リアルと理不尽――「究極進化したフルダイブRPGが現実よりもクソゲーだったら」8話レビュー&感想

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©土日月・株式会社KADOKAWA刊/究極進化した製作委員会
理不尽の先も理不尽が続く「究極進化したフルダイブRPGが現実よりもクソゲーだったら」。8話では衛兵隊に入ったヒロの新たな苦難が描かれるが、そこにあるリアルさはこれまでとは少し違う。今回は本作のリアルさの変質が見えるお話だ。
 
 

究極進化したフルダイブRPGが現実よりもクソゲーだったら 第8話「入隊と洗礼」

ゴブリンの脅威から町の人々を守るためにテスラ率いる町内衛兵隊に入ることになったヒロ。
同じタイミングで入隊することになったグラナダ、パルーとともに実技訓練を行うことになる。
ようやくRPGゲームっぽいチュートリアルがはじまった!と意気込むヒロだったが、剣術が素人のヒロはついていけるわけもなく……。

公式サイトあらすじより)

 
 

1.変質する「リアルさ」

親友の怨霊や幼馴染から解放されたヒロだったが、ゲームらしいと言えばゲームらしい衛兵隊に加入しても苦難に襲われ楽しいゲームの時間とはならない。しかし、ここでヒロが遭遇する苦難は今までとは少し違うものだ。
 

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ヒロ(上等だ。俺は凶暴なゴブリンや凶悪な幼馴染に殺されかけた。木刀の試合なんか余裕だよ!)*1
 
衛兵隊の教官であるアモスとの練習で、ヒロはゴブリンやアリシアに比べれば怖くないと考える。実際それはその通りだろう。アモスは目にも留まらぬ速さで動いたり天井に張り付いたりはできない。その強さはあくまで常識的なものだ。だが、それでも衛兵隊の教官はただの高校生のヒロが勝てる相手ではない。 
これまでのキワクエはリアルさを極めたと言いつつも、そのリアルさは理不尽さに依拠しているところが大きかった。マーチン殺しにしてからが「可能性としては低いが、実際に起きてしまうところがリアル」で、言ってみれば不幸で不遇であればあるほどリアルさが増す構造になっていた*2
 

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レオナ「そりゃ衛兵の教官だもの。普通の高校生が勝つなんてありえないわ、漫画じゃあるまいし」
ヒロ「いや漫画じゃないけどこれゲームでしょ!?」

 

しかし先程も述べたように、アモスの強さはあくまで常識的で理不尽なものではない。多少の訓練ですぐ強くなれないのも、必殺技をひらめいたり*3しないのも当然の話。極めて現実的なだけ――極めてリアルなだけ・・・・・・・・・に過ぎない。
 
マーチンやアリシアを通してヒロがNPCにもリアルな感情を抱くようになったのと時を同じくして、キワクエのリアルさは変質を始めている。今のキワクエは理不尽だからリアルなのではなく、リアルだから理不尽なのである。
 
 

2.接近し合う現実と虚構

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パルー「出ていくのが嫌ならさ、これから毎日お金ちょうだいよ」
グラナダ「そうだな、そしたらいさせてやってもいいぜ」
ヒロ(なんだよ、ゲームでもこの感じかよ……)

 

理不尽だからリアルなのではなく、リアルだから理不尽。前者と後者で違うのは、後者の方がより「経験している現実に近い」ことだ。事実、ゴブリン襲来イベントの発生以降キワクエはヒロの現実に近づいている。ゲームでの死が現実ではゲームハードの死に繋がることが明かされたし、衛兵隊のグラナダとパルーによる迫害にヒロは現実での谷城と三科のカツアゲをオーバーラップさせてしまう(やたら肉感的なガバンにクラクラするのも、ヒロは現実ではレオナによって経験済み)。そういうリアルさはこれまでとは違った形の辛さがあり、だからヒロの精神を苛む。
 

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©土日月・株式会社KADOKAWA刊/究極進化した製作委員会
ヒロ「迷惑をかけると思う。けど、こればっかりは途中で投げ出したくない。やらせてくれ!」
 
しかし、ヒロとてこれまで成長してこなかったわけではない。カムイの罵倒にも挑発と激励の意思を感じるようになったし、楓にこれまでの自分のクソさを認めるようにもなった。それは間違いなく、彼がこれまでの物語で勝ち得たものだ。
前回ヒロは「ちょっとだけRPGの主人公になった気分」を味わったが、それは彼がヒーロー的な存在に一歩でも近づいたことを意味する。キワクエという虚構が現実に近づいてきている一方、ヒロという現実の存在もまた虚構に近づいている。
 

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ヒロ(いつも通り口は悪いけど、なんだろう? 「お前にできるのか。俺はやったぞ、やってみろよ」……そう言われてる気がしたな)
 
現実と虚構が相互に接近しているのをもっとも象徴するのは、カムイが最後の一言を残す場面でモニタにヒロが映っていることだろう。分からない者には10年経っても分からない*4誓いの言葉を入力してその画面にたどり着けるものはごく限られている。すなわちヒロは、カムイという虚構じみた存在に近づいている。その接近あればこそ、この場面ではヒロとカムイは重なって描かれるのである。
 
この訓練所での日々、あるいはその先のゴブリン襲撃第2波は、よりヒロに現実的な成長をもたらす経験となるだろう。彼の奮闘に期待したい。
 
 

感想

というわけでフルダイブ8話のレビューでした。前回はヒロがカムイを超える機会かと思ったんですが、まだ早くてカムイに近づく機会だったみたいですね。親友殺しにまつわる苦境はぶっ飛んだ辛さでしたが、この状況は確かに身の危険よりも精神の方へのダメージあるな。
 

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楓「意味わかんない、勝手にしたら!」
 
あとめっちゃかわいいなと思ったのがこの場面で、言い方は突き放しているけど要するに「ゲームやっていい」って楓は言ってるんですよね。8話が現実と虚構の接近回であるなら、楓のこの一言は好意と嫌悪の接近した一言であるわけです。すなわちツンデレ
もはやチョロインとセットみたいになった属性ですが、こういう最終回でようやく手が届きそうな立ち位置もすごくいい。原作が続くことからすればデレデレにはならないでしょうけど、彼女の今後もすごく楽しみになってきました。
 
 

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*1:ゴブリンと並び語られるあたり、改めて恐るべしヘルズ・フルーツスライサー……

*2:「ここぞというところで外したり間に合わないのがリアル」的な評価軸

*3:ピコーン!

*4:ギンジさん……