一皮下の不変――「究極進化したフルダイブRPGが現実よりもクソゲーだったら」

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©土日月・株式会社KADOKAWA刊/究極進化した製作委員会
クソゲー街道まっしぐらの「究極進化したフルダイブRPGが現実よりもクソゲーだったら」。10話ではレオナがキワクエの攻略者を探す理由が明かされるが、それは彼女の印象を一変させたりしない。一皮剥いた下の本性は、案外変わらない。
*今回のレビューは飯時に読まないでください。
 
 

究極進化したフルダイブRPGが現実よりもクソゲーだったら 第10話「新たな仲間」

ついに明かされる本当の真実……!
レオナがここまでしてキワクエをクリアすることに執念を燃やす衝撃の事実が明らかに。
そしていよいよゴブリン襲来の日がやってきた。
衛兵隊にも新たな仲間が入ることになったが、それはヒロにとっては最悪のメンバーで……。

公式サイトあらすじより)

 

1.一皮剥いた下の本性1:連続性

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©土日月・株式会社KADOKAWA刊/究極進化した製作委員会
カムイ「何にでも限度ってもんがあるだろ。お前の乳は限度額超えてんだよ」
 
「やる時はやる」というのは難しい。普段出せない勇気は追い込まれた時にはいっそう出せないものだし、突如反撃のアイデアがひらめくほど皆ハンサムでもない。往々にして人は普段から本性をさらけ出しているもので、一皮剥いた下が日頃より劣ることはあっても優ることは稀だ。罵詈雑言の嵐を攻略サイトに書き連ねたカムイはゲーム中でも毒舌だったし、彼に振られた腹いせにキワクエ攻略者と結婚を企むレオナのくだらなさは彼女を悲劇のヒロインに変えたりしない。
 

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©土日月・株式会社KADOKAWA刊/究極進化した製作委員会
楓「なんか、フルダイブRPGと心中でもしそうな勢いだったから……ほんのちょっとだけ気になったのよ」
 
しかし、本性があまり変わらないことは一面では人の強固さや連続性の証明でもある。楓は今でこそヒロに暴言ばかり吐くがかつては兄を慕う健気な少女であり、ヒロが死んでしまうのではないかと思えば変わらぬその本性がポロリとこぼれ出す。
少しは仲良くなれたかと思えたギンジが今回も結局クズっぷりを余すことなく見せるように、良くも悪くも人の本性は変わらない。――そしてこの「人の本性は案外変わらない」ことについて、この10話はもう一つの視点も提供している。
 
 

2.一皮剥いた下の本性2:同一性

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テスラ「分かるさ。僕も衛兵隊の隊長じゃなければ町を飛び出して、広い世界で自分の腕を試してみたい」
 
「人の本性は案外変わらない」……そのもう一つの視点とは、一人の人間の連続性の話ではない。別個の存在も本性は案外同じという同一性の話だ。例えばテスラは町の外へ出たいヒロの望みを見抜き、実は自分もそうであることを明かす。凡人のヒロと紳士的で最強のNPCのテスラは全く別の存在だが、一皮剥いた下の願いは近いものであった。
 

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ミザリサ「アリシアからは距離を取っておいた方がいいっス」
ヒロ「お前も俺から離れてくれない?」
ミザリサ「ひどいっス……!」

 

また、今回は町内衛兵隊にアリシアとミザリサが加入する。かつてヒロを殺そうとしたアリシアと拷問しようとしたミザリサは確かに全然別の存在、ヒロを巡って争いすらした中。にも関わらずヒロが二人のどちらにも怯えて距離を取ろうとするのは、自分に危害を加えかねない本性は二人とも変わらないからだ。
 
こうした同一性はヒロも無縁ではなく、自分とギンジの違いに決着をつけようと戦いに臨んでもレオナにとってみればどっちもザコ同士、アリシアにとってはただの茶番に過ぎない。実際ヒロもギンジも、キワクエで親友を殺してしまった過去は変わらないのである。
 
 

3.誰であろうと何であろうと

一皮剥いた下の本性は、連続性を見ても同一性を見ても案外変わらない。これはけして先に挙げたような一人の、あるいは複数の人間に限った話ではない。世界の真理と言ってもいいものだ。
 

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ギンジ「飯だって食えるし、ゴブリンだって檻ん中までは入ってこれねえ。考えようによっちゃ刑務所暮らしも悪かねえ」
 
例えば、ゴブリン来襲に乗じて暴れていたギンジは煽動の罪で収監されることを気にしない。彼が言う通り、刑務所は飯は出るしゴブリンに襲われる心配も極めて低い。食事の質や不名誉を別に考えるなら、生活できる場所としての本性は娑婆と大して変わりはしない。
 

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レオナ「何度も言うけど、キワクエはリアルを追求したゲーム!現実で起こることはゲーム内でも起こるのよ」
 
またいよいよのゴブリン襲来となって、ヒロは極度の緊張から陸上の大会同様の腹の変調に襲われる。現実で起こることはキワクエでは起き得ること――前々回描かれたように本作では現実と虚構(ゲーム)は相互に接近していて、一皮剥いた下の本性は限りなく同じようになっている*1
 
 

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ヒロ(クソ!早く出ろよ、クソ!)
 
そして腹痛で排便する時、ヒロは思わず「クソ!」と叫ばずにいられない。それはもちろん皆がゴブリンと戦っている時に便意と戦っている状況に向けられた憤りだが、この状況で叫ぶ「クソ!」は憤懣を指しているのか糞を指しているのか分かりはしない。本性が「クソ」という言い方である以上、ゴブリン相手でも排便相手でも戦いの区別は無いに等しい*2
 
繰り返すが、一皮剥いた下の本性は、誰であろうと何であろうと案外変わらない。この真理は、排便を終えたヒロがゴブリンに遭遇する事態に至って究極進化する。便意に苦しもうがなんだろうが今はゴブリン来襲中に変わりはないし、町が襲撃対象である以上トイレの中だから安全などということもない。連続性を見ても共通点を見ても、それは変わりはしない。
仲間もおらずたった一人でゴブリンと鉢合わせしてしまったヒロは果たして、いかにこの危機を乗り越えるのか。ゴブリン来襲はのっけからハードモードである。
 
 

感想

というわけでフルダイブの10話レビューでした。排便しながらのクソ連呼、さすがに笑わずにはおられません。剣戟や戦いの声がトイレ用擬音装置状態。アリシアとミザリサもしばらく出番がなくて寂しかったので、再登場が素直に嬉しいです。
副題からすると次回はカムイが言っていたテッドの町の秘密も明かされそうな感じですが、ここから残り2話でヒロは何を(具体的な相手とは限らないが)打ち倒すのか。楽しみです。
 
 

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*1:ギンジにとっても、現実で軽犯罪を起こして留置所で急場を凌ぐのと今回の事態は変わらない

*2:汚くて本当にすみません……