反復は偏りの母――「オッドタクシー」2話レビュー&感想

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(C)P.I.C.S./小戸川交通パートナーズ.
「オッドタクシー」2話では独身中年、アイドルグループ、漫才コンビなど同格の組み合わせが多く現れる。しかし同じ存在である以上、彼らは常に等しい存在ではいられない。最初は小さくとも、その違いは大きくなっていくものだ。
 
 

オッドタクシー 第2話「長い夜の過ごし方」

小戸川は今日も色々な客を乗せる。サウナに行ったりもする。
 
 
 

1.熱意と結果

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(C)P.I.C.S./小戸川交通パートナーズ.

柿花「俺らこのまま行けば独身コースまっしぐらだぜ。あんなきれいな娘さんゲットしたら大金星だよ」

 
タクシードライバーの小戸川と清掃員の柿花は昔からの友人だ。中年なのもうだつが上がらないのも独身なのも同じ、同格の存在。しかしこと色恋に関して、今回二人は同格ではない。かたや恋愛する気など無かったのに白川から好意を告げられた小戸川、かたやマッチングアプリで婚活に励むも成果に乏しく収入を偽ろうとする柿花。サウナで話す二人の間には明確な「温度差」があり、それは会話を繰り返す度に大きくなっていく。
 

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(C)P.I.C.S./小戸川交通パートナーズ.
「温度差」とはつまり熱意の差だ。そして、熱意は投じた量に応じて結果を約束してくれはしない。大学生の樺沢は就活にも役立つからと就活以上にSNSに熱心だがその投稿はバズらない。芸人コンビ・ホモサピエンスの柴垣は移動中もネタを探すほどお笑いへの意識が高いが、人気は今ひとつで後輩にも抜かれている。
柿花と小戸川がそうであるように、結果はむしろ熱意を投じていない方に転がり込んでいる。樺沢がスマホを手放さず投稿を続けても反応が帰ってこないのに、スマホに冷笑的な落語家・呑楽の投稿は軽々と10万を超える反応を巻き起こす。柴垣の相方の馬場はけしかけられても悔しがらないほどおとなしいが、仕事は柴垣ではなく馬場の方にピンで回ってくる。
 
熱意と結果は必ずしも比例しない。そんなことは誰だって分かっている。しかし分かっていても人は必ずそれに打ちのめされる。どうしてだろう?
 
 

2.反復は偏りの母

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(C)P.I.C.S./小戸川交通パートナーズ.
白川「羊を数えるの」
小戸川「まるで自分が発見したみたいに言うけど古の昔からあるからそれ」

 

「熱意と結果は必ずしも比例しない」……それは自分が発見したみたいに言えば呆れられる、古の昔から言われている真理。それはずっと昔からありふれていた真理であり、つまり数え切れないほど「反復」されてきた真理だ。
 
柿花はマッチングアプリで相手を探しても相手にされない経験を反復してきた。
樺沢は研究を重ねてSNSに投稿してもバズらない経験を反復してきた。
柴垣は悔しいと思わない馬場よりもずっと多く、渾身の試みが通じない経験を反復してきた。
 
人は熱意を抱けば抱いただけ挑戦を重ね、その分だけそれが報われない挫折を繰り返す。反復する。一度や二度なら立ち直るのも難しくないが、繰り返し繰り返し反復すれば熱意はやがて失望に変わっていくものだ。上手くいかない就活や婚活が鬱になりかねないほど辛いのは反復によって熱意が自己否定に繋がるからだし、劇中でもアイドルグループ「ミステリーキッス」の市村は親から否定を反復経験して自己肯定感が低くなっている。*1
嫌というほど反復されるからこそ「熱意と結果は必ずしも比例しない」は人を打ちのめす。反復によって人は変質し、偏っていくのである。
 

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(C)P.I.C.S./小戸川交通パートナーズ.
反復は変質を生む。それは1話で描かれた本作のルールであり、肯定的にも否定的にも作用する。同じくミステリーキッスの三矢は親から愛された反復経験を自己肯定に繋げているし、キャバクラのボーイである今井はミステリーキッス(というかそのセンターの二階堂)のファン経験を反復して太客になっている。小戸川もまた、そのルールの例外ではない。
深夜、彼は客拾いを反復する。最初はキャバクラのボーイ今井、次は芸人コンビ・ホモサピエンス、そして指名手配犯のドブ……繰り返す度に小戸川が載せる客はおかしくなっていく。彼のスマホに届く白川からのメッセージも、一度目より二度目の方が切実さを増している。残り11話の反復の果て、この物語はどのように変質しているのだろうか。
 
 

感想

というわけでオッドタクシーの2話レビューでした。学習性無力感キツい。陥ると本当に負のループになって何も生み出せなくなる……ユーモラスさも確かに味わえる一方で薄暗さが絶対的だ。それだけにホモサピエンスのリアル掛け合いに小戸川がクスリとしている場面、すごくホッとしたりもしましたが。今後も目が離せません。
 
 
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*1:そして「ヤバイ」を反復して別の意味でヤバくなっていく。