終わりなきストラグル――「灼熱カバディ」7話レビュー&感想

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©2020武蔵野創・小学館/灼熱カバディ製作委員会
もがき続ける「灼熱カバディ」7話。奏和との練習試合はこれからというところで終りを迎える。消化不良とも言える結末はしかし無意味ではない。いや、消化不良だからこそ意味を持つ。
 
 

灼熱カバディ 第7話「STRUGGLE」

後半戦開始。王城と高谷が激しい攻防を繰り広げ、能京は点差を4点まで縮める。しかし、井浦が次の攻撃は王城を出さないと言い出す。疲労の溜まった王城が怪我をしたら大会に出場できなくなってしまう。ここで能京の目標を終わらせないための決断だった。井浦の真意を理解した王城は、高谷を追い出す大役を宵越に託す。
 
 

1.消化不良あればこそ前へ進める

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©2020武蔵野創・小学館/灼熱カバディ製作委員会
宵越「こっからだったんだ。高谷も六弦も倒して……」
 
宵越達の能京高校と奏和の練習試合は、六弦のレイドを防ぐことに成功するも最後の攻撃時間が残されておらず敗北に終わった。1秒でも時間が残されていれば攻撃を開始できたのに、開始さえできれば逆転できたのに、逆転のためのお膳立ては全てできたのにそれが叶うことはなかった。高ぶる思いは行きどころを失ってしまった――消化不良になってしまった。だが、消化不良なのはこれが初めてではない。
 

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王城「宵越君、君が僕の代わりだ。高谷煉を追い出せるのは君だ」
 
王城はこれまで高谷と競り合い4点差まで追い上げながら、その脆い体と疲労故に勝負所を宵越に託さねばならなかった。井浦の「俺も勝たせてくれよ」という冗談からくすぶっていた思いを、自ら実現することは叶わなかった。
 

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宵越(いつも最善を尽くしてきた、でも俺は何度も負けた!)
 
宵越は何度も敗北してきた。1年組と2年組の練習では思わぬ共闘ができても上を行かれ、レイダーとしては王城に完全に上を行かれ、この練習試合でも何度も辛酸を嘗めてきた。けして手を抜いていたわけではない。最善を尽くして、しかしそれはこれまで報われてこなかった。
 
最後まで自分で決められなかった王城の心にも、何度も負けてきた宵越の心にも悔しさはある。納得などできてはいない。悔しさは消えていない――消化などできていない。
けれどそれでいいのだ。高谷に何度も沈められ何度も力の差を見せつけられ、しかし宵越はそれを諦めなかった。諦めという形で消化しなかった。もがき続けた。
 

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宵越(だから俺は、俺の最善を越えていく!)
 
消化不良の思いこそ心の燃料であり、人を強くする。内なる心の灼熱は、未だ消化されぬものを燃やして生まれるものなのである。
 
 

2.灼熱の尽きる時

消化できぬ思いこそ人が進む原動力となる。ならば、思いが消化された時こそ人の歩みは止まる。納得した時こそ、人の歩みは止まる。
 

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©2020武蔵野創・小学館/灼熱カバディ製作委員会 「灼熱カバディ」6話より
六弦(前半をいいタイミングで終わらせた。狙ったのか、王城が?そんな周到さは無かったはず)
 
前回、王城の時間調整に六弦は首を捻った。自分の知る彼はそういうことができるタイプではなかったのに何故――この時六弦は、王城の行動の謎に"接触"している。接触カバディで言えばもちろん"ストラグル"であり、六弦はこの時点では点数を持ち帰れてはいない。そしてストラグルは今回、その原義からもう一つの意味を獲得する。
 

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井浦「本来ストラグル(struggle)ってのは"もがく"って意味だからな。捕まっても自陣へ帰ろうともがき進んでいたら、攻撃は終わりじゃない」
 
ストラグルとはもがくこと。ならば六弦は王城の周到な行動の謎が解けるまでもがき続けなくてはならない。それを消化不良のものとして抱え続けなければならない。
 

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六弦(う、腕を!どこまで読んでいるんだこの男は、離れん!)
 
王城と宵越まで、いやレイダー全員を投入した守備に六弦は困惑し、同時に納得していく。王城に周到さを与えたのは誰か。能京をワンマンチームでなくしたのは誰か。この守備を考えた司令塔は誰か。彼は井浦という男をようやく知った。王城のような圧倒的な執念も宵越のような身体能力も持たない彼こそ自分の疑念の正体だったのだと、納得した。
 

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井浦(それでも俺がもがき続けるのはきっと……辛いこと以上に、カバディがおもしれーからなんだろう)

 

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六弦(王城の友人、俺は自分で聞くぞ。聞かなければならない。俺を倒した、この強敵の名を……)
 
納得すれば燃料は尽きる。前進する力は途絶える。六弦を止めたのは腕力より何より、井浦が六弦にもたらした納得であった。そして井浦が彼を止められたのも、自分がもがき続ける理由に対する納得を得られたからだったのだ。
 
 

3.終わりなきストラグル

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審判「奏和攻撃失敗、能京1点獲得!同時にタイムアップ、試合終了です!」
 
消化不良を燃やし尽くして宵越は、井浦はそれぞれ因縁の相手に一矢報いた。しかし全てを消化できた状態などは一時的なものに過ぎない。何かを消化すれば必ず、人は次の消化不良に行き当たる。能京にとってのそれは最初に書いたように、時間切れで最後の攻撃ができずに終わる敗北であった。そして、その消化不良は偶然が引き起こしたものではない。
 

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六弦「どんな強者も時間には勝てん。能京も前半終了のタイミングで奏和のローナを狙っただろう。時間の使い方を参考にさせてもらったぞ」
 
六弦は前半でしてやられた時間調整の経験を無為にせず、自らの新たな武器としていた。力だけじゃなくなっていると前回も王城から評価されたように、彼もまた常に前へ進み続けている――それは、彼もまた消化不良を常に抱え続けてきたということだ。力で勝るのに王城に勝てないのはなぜか?点数で勝っているのにそう思えない状況になったのはなぜか?六弦はそれを一つ一つ拾い上げ、自らの力としてきた。
 

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高谷「俺に勝ったらどうする?多分また新しい敵が現れて、それを倒しての繰り返し!」
 
試合後の高谷の言葉は示唆的だ。もがき続ければ、人はいつか抱えた思いを消化できるかもしれない。しかしそれは次なる消化不良の幕開けでしかなく、永遠にも思える闘争の日々が待っている。
 

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竹中「頂点に立つまで苦しみ続ける、呪いにかかったようなものだ」
 
竹中監督が言うようにそれは呪いのようなもので、だから多くの人はどこかで闘争を諦める。才能が違う、環境が違う、現実なんてこんなもの――だが同時に、闘争の日こそ々は人を強くするものだ。諦めの形で"消化"しない限り、手に入れられるものがある。そしてそのためには、消化できぬものをただ抱えるのではなく前に進み続けねばならない。もがき続けねばならない。
 

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宵越「不倒を初めて倒したのは誰だと思ってる」
 
だから宵越は負けの悔しさを胸に走り、座り込んでしまった畦道をすくい上げる。そして、それはけして一方的な救済ではない。
不倒の宵越を初めて倒したのは畦道だ。サッカーで人との繋がりに絶望して、立ち止まっていた自分に消化不良の悔しさをもたらしたのは彼だ。畦道がいたから、宵越は再び前へ進もうともがけるようになった。畦道は、自分が救った宵越にこそ救われたのだった。
 
人の一生は消化不良と納得の繰り返しだ。人と人の繋がりも消化不良と納得の繰り返しだ。呪いのようでもわずかずつでも、それをもがき繰り返す限り人は前に進めるのである。
 
 

感想

というわけで灼熱カバディの7話レビューでした。「消化不良」だけで書けるかなと思ったのですが、最後の守備の時の井浦と六弦の顔があんまりきれいで、消化不良と納得の繰り返しという内容に落ち着きました。宵越のレイド、井浦が組んだアンティ、宵越の畦道への言葉。今回だけで3回涙ぐんだぞ。あと六弦が井浦を認めても相変わらずムカつかせるところとか、ほんと終わりなき闘争という感じ。
それとここは上手く言語化できてないですが、試合後の握手が本作だといっそう意味深く感じられるのが良かったです。接触のスポーツだものな。
 
次回はOP・EDでは既に姿を見せていた新メンバー残り3人の登場ということで、彼らが何をもたらしてくれるのか楽しみに待ちたいと思います。
 
 

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