キャラから人へ――「究極進化したフルダイブRPGが現実よりもクソゲーだったら」6話レビュー&感想

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©土日月・株式会社KADOKAWA刊/究極進化した製作委員会
一人ひとりを知る「究極進化したフルダイブRPGが現実よりもクソゲーだったら」。ヒロにとって恐怖の対象だったアリシア、そしてマーチンとの関係は思わぬ形で清算される。今回は二人の立ち位置を軸にレビューを書いてみたい。
 
 

究極進化したフルダイブRPGが現実よりもクソゲーだったら 第6話「ナイフとノコギリ」

武器の剣を手に入れるために、旅立ちの部屋に戻ったヒロだったが、そこで待っていたのはアリシアだった。
途中ミザリサがヒロを守るために奮闘するも、ステータスが異常に上昇したアリシアを止められそうにない。
唯一の手掛かりはカムイが攻略サイトに書いていたメッセージ――『戦って勝つのは無理――なら考えろ。戦わずして勝つ方法をな』
狂気に満ちた幼馴染を止めるためにヒロが取った行動とは?!

公式サイトあらすじより)

 
 

1.アリシアの抱える欠落

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©土日月・株式会社KADOKAWA刊/究極進化した製作委員会
ヒロ「なんだこの幼馴染!?忍者か!身体能力すご過ぎだろ!」
 
2話レビューで僕はアリシアを非現実的な幼馴染と書いたが、もう少し踏み込んで言えば彼女は非常に類型的な存在だ。「主人公に思いを寄せる幼なじみ」……同じような立ち位置のキャラクターはごくありふれている。事実、ヒロにとってアリシアアリシアというより「幼馴染キャラ」でしかなかった。
 
 
しかし幼馴染キャラは確かにありふれているが、それは作品をまたいで全く同じキャラクターが登場するというようなものではないはずだ。好き嫌いも見た目も性格も作品内での役割も、全てが全て同じなどということはありえない。ゲームを遊べば、作品に触れれば彼ら彼女らは必ず1人の人間として浮かび上がってくる――だが、アリシア(とマーチン)はどうだろう?
 

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©土日月・株式会社KADOKAWA刊/究極進化した製作委員会 「究極進化したフルダイブRPGが現実よりもクソゲーだったら」1話より
アリシアアリシアアリシア、ヒロの幼馴染の……」
ヒロ(幼馴染……そういう設定か)

  

アリシアはヒロと幼馴染の設定だが、ヒロにはアリシアとの記憶はない。共に遊んだ親しさも甘酸っぱい思い出も一切ない。幼馴染という設定はあっても、そこには一切の具体性が無い。具体的な関係性なきところに個別性などは存在せず、開始時点のアリシアにあったのは幼馴染という類型だけだった。彼女を幼馴染キャラと認識するヒロもまた、そこに個別性など見てはいなかった。
 

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アリシア「殺すのはヒロ、お前が先だよ!」
 
類型しか持たない、あるいは見てもらえないアリシアはそこからどう変化しようと類型の呪いから逃れられない。ヒロへの好意と殺意が同居した様は典型的ヤンデレだし、抜群の素早さで活躍するナイフ使いというのは腕力に劣る女性キャラにありがちな能力傾向。動きと表情はホラーじみていて、ファイルーズあいの演技も恐怖よりもコミカルさが重視されたオーバーなもの(もちろんそういうディレクションであろう)。幼馴染に兄を殺される悲劇を経験しながらも、彼女は類型的存在から脱することはできていなかった。
 

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ミザリサ「あの漏らしっぷり、想像しただけでゾクゾクするっス」
ヒロ「はぁ!?何言ってんのこの女、アリシアと同じくらいの病みっぷり!」

  

アリシアにかけられた類型性の呪いは今回、ミザリサの登場によって更に悪化していく。高い戦闘力とヒロへの危うい好意を併せ持つミザリサはアリシアを相対化する存在であり、彼女と対峙すればアリシアは否応なしに「同じくらい病んだキャラ」になってしまう。個別性に乏しいのに、類型性すらオンリーワンのものではなくなってしまうのだ(例えばアリシアがミザリサの遅さを突けば、ミザリサはアリシアの単調さを利用する)。
二人の戦いはヒロを巡る戦いであると同時に、彼との関係性(=個別性への道)を獲得するための争いでもあったと言えるだろう。
 
 

2.幼馴染キャラから「アリシア」へ

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©土日月・株式会社KADOKAWA刊/究極進化した製作委員会
アリシア「いやーん!……なんて言うと思った?」
 
「てめえが幼馴染の女だったら何をされるのが一番嫌かってこった」……カムイのアドバイスを元にヒロはアリシアの胸を触る。だがこれは明白な誤りだ。胸を触られるのは次元や古今東西を問わない嫌なことだろうと考えたわけだが、それは相手を「類型的」に見た行動でしかない。既に溢れている類型性を更に付加したところで、アリシアに届くはずなどない。
 

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ヒロ「結婚して俺の味噌汁になってくれ!お前の子供をたくさん産みたいんだ!」
 
だから、ヒロの告白こそはアリシアに一番のダメージとなる。それは類型ではなく、アリシアという一人の人間に向けられたものだからだ。幼馴染キャラとして設定されながらもぽっかりと欠落した主人公との関係性を、幼馴染としての個別性を獲得させてくれるものだからだ。
 

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アリシア「死んだ、人が死んだ!それも大好きだった兄さんが死んだのよ。なのに、なのにどうして……どうしてあんたは、どうしてあんたは逃げたのよ!」
 
アリシアは初めて泣く。兄という大切な1人が死んだことを泣く。そんな悲劇が起きたにも関わらず、ヒロが逃げてしまったことを泣く。それは幼馴染キャラやヤンデレの類型ではない、アリシアという少女の声だ。悲運と裏切りに打ちのめされた、紛れもない一人の人間の声だ。「獲得」と書いてきたが、それは本当はアリシアが最初から持っていた、ヒロが見ようとしなかった「個別性」が現れた瞬間であった。
 
 

3.変わる親友殺し

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ヒロ「俺が犯した一番の罪は、それだったんだ」
 
アリシアの涙に、ヒロは初めて自分の罪を認識する。マーチンもアリシアはしょせんゲームのNPCであり、ヒロは現実で誰かを殺したり殺されそうになったわけではない。ゲームと現実は違う。けれどゲームだろうが現実だろうが人が死んだことは変わらない。それがアリシアにとってあまりに辛く、ヒロの行為があまりに無責任なものだったのは変わらない。ゲームの死と現実の死を区別しないのは馬鹿げているが、そこまで理知的だったら人間はゲームや漫画に感動などできていない。
 

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©土日月・株式会社KADOKAWA刊/究極進化した製作委員会

ヒロ「俺とお前は、死んでもずっと親友ぬら」

 
だからヒロはマーチンと約束したケヌラの樹の下にも行く。彼と自分の関係性を、そこにあった個別性を知りに行く。明かされる過去はけして「結城宏」のものではない(回送中のヒロだけ飛び抜けてアホっぽい=別人なのが明白)。だが間違いなく「ヒロ」の過去だ。「ヒロとマーチンとアリシアの過去」だ。知ってしまえば、マーチンはもうヒロにとって親友キャラではなく「親友」になる。ここでもまた、ゲームと現実の区別は消える。
 

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©土日月・株式会社KADOKAWA刊/究極進化した製作委員会

かつてヒロは「親友殺し」であった。それはヒロがマーチンを殺した事実に留まらず、彼を親友ではなく「親友キャラ」としか見ていなかった証でもあったのだろう。しかしマーチンを本当に親友と感じるようになった今、それはただの罪悪の称号ではない。
親友をちゃんと成仏させること、未練なくあの世へ旅立たせること。それもある種の親友殺しだ。ヒロが新たに得た「最高の親友殺し」の称号には、消えない罪業と共に称賛も確かに込められているのである。
 
リアルを極めたキワクエでは、ゲームと現実の区別がほとんど消失する。しかし区別の消失は同一化を意味しない。むしろ1人1人、1つ1つの個別性を認識してこそ本当に区別なき見方ができる。キワクエをプレイするとはきっと、そういうことなのだろう。
 
 

感想

というわけでフルダイブの6話レビューでした。いやー、いい話だった。マーチンの死とは何なのかを訴える間は構図でアリシアの顔を見せず、ヒロの逃亡を責める最後に涙するアリシアの顔を見せるのが印象的で。あの瞬間、ヒロにとってマーチンとアリシアNPCではなく「人」になったんですね。1話で見た時は正直「いきなり幼馴染だ親友だ言われても」と思ってたのですが、物語としての必要性はちゃんとあったんだな。
ようやくプロローグ終了といったところで物語は折返し、事態は玲於奈も知らぬ未知の危機へ。キワクエがヒロに次は何をもたらしてくれるのか、後半戦が楽しみです。
 

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©土日月・株式会社KADOKAWA刊/究極進化した製作委員会
ところでこういうレビュー書いておきながら大変類型的ですが、対レオナ用に眼鏡をかけたアリシアが可愛かったです。
 

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