相対と絶対――「戦闘員、派遣します!」2話レビュー&感想

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
異星を舞台にクズとロリが暴れ回る「戦闘員、派遣します!」。2話では六号に負けず劣らずの曲者達が登場する。だが、それは六号の影を薄くするものではない。
 
 

戦闘員、派遣します! 第2話「商売仇を蹂躙せよ」

グレイス王国の騎士になった六号は、早速自分の小隊のメンバーを集めることに。
副隊長になったスノウの助言を無視して、アリスは戦績の高い2人を選ぶ。
そのメンバーに、スノウは表情を曇らせ……。
公式サイトあらすじより)
 
 

1.新人に舐められないために

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
遊撃部隊を任された六号だが、部隊の仲間はまともな兵士からかけ離れた者ばかりだ。毒舌アンドロイドのアリス、欲深なスノウ、戦闘用人造キメラのロゼに邪神の大司教グリム……てんでばらばら、まとまりのまの字もない規格外の変人揃い。そんな面々に舐められないために必要なのは腕っぷし――ではない。彼らを上回る変人ぶりだ。
 

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会

グリム「ホントに見せるつもりまではなかったのに!」

 
変人として設定された筈のキャラがツッコミ役に回る例が数多あるように、自分以上の存在に出会えば変人は変人でいられない。六号がロゼに対抗してイタい言動をしたりグリムのスカートをめくったりスノウの乳を揉むのは酷いしコミカルだが、けして無用の悪事ではない。これは、群れに加わった新入りとボスが力の差を確認するのに等しい行為なのだ。
 
 

2.絶対に思える相対

変人がツッコミ役に回る例を挙げたように、世の価値基準は多くが相対的なものに過ぎない。スノウの近衛騎士団長の地位は前回の不手際で消えたし、正面攻撃が馬鹿げているか否かは「騎士道精神」か「祖父の遺言」か「食欲」かで変わってくる。また対大型猛獣用の弾の反動が吹っ飛ばされて岩にヒビを入れるほど大きくとも、高性能アンドロイドのアリスにとっては大したダメージとはならない。
 

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
六号「お、おい……グリム……!?」
 
善悪、優劣、良否といった全ては絶対的でなく、容易に変わり得る。紐パンしか知らない関係で戦闘には関係ないとばかりに寝ていたはずのグリムも、それ以上の暴力を振るわれればあっけなく命は絶たれてしまう。
 

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
スノウ「? 六号、グリムはこのぐらいで死にはしないぞ」
六号「は?」

 

しかし相対の絶望は逆に言えば、覆し難く思えるものも案外どうにかできる希望でもある。その出自から人々に忌み嫌われていたロゼやグリムも六号からすればただの仲間でしかないし、彼女達を手ひどく扱う人間に比べれば六号すら清く正しく善良な人間に見えてくる。また、供物と引き換えに再生するグリムからすれば死すら覆せないものではなかった。
 
絶対的でないから生まれる悲しみもあれば、相対的だから生まれる喜びもある――そしてそれは、絶対的なものが存在しない証明ではない。本作の絶対性は、六号にこそある。
 
 

3.相対あふれる世界だからこそ輝く絶対

一見すると、六号は絶対的な価値基準を持たない男だ。悪の組織の一員としての信念があるでもなし、働く悪事は常にしょぼく、目先の欲望に気を取られて大局的な視点を持たない。『全てがその場限りのいい加減な男』……多くの人が抱くのはそういう印象だろう。しかし全てが相対的になっていくこの2話で見えてくるのはむしろ、彼の絶対的主人公性である。
 

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
六号「悪いな、俺にはもう変なコスプレした怖い上司がいるんでね」
ハイネ「だろうね。見た感じ、お前は口では色々言っても裏切れない奴だと分かっていたさ」

 

口でなんだかんだいいながら、六号はけして仲間を裏切らない。
 

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
六号「ぶっちゃけさあ、紐パンしか知らないけどよ……あいつ、絶対ぶっ殺す!」
 
紐パンくらいしか知らないほど付き合いが薄くても、六号は仲間の死を誰よりもまっすぐ受け止め動揺する。
 

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
六号「違う違う。生き返った時に誰もいないとなんか寂しいかなと思って」
 
仮初めの死に過ぎないと知っても、六号はグリムの死を軽んじない。一人で目覚める寂しさに思いを馳せ、傍らで蘇生を待つ。
 
六号の言動や態度はいつも軽薄で、相対的に変化する浅はかなものだ。しかしその下の善良さは隠れている分だけ、普段は姿を見せない分だけ揺るがず確固たる性質を見せる。それは表面的・相対的な優しさとは違う、余人には得難い絶対的な優しさだと言える。人が表面通りでないと知りまたは傷ついてきた仲間たちにとって、六号の優しさは何より信頼できる誠実さとして機能するだろう。変人ぶりで仲間の絶対性を相対的にした六号は同時に、自らの絶対性で彼らを率いていくのだ。
 

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
六号「おい、これをもう一度さっきのとこに持っていくのかよ……」
 
もっとも、彼が普段はクズなのも仲間達が変人なのもそれはそれで絶対的な事実ではある。グリムも六号の偏見なき優しさに感動しながらも結局、自分の残念さからは逃れられない。六号の任務達成への道のりは、まだまだ前途多難そうだ。
 
 

感想

というわけでも戦闘員の2話レビューでした。グリムもロゼもなんで迫害されながら国にい続けたんだろう、とか疑問はあるのですが、本作のギャグと感動のバランスが見えてきた回だったように思います。ホント変人揃いでスノウのがめつさもあっという間に相対化されていくから恐ろしい。乳揉んだ六号にアリスがムッとしてるのもかわいかったです。この子の内面、アニメ中でもっと描いてくれるのかしらん。
副題からすると次回はダンジョン攻略でしょうか、話の広がりがありそうで期待です。
 
 
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