるわけもないさだめ、選曲が被ってしまったさだめ等など……
そしてさくら達はけして、その覆し難いものを覆せてきたわけではない。彼女達は覆し難いものを覆すのではなく、そこに新たな意味を込めることでこそ苦難に抗ってきた。
 
新たな意味を込めるとは、固定され死したものに生命の息吹をもたらすことだ。"蘇らせる"ことだ。ホワイト竜の番組を受け継ぎ、愛にやむなくではなくフランシュシュを選ばせ、歌をスキャットに変えることで、そこにあったものは死を覆されることなく蘇ってきた*1
 

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©ゾンビランドサガ リベンジ製作委員会
幸太郎「ただし!今回は前のように勢いや、己の慢心でことを進めはしない」
 
だから再び敢行する駅スタライブもまた、かつての大爆死をなかったことにしようと目論まれるものではない。爆死の過去をサクセスストーリーに組み込むとは、それを消さない前提あってこそだからだ。覆せぬ失敗や死なくして、蘇りは存在しない。
 

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©ゾンビランドサガ リベンジ製作委員会
覆し難いものに抗う力は絶対的な強さではなく、そこに新たな息吹を込める意思にこそある。徐福の話からすればさくら達の死因はけして偶然ではないが、そうだとしても彼女達の死そのものは覆りはしない。ゾンビィとなった彼女達がその人生に新たな意味を込めて初めて、復讐は果たされる。幸太郎が死者を私利私欲で利用しているという大古場の見立てもまた、改められるとしたらその否定(覆し)ではなくそれだけでない意義の発見によってであろう。
 
覆し難いものを覆すのではなく、受け入れてなお先へ進む糧へ変えること。本作のリベンジとはきっと、そういうものなのだ。
 
 

感想

というわけでゾンサガ2期10話のレビューでした。駅スタライブ大爆死までを見るのが実にしんどかったですが、そこが活かせそうだなと見立てに利用してみました。2期がどんな話なのか考え直してみるのにもいい機会となる話だったのではないかと思います。
逆の意味でできすぎなトラブルも成立させてしまうお膳立てが整った感じですが、次回これさくら達漂流でもするのかな。どうなっちゃうんでしょう。
 
 

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*1:入り組んだ話をすれば、サキ以上にさくらが泣いてサキを泣き止ませたり、ゆうぎりが喜一の絶望を責任に読み替えて再起させたのも同様であろう