示さぬ繋がり――「灼熱カバディ」2話レビュー&感想

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©2020武蔵野創・小学館/灼熱カバディ製作委員会
思わぬ場所に道を見つけ出す「灼熱カバディ」。2話は半ば強引に入部となった宵越が彼なりにカバディ部へ馴染んでいく様子が描かれる。副題の通り重要なのは繋がりだが、それは目に見えるとは限らない。
 
 

灼熱カバディ 第2話「繋がる男たち」

守備(アンティ)の練習はやりたくないと断る宵越。その理由とは守備同士が手を握るフォーメーション、通称『チェーン』。男同士で手を握りたくないと守備を拒むものの、攻撃の成功率はゼロ。だが、二年の水澄京平と伊達真司、そして井浦を観察したことで必勝法を思いついた宵越は攻撃でハットトリックを決めると宣言する。
 
 

1.見えるから実在するとは限らない、見えないから存在しないとは限らない

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©2020武蔵野創・小学館/灼熱カバディ製作委員会
2話の前半はカバディ部での練習風景だが、そこでの宵越の成果はあまり芳しくない。攻撃の練習で合理的に判断したはずが得点には「繋がらず」、「繋がる」のはむしろ無駄だらけの畦道の方。不条理にすら思えるがしかし、その苦しみは宵越にとって初めての経験ではない。
 

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©2020武蔵野創・小学館/灼熱カバディ製作委員会
畦道「けどこれ、仲間って感じで良くねえか?チームの証だべ!」
宵越「同じバッグやユニフォームでも、チームじゃないことだってある」

 

後半、部活バッグによる繋がりの視覚化に宵越はいい顔をしない。そこにはむしろ不信すら隠れている場合があるからだ。事実サッカー部時代の宵越は、同じユニフォームを着た仲間と見た目通りの繋がりを築けてはいなかった。その不条理に苦しんでいた。
 
見えている繋がりが実在するとは限らず、見えぬ繋がりが存在しないとも限らない。ならば合理性だけが結果に繋がっているとも限らない。男同士で手を握るチェーンは気持ち悪く見えるが、守備メンバーを一匹の巨大な生物のように繋げてしまう。対抗するには、宵越にも目に見える以上の繋がりが必要になる。
 

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©2020武蔵野創・小学館/灼熱カバディ製作委員会

宵越(二重じゃないんだよ。言ったろ!これが鎖を断ち切る三重の仕掛け、ハットトリックだ!)

 
練習での宵越の"ハットトリック"宣言はけして、一度に3点取ることでもただのハッタリでもなかった。「踏み込んでも捕まえてこないよう牽制する」「不安定なキャントで井浦を釣り出す」「その上で足で伊達に触れて自陣へ戻る」……これらはけして独立しておらず、全てが一連の流れとして機能している。その見えない繋がりこそはハットトリックの正体であり、宵越が新たな進化を遂げる第一歩であった。
 
 

2.宵越とカバディの繋がり

目に見えるものばかりが繋がりとは限らない。これはけして、宵越が前半習得して終わるものではない。むしろそれ以上に、彼とカバディとの関係にこそこの真理は当てはまる。
 

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©2020武蔵野創・小学館/灼熱カバディ製作委員会
井浦(必死な人間、か。そういえば、イヤイヤ言う割に宵越が手を抜いてるのは見たことねえな)
 
宵越がカバディ部へ入った経緯は、けして円満なものではない。畦道に粘られ井浦に脅され、勝負に負けての渋々ながらの入部。サッカー部への勧誘に来た竹中監督に部活はもう「決めさせられた」と答えるほど、傍から見る彼の態度は不満たらたらである。
しかしその表面的な関係の浅さに反して、宵越のカバディへの姿勢は真剣そのものだ。(守備で手を繋ぐのが嫌にしても)攻撃の練習はキャントし通しで非常に疲れるのに音を上げないし、井浦は宵越がいやいや言いながら練習で手を抜いていないのに気付く。宵越の必死さは、競技への繋がりは目に見えないが確かに存在している。
 
 

3.感情むき出しで接触できる"繋がり"

目に見えないところにこそ繋がりがある。ならば本作でもっとも見えないのは何だろう?――それは宵越と他の部員との繋がりだ。

 

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©2020武蔵野創・小学館/灼熱カバディ製作委員会
畦道「なんか必勝法思いついたんけ?教えて教えて!」
宵越「フン、バカには真似できん」

 

宵越は基本、他の部員に口が悪い。ことあるごとに畦道をバカ呼ばわりし、伊達と水澄はまとめてガチムチ扱い。一緒に靴を買いに行くと言われて逃げ出そうとすらする。彼らが嫌いかと聞けばきっと肯定するだろう。
 

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©2020武蔵野創・小学館/灼熱カバディ製作委員会

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©2020武蔵野創・小学館/灼熱カバディ製作委員会
宵越「止めんな、全男子のためにこいつはここで殺す!」
 
しかし悪し様に言いながらも、カバディ部の面々と過ごす時の彼の感情はよく動く。特に畦道への対抗意識はカバディに限らず彼女の有無にすら及び、ツッコミ役の立場をかなぐり捨てて嫉妬をあらわにするほどだ。相手と繋がっていなければ、遠慮なく感情をぶつけることなどできはしない。カバディ部と畦道をバカにしたバスケット部へ腹を立てた場面からも分かるように*1、彼にとってカバディ部は既にこの上なく大切な場所になっている。
 

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©2020武蔵野創・小学館/灼熱カバディ製作委員会
水澄「せめて宵越が守備もできりゃなあ」
宵越「手を繋がなくていいならやってもいいぞ」

 

部員数の少ない苦境に、宵越は自分も守備練習をするのを承諾する。手を繋ぐのは拒否するが、その一線に隠れて確かに繋がりの承認がある。
手を繋ぐようなベタベタした、目に見える繋がりを宵越は信じられない。だから自身もまた、目に見える形で繋がりを――信頼を示さない。示さないところに、またそれが許されるところにむしろ繋がりの強さがある。*2
それは人間関係という繋がりに一度絶望してしまった宵越の不器用な愛情表現であり、再起が始まった徴でもあるのだろう。コミュニケーションによって生まれた傷は、同じくコミュニケーションによって癒されるのだ。
 
 

感想

というわけで灼熱カバディの2話レビューでした。ハットトリックやサッカーとの共通点で描かれたような「繋がりは見えるとは限らない」だけだとちょっと弱いのではと感じたのですが、宵越の態度にも当てはめられると分かってぐっと味わいが増しました。彼の回復がもう1つの柱でもあるんだな、本作。いずれチェーンする日も来るのかな。
 
前回は宵越が畦道に投げられて救われるのにウルっとしてしまいましたが、今回は畦道に美人の彼女がいるのにブチギレてるのが本当に幸せそうで爆笑しました。ツッコミ役の傍観者に収まってたら絶対味わえてないよその感情。宵越のモノローグに同調して一緒に畦道を殴りたくなった視聴者も多いかと思いますが、それハマってる証拠なので大切。
1話の期待を裏切らない、ますます今後が楽しみになる2話でした。
 
 
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*1:畦道にバスケ部員の悪意を伝えることなく反撃させ、彼らをビビらせたらそれだけでスッキリする。ツンデレとしてあまりにスマートかつ好意がだだ漏れなパーフェクトムーブ

*2:サッカー部監督が宵越と畦道達を男色関係と誤認するのはコミカルだが、関係性の深度だけなら間違いではない