暗所の正解――「オッドタクシー」9話レビュー&感想

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(C)P.I.C.S./小戸川交通パートナーズ
静けさの奥で混迷深まる「オッドタクシー」。9話で小戸川は、警官である大門弟の助けを求めず柿花の救出に向かう。本職ばかりが正解を出せるとは限らない。
 
 

オッドタクシー 第9話「ヒーローの憂鬱」

小戸川は今日も色々な客を乗せる。ただカーチェイスはあまり得意ではない。
 
 

1.最適解が正解とは限らない。

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ドブ「死んでも構わないんじゃなかったのかよ!」
小戸川「嫌だ嫌だ痛いのやだ、おっかねえ。なんだよアイツ、ほんとに日本かここ!?」

 

今回の小戸川の目的は何をおいても柿花の救出だ。ヤクザにさらわれた人間を助けると言うなら警察こそ本職、のはずだが、彼は大門弟に警察としての手助けを求めない。あわよくばドブをやっつけたい小戸川としては、今はまだ警察よりもチンピラの彼に助けを乞う方が理に適っている。餅は餅屋なのは言うまでもないが、その最適解が正解とは限らない。
これは本職という適性に限らず、もっと選択全般に言えることだ。例えばカーチェイスと銃撃を仕掛けてきた田中を撃退したのは喧嘩慣れしたドブの判断ではなく、痛みを恐れまた咄嗟に猫を轢くまいとハンドルを切った小戸川の臆病さが呼んだ幸運であった。
 
 

2.暗所の正解

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小戸川「あの時から情けなかったよ」
 
本職や最適解が正解をもたらすとは限らない。それは時に優しく、時にユーモラスだ。美人局に騙され借金まで抱え、自分の情けなさに打ちひしがれる柿花を救ったのは小戸川の思い出話――昔から情けない奴だと知ってるという話だったし、プレッシャーに耐えられなくなった樺沢を救ったのは信者ではなく標的のはずのドブの方だった。
後者に至ってはほとんど滑稽な程だが、しかし不思議とどちらにも温もりがある。ドブにしても自分を憔悴させた相手の人生相談に乗ってやるなど馬鹿げているが、それが落とし前の脅し取りをよりスムーズにしているのだから彼にとっても正解だ。
 

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剛力「だからと言って小戸川が危ない橋を渡るのは違うだろう、そんなに白川さんが好きか」
 
人も世の中も複雑だから、単純な理屈では馬鹿げているはずの行動が正解になることは珍しくない。未練を断ち切ろうと投げ捨てた指輪を柿花がもう一度拾いに行ってしまうのも、そこまでの理由はないはずなのに小戸川がドブをやっつけようと躍起になるのも、そういう意味ではあまり変わらない行動なのだろう。
 

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大家「亡くなってるの、どっちも」
 
そして、小戸川の過去の迫る剛力は、彼の過去自体が単純な理屈には合わない行動の塊であることを知る。既に一生分の家賃が払われている家から引き払おうとし、貸付ではない金よりも大きな金額を返そうとし、死んでいるはずの両親を行方不明と周囲には話す。小戸川の行動は、少なくとも単純な理屈には合わない。剛力がたどるのはきっと、それがどうして彼の中で「正解」なのかでもあるのだ。
 
 

感想

というわけでオッドタクシーの9話レビューでした。小戸川が警官を呼ばないことやドブの人生相談など「本職でない者が上手く機能している」のは割と早々に共通点として見つけられたのですが、それを「最適解でなくとも正解」になかなか拡張できず手間取った次第です。医者の剛力より小戸川の方が白川を自業自得と責めないあたりもこの範囲に入るかな。
 
劇伴やキャスト陣の演技もあって、バイオレンスな場面にもこれまでと違う緊張感が感じられる回だったと思います。だから小戸川の思い出話から笑い合う二人に心底ホッとするし、樺沢のバカさ加減にしんみりもするし、小戸川の過去にまだまだ何か隠されているらしいことに驚きもする。いよいよ終盤に入るといったところですが、これからどんな展開が待っているのでしょうね。
 
 

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