分別のアンリアル――「究極進化したフルダイブRPGが現実よりもクソゲーだったら」5話レビュー&感想

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©土日月・株式会社KADOKAWA刊/究極進化した製作委員会
新局面を迎える「究極進化したフルダイブRPGが現実よりもクソゲーだったら」。ヒロは5話にしてようやく殺人の容疑から解放されるが、状況は劇的には変化しない。今回の話では、分別というリアルな認識の価値が問い直される。
 
 

究極進化したフルダイブRPGが現実よりもクソゲーだったら 第5話「殺人鬼の苦悩」

ゲーム内最強のNPCであるテスラのおかげで、ようやくマーチン殺害の容疑が晴れたヒロ。
しかし世間の目は冷たく、キワクエ内の住人からは未だに殺人疑惑をかけられたままでいた。
さらにお金を稼ぐために職業案内所に行くも、ヒロの失言から受付の女性を怒らせてしまう始末。
そんな甲斐性のないヒロにレオナが提案したのは、とあるリアルプレイヤーからお金を借りることだった。

 (公式サイトあらすじより)

 
 

1.まともな判断≒現実の人間

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テスラ「故に僕は、突発的な事故だと判断したんだ」
(中略)
ヒロ(ああ、このクソゲーでやっとまともな人に会えた!まあ人って言うかNPCだけど!)
 
今回は新たにテスラというNPCが登場する。町内衛兵隊隊長の彼はファクトに基づく客観的な判断ができ、小便をもらして間もないヒロに嫌な顔ひとつせず、投獄を侘びて食事すら勧める……これまでキワクエの性悪NPCに苦しめられてきたヒロが感激するのも無理もない、まともな判断のできる人間だ。だが、それは果たして"リアル"だろうか?
 

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町人「俺はこいつがやったと信じてるぜ」
町人「ええ、私もそう思うわ」
町人「この顔は人殺しの顔よ!」

  

ファクトと客観性を口にしながら感情に支配され、小便の臭いには顔をしかめ、事情を理解しようと過ちを素直に認められない。人間とは本来そういう存在のはずだ。ヒロの無罪放免を素直に信じない町の人や、その結果ヒロが就職に苦労する状況などが"リアル"なのは議論を待たない。分別のあるテスラはまともな人というより人格者であり、それはむしろ"嘘くさい"ほど現実には貴重な存在である。
 
 

2.分別の無さのもたらすもの

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テスラのような分別こそむしろ嘘くさい。逆説的なこの真実は、ヒロとギンジの再会と和解によって再び強調される。
 

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ギンジ「お前に貸す金なんかねえよ。帰れ、しょんべん小僧」
ヒロ「しょ、しょんべん小僧……!? 今、なんつった!」

  

殺人容疑は晴れたものの周囲の目からまともな職につけず、金を貸してほしいというヒロの願いをギンジは嗤って突っぱねる。「しょんべん小僧」……それが禁句と知らず。
ギンジはあくまでゲーム内での出来事を揶揄したに過ぎないが、ヒロにとってそれは現実世界でのトラウマを嗤われたのと区別がつかない。それは合理的で客観的な判断ではないが、人間の心理として当然の反応だ*1。 だからヒロは激昂する。ゲームと現実の区別を失い、ゲームなのに本気でキレる。
 

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レオナ「ギンジさんも心の底では後悔してるのかもね」
ヒロ「後悔、ですか?」
レオナ「ええ、親友と幼馴染を殺してしまったことを。だからいまだにこのゲームを続けているんじゃないかしら」

  

ヒロとギンジの戦いは様々な区別を、分別を失わせていく。戦闘というより喧嘩で、ゲームなのにハゲる心配をして、痛風が理由で大勢が決まり、そしてヒロはギンジを殴打しようとして自分がマーチンを殺した過ちを思い出す。そしてギンジも心の底では親友と幼馴染を殺した後悔を抱えていることを知り、戦いが終わる。
これらは全て分別の喪失だ。華々しいRPGの戦闘と生々しい喧嘩、ゲームと現実の肉体的影響、現在と過去、そして共に罪悪感を抱える存在としての自他の区別……相手に自分を重ねるようになった時、人は大嫌いだったはずの相手にも不思議と優しくなれてしまう。非現実的な部分が実はゲームに欠かせないように、アンリアルな認識もまた和解や救済をもたらし得るものなのだ
 

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レオナ「バカね、漫画の人じゃないのよ!導火線に火を点けないと!」
 
とはいえ、分別を適切に運用する(分けるべき時と分けぬべき時を判断する)のはやはり簡単ではない。たかだかゲームの殺人に罪悪感を抱くのも、既に死体が片付けられていても部屋に戻るのに気後れするのも、散々ひどい目に会ったはずなのに色仕掛けにまたも引っかかるのも、薬草でキワクエでの道具のあり方を知りながら煙幕に火を点けずに投げてしまうのも、全てはリアルな分別の難しさだ。
 

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ミザリサ「異端審問官ミザリサ、このいい漏らしっぷりの御方はやらせないっスよ!」
ヒロ「いやお前か―い!」
 
そして社交辞令と本気の発言を区別できず、アリシアから自分を守るためにテスラが来てくれたと勘違いしたヒロの前に現れたのはミザリサだった。自分を今も思い続ける逆恨みヤンデレvs屈辱の失禁に興奮する異端審問官、敵味方や危うさといった分別が失われていくこの物語は、果たしてどこへ向かっていくのだろうか。
 
 

感想

というわけでフルダイブの5話レビューでした。更新予定日より遅くなってしまい申し訳ありません。
相変わらずひどいゲームでひどい状況なのですが、確かに変わり始めているものもあって面白かったです。曲がりなりにも不特定多数が触れられる場所に自分の性癖を晒す富豪とか、観光客相手でないと難しそうな商法を鎖町でやる店とか、別の意味でリアリティに疑問符が無いでもないですが。
あと、ドサクサにまぎれて言ったことと言ってないことの分別をなくして有り金を奪うレオナの鬼畜ぶりと来たら。おまけに彼女の悪行が事実上ヒロの悪行にされる区別の無さ。やっぱりひどい。
 

Youtubeのロング版の予告を見ると、次回は色々派手な回になりそうで楽しみです。
 
 

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*1:裏職業案内所の老婆がヒロの言葉を勝手に自分への侮辱と捉えたのと全く同じである