黒のリリスは勇者様――「戦闘員、派遣します!」10話レビュー

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
体面の危機に立ち向かい続ける「戦闘員、派遣します!」。10話でこの危機に遭遇するのは六号ではなく地球のアスタロト達。そして体面の守護者は悪行ポイントを加算される者――リリスである。
 
 

戦闘員、派遣します! 第10話「キサラギ幹部、配信します!」

秘密結社キサラギは、ヒーローたちによる大規模な反抗作戦を耐えきった
怪人や戦闘員たちをねぎらうために大宴会を開く。
アスタロトたち三幹部もナイトプールでつかの間の休息を取るが、
リリスが何やら企んでいて……。

公式サイトあらすじより)

 
 

1.慰労会で起きている危機

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
アスタロト「ヒーロー達による大規模な反攻作戦を耐え切ったとは言え、いくらなんでも緩み過ぎじゃない?」
 
もとより秘密結社キサラギは「体面の危機」に瀕している組織である。侵略を目論まなければ悪の組織とは言えず、ゆえに本当に世界征服してしまえば自壊して(戦闘員のリストラをせざるを得なくなって)しまう。ヒーロー達の反攻がある内はまだ体面を維持できるが、一度は手が回らなくなったほどだったそれもアスタロト達は無事乗り切ってしまった。今回の慰労会は状況としては世界征服完遂の事前テストのようなもので、だから悪の組織として緩み過ぎではないかとアスタロトは懸念するのである。
 

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会

アスタロト「そりゃ、あいつが誰に入れるか気にならないと言えば嘘になるわよ」

 
また、体面の危機の問題を抱えているのはアスタロト個人も同様だ。氷結の異名に相応しいクールな態度を心がけている彼女だが、ベリアルやリリスにもバレバレなように彼女は六号にぞっこん。恋する乙女になってしまえば(元々薄いが)クールさの仮面は、体面は剥がれ落ちてしまう。
 

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
組織の体面の危機、幹部の体面の危機。にぎやかな雰囲気と裏腹に、キサラギは重大な危機に直面している。六号不在の今、誰かが彼に変わって「体面を壊すことで体面を守る」重責を担わなければならない。それを今回背負って立った小さな勇者こそはキサラギ最高幹部の一人・黒のリリスであった。
 
 

2.今回リリスが守ったもの

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
あえて書くまでもなく、ナイトプールが舞台のこの10話はサービス回だ。アスタロトやベリアルはいつも以上に露出の激しい水着に身を包み、隙あらばとばかりに揺れる二人の胸や肢体は視聴者を釘付けにする力を秘めている。ただ、サービスショットというのは加減が難しい。あくまで神の目から得られるはずのお色気シーンも、あまりに露骨になってしまえば単なる下品な代物に成り下がってしまう。
 

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
だが、この10話はリリスがこっそりライブ配信することによってサービスショットに「盗撮」の属性を加えている。盗撮*1は被写体の見たい部分にフォーカスしてこそであるから、机の下の下半身に迫ったり胸を上から覗き込むようなあからさまなアングルにもちゃんと言い訳が立つ。「これはけして神(製作者)の目線がいやらしいのではない、劇中のリリスの目線がいやらしいのだ」……と。背徳感まで加味しながら、サービスショットとしての体面は守られている・・・・・・・・・のである。
 

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
リリス「はいはいボクが悪いボクが悪い。悪の組織の構成員が悪いことして何が悪いんだ!」
 
そしてリリスが体面の守護者として優秀なのは、盗撮を始めとした行いが言い逃れようのない悪行である点だ。仲間を盗撮配信していいわけはないし、人気投票でハッキングや得票のために戦闘員を大量雇用して許されるわけがない。悪の組織の大幹部だからといってやっていいことといけないことはある――だが、悪の組織はやってはいけないことをやってこそ悪の組織のはずだ。ベリアルとアスタロトのお人よしさをぶち壊しにして開き直り、尻を叩いたり胸を揉みさえするリリスの所業は、破壊的だが誰よりも悪の組織の体面を守っている。
 

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会
アスタロト「今から、我々はキサラギこそが最強であることをここに証明する!……だからあなた達も、魔王軍になんて負けるんじゃないわよ」
 
リリスのこの献身的な悪行により、世界征服の事前テストである慰労会でも悪の組織の体面はなんとか守られる。最後の体面の守護は、リリスが慰労会を世界中に配信したことによるヒーロー達の来襲――大ポカもいいところだが、ヒーローと戦うのならキサラギは何がどうでも悪の組織だ。魔王軍に負けるなと言うアスタロトの激励すら、この状況では悪の組織同士の張り合いの産物として体面を持つ。
 
体面を保つのはかくも至難の業であり、六号達もまた魔王軍相手には今回のリリスに負けない悪行をやってのけねばならない。出発を前に、六号達にはさりげなく非常に高いハードルが課せられたのだった。
 
 

余談

本編からは外れるが、今回は次回予告が異星側になっており、六号が前回悪行ポイントを前借りできなかった理由が明かされる。六号は未だ知らないが、それはアリスがこっそり前借り禁止を申請していたからであった。
 

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©2021 暁なつめ, カカオ・ランタン/KADOKAWA/「戦闘員、派遣します!」製作委員会

アリス「緊急時には前借り許可申請をもっかい出して、恩に着せてやるとしよう」

 
アリスは六号に恩を着せるプランを披露する。枚数もふんだんに使用したであろう悪い顔。しかしそれは単に六号を騙そうというのではなく、前借りOKにしているといつまで立っても地球に帰れないであろう彼を思いやってのものだ。悪い顔は、六号のための行動をそう感じさせない体面のためにこそある。
毒舌アンドロイドの体面を保ちながらも、アリスは今日も聖母のごとく甲斐甲斐しく六号の世話を焼いているのである。
 
 

感想

というわけで戦闘員10話のレビューでした。やー、今日は見立てが楽しいな。地球側メインということで初見時は不安になりましたが杞憂だった。リリスが言うようにアスタロト達ほんとにお人よしなので、彼女の存在は一服の清涼剤いや一滴の泥水として欠かせないんだなと思います。おまけにボクっ娘。これで眼鏡がモノクルでなければ危なかったかも知れない。
え、人気投票ですか? アリスさんがいない人気投票に意味は無いと思います。
 
 

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*1:言うまでもないが卑劣な犯罪です