半回転と一回転――「灼熱カバディ」10話レビュー&感想

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©2020武蔵野創・小学館/灼熱カバディ製作委員会
新たなエースの形を見せる「灼熱カバディ」。紅葉のエース・佐倉は合同練習で回転を攻撃以外にも使ってみせる。そう、回転は武器である以上に10話を象徴する概念だ。
 
 

灼熱カバディ 第10話「エースだから」

王城の後輩だった佐倉学にライバル心を燃やす宵越。そして、師匠である王城を越えたい佐倉。いわば兄弟弟子の2人がコートの上で激突する。宵越はひそかに磨いていた新技を繰り出し、更なる成長を見せる。一方、佐倉も複雑な思いを胸に王城と対峙する。一進一退の攻防が続く中、思いもよらぬアクシデントが発生し……。
 

1.回転の概念を拡張せよ

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©2020武蔵野創・小学館/灼熱カバディ製作委員会
佐倉「少し違うけど、回転は攻撃以外、回避にも使えるね」
 
佐倉が言うように「回転」は今回、様々な用途への広がりを見せる。
1つ目は佐倉が披露する帰還時やキャッチ後の身体の回転。
2つ目は王城や右藤が見せる、地面や上下と言った天地の回転。
そして3つ目は、王城と右藤のカウンター封じの応酬に見られるような思考の回転。
 
体を回すにはまず精神が回らねばならず、回せることに気付かねば思いつけもしない。10話における回転とは単なるテクニックではなく、思考のありようを表す概念なのである。
 
回転を思考として捉えた時、それはけして単なる機転や発想に留まらない。今回もっとも回転しているのは、ぐるぐると頭を悩ませているのは誰か?――言うまでもない。ほとんど今回の主役と言える扱いを受ける紅葉のエース・佐倉学だ。
 
 

2.半回転と一回転

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©2020武蔵野創・小学館/灼熱カバディ製作委員会
佐倉(僕は何をしてる。尊敬してる人に怪我を負わせて結局、止められもしない!)
 
佐倉学はけして精神的に安定した人間ではなく、それゆえ過去も現在も繰り返し悩んでいる。祖母を安心させたい思いが強かったが故に、彼女の病が理由で一時はカバディを離れていた。王城との対決で敗北の上相手に怪我をさせればそれに思い悩み、コートに戻ってもすぐには吹っ切れない。この10話は彼にとって、悩みの30分と言って良い。
ただ、そんな彼をただ弱いと切って捨てるのは簡単だが、これらはどれも彼の優しさから生まれている。悩みは全て、祖母を慕い王城に憧れる優しさが「回転」した結果によるものだ。
 

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佐倉「ううん。ただ僕はいつも、敵が自分の予想を2,3段階越えてくることを想像する。それだけなんだ」
 
回転すれば弱さになってしまうなら、優しさなどは不要なのか?否。合同練習での佐倉の見事な攻めには、彼の優しさと回転が確かに活かされていた。
敵が自分の予想を2,3段階越えてくるのを想像する発想は一時カバディを離れていたハンディから生まれたものだし、回転の応用は憧れの王城の技を発展(回転)させたもの。そこでは、彼の優しさは回転の結果むしろ強みとなっていた。
 
なぜ、佐倉の好循環的な回転は止まってしまったのか? 始まりはズバリ、物理的に回転が止まる場面に象徴されている。
 

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佐倉(目線は地面から壁へ、壁から天井へ、そして天井から……)
 

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佐倉(!?)
 
練習試合最初の攻めの際、井浦達3人の連携で佐倉の回転は止められている。正確に言えば、回っているが回りきれてはいない。すなわちこの時、佐倉の回転は一回転ではなく半回転・・・で止まってしまった。それに象徴されるように彼の思考の好循環は止まり、全ては中途半端になってしまった。
優しさは一回転すれば強さになるが、半回転では弱さになってしまうのだ。
 
半回転で止まってしまったなら、佐倉を再起動するにはもう半回転させればいい*1。部の立ち上げも攻めの奇策もローナ(全滅の回転)も発破も、右藤達の踏ん張りは全て、一回転せねば強さを発揮できない佐倉をきっちり回転させるためにこそあった。そして、この30分で佐倉は確かに一回転する。
 

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佐倉(気持ちに従って戻ってしまえば、期待という重しを課せられる。でも……)
 

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佐倉(重いけど辛くはない。この期待は、フラフラ悩む僕を支えてくれる錨!)
 
期待という重しを一回転させて錨となす。その時、佐倉の優しさはエースに相応しい力の源になる。9点差の余裕をもってなお、宵越を不安にさせるだけの力がそこにある。
この練習試合はまだまだ終わっていない。これからこそ、両校の戦いの回転は始まるのだ。
 
 

感想

というわけで灼熱カバディの10話レビューでした。ここしばらくは悩んで夜中までかかってしまうことが多かったですが、今回は回転というモチーフに早めに気付けたおかげでさほど悩まずに書けました。回転について書き連ねていく中で半回転の発想が生まれて完成!という感じ。
 
同じくエースの高谷とは大きく違った佐倉のありように最初は戸惑いましたが、こうやって書いてみて彼の強さの理由が見えてきた気がします。強さと弱さを単に裏表とするより、もう一歩踏み込んだキャラクター造形ができているのではないかと。
明白な強豪に挑むイメージだった奏和戦とはまた違う紅葉戦、収穫もまた違ったものになりそうですね。次回の試合展開が楽しみです。
 
 

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*1:右藤「お前はうちじゃ誰より強いと自覚してる。なんで他のチームに対してそう思えない?」