現実から持ち込むのは――「究極進化したフルダイブRPGが現実よりもクソゲーだったら」2話レビュー&感想

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©土日月・株式会社KADOKAWA刊/究極進化した製作委員会
苦行のクソゲー世界を行く「究極進化したフルダイブRPGが現実よりもクソゲーだったら」。2話では極・クエストが現実的なだけでなく現実と密接に関連していることが示される。現実から持ち込まれるもの、それは容姿や身体能力だけでなく――
 
 

究極進化したフルダイブRPGが現実よりもクソゲーだったら #02「過疎ゲーの住人」

親友のマーチンを殺してしまった容疑で犯罪者として追われる身となったヒロ。
助けを求めるべく、数少ないリアルプレイヤーの一人であるギンジを探すことになったが、その間もアリシアに命を狙われるなど散々な目に合う。

公式サイトあらすじより)

 

1.ゲームとして非現実的な現実的ゲーム

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©土日月・株式会社KADOKAWA刊/究極進化した製作委員会
ヒロ「え、これも現実みたいにするの?薬草ってどうやって使うの?貼るの、煎じて飲むの?」
 
リアルを極めたフルダイブRPG「極・クエスト」。ひょんなことからプレイを始めてしまったヒロの前には、今回も幾多の苦難が立ちふさがる。
 
・親友殺しの罪で指名手配
・顔を隠す服を買おうとしたら足元を見た店主に価格を釣り上げられる
・薬草は触るだけでは使用できず、傷口につけても2,3日は痛みが続く
 
多くの人はツッコんでいるはずだ。「こんなゲームねーよ」と。そう、極・クエストはゲームとして非現実的・・・である。
 
1話冒頭で語られたようにゲームは基本的に息抜きのためのもので、それを阻害する現実的な煩わしさはカットされるのが普通だ。薬草は選択すれば即発動して傷を癒やし、最初の町からはたやすく出られ、非倫理的な行動は制限され実行できない――「現実に作られる」ゲームはそのようになっている。ゲーム産業が黎明期をとっくに通り越した現在、極・クエストのような代物が企画段階、制作段階でストップもかからず発売される可能性は極めて低い。"リアルを極めたゲーム"を謳う極・クエストは、皮肉にもそれが本当だからこそ現実から遠ざかっている。
 
 

2.現実とゲームは違うルールで動いている

現実的だから非現実的、非現実的であってこそ現実的。倒錯的なこの性質はしかし、現実ではないゲームだけが持つ特性だ。
 

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©土日月・株式会社KADOKAWA刊/究極進化した製作委員会
貴文「ゲームばっかやってるといつまでも舐められっぱなしだぞ」
 

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楓「ホントもうやめなって、そういうの」
 
ゲームでいくら強くても実際の腕っぷしには関係しないし、どれほど辛い状況も非倫理的な行動も*1前もって制限されたりはしない。現実はあくまで現実に、非現実はあくまで非現実にしか作用してくれない。これは逆も然りで、現実の腕っぷしや賢さはゲームではダイレクトには反映されない。*2現実と非現実は異なるルールで動いていて、そのまま相容れることはないのだ。
 
 

3.現実から持ち込まれるもう1つのもの

現実と非現実は異なるルール、あるいは相反するルールで動いている。両者の間には越えられない壁がある。だが極・クエストでは別だ。
 

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ギンジ「いきなり俺は親友だとか言うエンリケにムカついてなあ。こう、首をキューッと。(中略)ギャアギャアうるさい幼なじみもまとめて絞め殺してやった。へっへっへ」
ヒロ「このリアルVRでやる、それ?」

 

 
このゲーム(非現実)では現実の容姿や身体能力が反映される一方、ゲームならではの物理的・倫理的制約が存在しない。ヒロの親友殺しが事故だったのと違い、古参プレイヤーのギンジの親友殺しはゲーム内の明確な殺人行為であった。ギンジは自分の行動を「シューティングゲームで町の人間を撃ってみたくなる感覚」に例えるが、それはヒロにとって「リアルVRでムカついた相手を絞め殺す感覚」とはまるで重ならない。同じく現実を生きるヒロとギンジはしかし、極・クエストでも現実同様に異なる"ルール"で動いている。それは二人の容姿や身体能力が異なっているのと全く同じことだ。
 
プレイヤーは現実の容姿や身体能力だけでなく、思考の幅や倫理観といった"ルール"もまた極・クエストという非現実に持ち込んでいる。そしてこのゲームが極めて現実的である以上、ゲーム内でプレイヤーが書き換えたルールは現実にも持ち帰ることができる。現実で「最初の町」から出られなくなっているヒロにとっては、それこそがゲームでしか得られない、何より必要なものなのではないだろうか。
 
 

おまけ

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©土日月・株式会社KADOKAWA刊/究極進化した製作委員会
余談になるが、現実と非現実を語る上で本作には外せないヒロインがいる。アリシアだ。
リアルを極めたと謳う極・クエストだが、アリシアの存在はあまり現実的とは言い難い。「主人公に思いを寄せる幼なじみで、戦闘では抜群の素早さで活躍する鉄板仲間キャラ」……こんな幼なじみを現実に持っている人間はゼロと言って差し支えないだろう。むしろ彼女の設定は「現実に作られるゲームによくいる幼なじみ」であり、つまり非現実的だ。現実的なはずの極・クエストでしかし、アリシアは正反対の性質を背負って存在しているのである。
本質が非現実的であるが故に、アリシアはヒロの進めた異常な展開(親友のはずの兄を殺される)であっても非現実的であり続けている。長い付き合いゆえの相手への知識の深さは追跡に使われ、果物ナイフを操るヤンデレとして強調された復讐心は明らかに「極めた現実」の埒外にある。
 
現実と非現実の中間にいるのが玲於奈、非現実を背負い続けるのがアリシア。では妹の楓や、まだ本編では姿を現していないもう1人のヒロインの存在はいかなものか。彼女達の存在意味は、物語に華を添えるだけのものではなさそうだ。
 
 

感想

というわけでフルダイブの2話レビューでした。うーん、難しい。1話1話のレビューを書けてるのか全体図を探ってるのか自分でもよく分からない。まあとっちらかる位に思考を広げておいた方が後で組み立て直す時に材料に困らないし。
アリシアの絶叫見る度にストーンオーシャンのアニメ化は盤石だなと思ったり、玲於奈が動く度にあちこち目が行ってしまったり。色んな意味で目が離せません。
 
 
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*1:あまりにも恥ずかしい失敗や恐喝行為など

*2:いくら賢い人でも、ゲーム内のルールを把握せずにその賢さを発揮するのは不可能だ