生命の危機、体面の危機――「戦闘員、派遣します!」9話レビュー&感想

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
極限状況が本質を顕にする「戦闘員、派遣します!」。9話で六号は早々に生命の危機、直後に帰路の危機に襲われる。戦いとは異なる危機――それはけして、単に砂漠で生き残れるかどうかだけの危機ではない。
 

 

戦闘員、派遣します! 第9話「肉食系女子キメラ」
トリス王国との交渉は大失敗に終わった。
その代わりにと、テザン砂漠の中央にだけ生えている
《水の実》を採りに行くよう命じられた六号たち。
ところが、その砂漠には恐ろしい脅威が潜んでいて……。

公式サイトあらすじより)

 

1.生命の危機は体面の危機

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
アリス「出たな魔力。その胡散臭いオカルト語を聞く度に、自分の存在が否定されてるようでイラッとすんだよ」
 
前提は人にとって大切なものだ。それは判断や選択はもちろんのこと、ものによっては己の存在の礎ですらあるから簡単にはゆるがせにできない。なまじそれを崩せば最後、以前の自分には戻れなくなってしまう。しかし、そのぐらつきと無縁の一生というのもなかなかあるものではない。
 

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
六号(今ならオークも食える気がする)
 
前提が揺らぎやすい状況の1つはもちろん、これまでと環境が異なる場合だ。地球から異星へやってきた六号やアリスにとって砂漠に生えた樹や体積以上の水を含む実の存在は驚きだし、それが巨大魔獣・砂の王の器官で相手を刺激してしまっていたと知れば地球に帰りたくもなる。そして六号達は今回、文化の違いとは異なる理由によっても前提を揺るがされる。すなわち、生命の危機。
人が己の行動を抑制できるのは、自らの生が保証されている安堵によるところが大きい。その前提が崩れた時、いつも通りの行動は必ずしも最適解とならない。いつもは知的生命体を食べるのを嫌がる六号も、他に手がないとなればオークを食べることへの忌避も薄れる。
 
この9話で六号達は砂漠を徒歩で横断することになり、その極限状況に判断を狂わせていく。生命の危機とは人が己の前提を、つまり「体面」を問い直される危機でもあるのだ。
 
 

2.何も進展しないから素晴らしい

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
六号「ま、待て。お前の出番はまだ早い。こういうのはエロ担当で良心が痛まないスノウを先に……」
 
六号はこれまでロゼを性的な目で見たことはなかった。純真で容姿も幼い彼女に肉欲などはまだ早い概念だし、六号も敢えてロゼに欲情する理由はなく、そうした視線やからかいはスノウやグリムに向ければ事足りていた*1
しかし前提が揺らげば話は変わってくる。無垢だと思っていたロゼが自分に性的欲求を抱いていると勘違いし、普段いたずらをするスノウが倒れ、悪行ポイントを稼がねば生死に関わる……となれば六号が躊躇う理由もさすがに吹っ飛んでしまう。劇中でも言及される「一線」を越えそうになるのも当然ではある。
 

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
ロゼ「おじいちゃんが言ってました、人は恋すると好きな相手とは一つになりたくなるって!」
六号「それは正しいがお前の解釈は間違ってる!」

 

しかし蓋を開けてみれば、ロゼが越えそうになっていたのは色恋の一線ではなく食人の一線であった。もちろん六号に食べられる趣味などはなく、噛み合わぬ二人は共に一線を越えぬ結果に――これまでの前提、体面の崩れぬ関係が維持されることになった。
 

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
アリス「ま、この分ならなんとかなりそうだな」
 
1話で示されたように、体面を破壊して逆に体面を守るのが六号だしこの作品だ。だから砂漠で渇き死ぬ恐れで体面がぐらついても、最終的に彼らは「一線」を越えない。
グリムやスノウのように死んだり倒れてしまえばヘタレの六号は襲うのを断念するし、ロゼは食欲メインのままだったおかげで純真さを失わずに済んだし食人もせずに済んだ。六号もまた、ロゼがそうあるおかげで彼女と恋愛関係になったりスノウにするような形ではなく悪行ポイントを積むことができた。
 

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
アリス「昨日はお楽しみだったじゃねえか」
六号「アホか!一線越えてねえし、命をかけてセクハラ止まりじゃ割に合わんわ!」

 

今までのどの戦いよりも危険だったサバイバルを経てなお、5人の関係はほとんど変わっていない。生還と同じくらい重要なのはその点だ。六号はスノウと一線を越えず、ロゼと食欲と肉欲を交えた関係にもならず、今まで通りのバカでヘタレで小物のままでいることに成功した。すなわち六号は、これまでにない危機においても体面を無事守ることができたのである。もちろんこれは、高性能アンドロイドのアリスさんの貢献によるところ大なのは言うまでもない。
 

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
アリス「どうせならその兵器、いただいちまおう!」
 
六号達はあくまで悪の秘密結社キサラギの一員だ。その体面は重要だ。彼らは異郷を歩く冒険家でも、国に都合良くパシられる偽の正義の味方でもない。だからティリスによるトリス王国の古代兵器無力化の依頼も、破壊ではなく奪取によって果たそうとする。
ハイネやラッセルも狙うその古代兵器とはいったい、何の体面を危うくする代物なのだろうか。
 
 

感想

というわけで戦闘員9話のレビューでした。ロゼはかわいいなあ。
今回は「人生は選択(問い直し)の繰り返し」みたいな感じで書き始めたのですが、書いてる内に今回六号が陥った危機は生命の危機だけじゃないんだなという方向になりました。悪行ポイント計測器の存在からすれば普通エロコメまっしぐらの状況なのに、終わってみれば誰とも関係が進展しないんだから逆にすごい。
 

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
しかしアリスさんを持ち上げる時にどこ触ってるんだ六号貴様、貴様。
 
 

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*1:それはそれで十分酷い