前進するから繰り返す――「灼熱カバディ」11話レビュー&感想

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©2020武蔵野創・小学館/灼熱カバディ製作委員会
過去と対峙する「灼熱カバディ」。11話では火のついた佐倉の猛攻に能京は大ピンチに陥る。佐倉の強さもそれへの対抗も、全ては一つの要素に基づく――そう、「過去」である。
 
 

灼熱カバディ 第11話「目指す方向」

佐倉がエースとして覚醒し、一度の攻撃で信じられない大量得点をあげる。萎縮する能京。だが、宵越だけは違った。攻撃に出た宵越はこの場面を立て直すべく、一瞬の隙を狙って佐倉に新たな技を仕掛ける。「あの技は?!」と驚く一同。ところが、集中力を取り戻した佐倉によって帰還を阻まれ、遂に逆転されてしまう。
 
 

1.過去は消えない

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©2020武蔵野創・小学館/灼熱カバディ製作委員会
佐倉(関わる人全てが僕の、力だ!)
 
11話は一度に7得点という佐倉の異常な戦果で幕を開けるが、それは一瞬で多くの人間に触るようなものではない。一人また一人と触れていくことで能京に後に引けなくあるいは諦めさせ、既に触った関すら継続利用し、終わってみれば記録的な点数を挙げていたというもの。すなわちそれは絶技である以上に、小さな過去の積み重ねによって生み出されたものだ。相手に小さく触れるイメージを送り込んだところから――いやその前、「感謝」によって大量の練習をこなした時点から、佐倉の7得点への積み重ねは始まっていた。
 

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審判「能京、攻撃失敗!ローナ、紅葉3点獲得!」
 
過去は消えない。7人守備から一挙に6人がむしり取られる状況は宵越の攻撃失敗でのローナに繋がるし、その後も能京は常に大量失点を警戒し続けなければならない。佐倉の7得点は、単なる数字の7よりもずっと大きな過去となって宵越達の脳裏にのしかかる。
 
 

2.過去は消えないから先に進める

過去は消えない。それは脳裏から消えないという以上に、もっともっと大きな意味を持っている。
 

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宵越「俺の目指した方向、どっかで間違ってたのかな」
 
宵越は新技「バック」の失敗に気落ちしている。それがローナを招いたから……だけではない。彼がその技に少なからぬ練習時間を、つまり過去を費やしてきたからだ。重要なのは練習量だけではなくその質、方向性。バックを使い物にできないのであれば、そこに捧げた過去そのものが無駄になってしまう。だから気落ちするのだ。
 

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王城「同じことを昔考えた。君が使ったあの技、『バック』は僕も目指した技だ」
 
失敗を忘れさせようとすることは消えない過去を無理に消そうとすることであり、それは宵越にとって慰めとならない。彼に必要なのはそうではなく、費やした過去の肯定である。だから王城が自分もバックを練習していた過去を明かすことは、宵越にとって何よりの励ましとなる。宵越にとっての目標は王城であり、彼と同じ方向を向けていたことはそれだけで宵越にとって過去の肯定に値するものだった。
 

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王城「僕の目指した技術は、間違ってたのかな?」
 
また、興味深いのはこれが王城自身にとっても過去の肯定となる点だろう。王城も確かにバックの練習はしたが、筋力のない彼には負担が大き過ぎ完成させることはできなかった。足を壊して入院にまで至ったその過去は、それだけ見れば間違いなく失敗である。
しかしその経験が宵越の成長に生きるならば、王城の失敗の過去もただ失敗では終わらなくなる。足使いに優れ健脚の宵越ならば、自分にはできなかったバックも習得しあるいは更に先へ進むことができるかもしれない。もし成せれば、それは王城が目指した方向性そのものは間違っていなかった何よりの証明となるだろう。
 

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王城の激励を受け、宵越は自分の過去を肯定的に活かす。失敗したとは言えバックを見せたことは相手に警戒を呼び、カットとの二択だけでも十分に頭を悩ませる。加えてバックの直後に足をもつれさせた過去も今度は相手へのタックルに転用し、今度こそは自陣へ帰って見せる。更には宵越は、転倒の転用に満足せずに新たな技の可能性までも見出すに至った。これらは全て、過去を消さず生かして生み出したもの。
過去は消えず、消えないからこそ先に繋げられるのである。
 
 

3.されど過去は繰り返す

過去は消えず、消えないからこそ先に繋げられる。だがそれはけして苦難の消失を意味しない。消えない過去を積み重ねているのは、けして自分だけではないからだ。
 

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水澄(いない方がマシだなんて、ダセえセリフは口に出さねえ!)
 
水澄は今回の練習試合前、昨年の公式戦で全く役に立てなかった歯がゆい「過去」を私達視聴者に開示した。彼にとってその悔しさは今なお消えぬものであり、事情を知らない関の一言に反応してしまうほど強く刻まれている。
消えない過去の繰り返しを防ぐべく、水澄は努力を積み重ねてきた。圧倒的な強さを持つ佐倉の攻めに反応できなかった過去も、回避狙いと認識させた過去として再利用しようとした。自分が狙っていると思わせない過去を、十分に積み重ねたはずだった。
 

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しかし、佐倉には水澄の全身全霊のキャッチも通用しない。「狙っていないように見えて狙っている」のはカバディでは日常茶飯事であり、水澄以上に経験という過去を積み重ねてきた佐倉にとってはありふれた仕掛けでしかなかった。
 

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過去は消えず、消えないからこそ先に繋げられる。しかしそれは誰もが同じだからこそ、前に進んでいようと過去は繰り返される。なら、人はいかにしてそれに立ち向かえばいいのか。
かつて能京は、逆転のきっかけを掴みながらも時間の壁に阻まれそれを果たすことができなかった。今回もまた、立ちふさがるのは点差と共に残り時間1分という時間の壁である。アニメ最終回となる次回、宵越達が何を見せてくれるのか期待したい。
 

感想

というわけで灼熱カバディの11話レビューでした。今回は手強かった! 4回ほど見ても全然とっかかりが掴めず頭を抱えました。
アニメレビューが書けない時は気分転換も重要ですが、いちばん大切なのは繰り返し見ること。進歩が無いようでも何度も見ることで頭の中が整理されてやがてひらめきが訪れる……のですが、それまでがやっぱり苦しい。4回目あたりが一番絶望的な気持ちになります。まあつまり今回能京が陥るようなピンチは、カバディやスポーツに限らずぶつかる壁なのでしょう。失敗の取り扱いという意味では「ゾンビランドサガ リベンジ」も近いことを描いているように思います。
 
衝撃を受けた1話から燃え続けたこのアニメも、気付けば次回で最終回。「ここで終わる意味」の大きさを見せてくれることを期待しています。もちろん、できればその先も。
 
 

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