泥沼と懸命さ――「オッドタクシー」11話レビュー&感想

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(C)P.I.C.S./小戸川交通パートナーズ
物語の大きな秘密が明かされる「オッドタクシー」11話だが、それは事態をスッキリさせてはくれない。解決策が事態を改善してくれるとは限らない。
 
 

オッドタクシー 第11話「あの日に戻れたら」

小戸川は今日も色々な客を乗せる。職業柄、街中の駐車場には詳しい。
 

1.解決策が事態を改善してくれるとは限らない

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二階堂(人生に負けは必ず存在する。勉強、運動、芸術、全てにおいて能力の限界があり、そしてその全てに上がいた。容姿以外)
 
今回の前半は、二階堂ルイの回想形式で描かれる。負けず嫌いの彼女は同時に勉学やスポーツなどあらゆるもので負けを知り、アイドルオーディションを受けた。唯一つ容姿だけは誰に負けたこともなく、それを武器にすることが彼女を満たす解決策、のはずだった。
 

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二階堂(同い年の努力した人、負けを知ってる人、負けを恐れない人)
 
しかしアイドルにとって容姿は必要だがそれだけで全てが決まるわけではない。共にオーディションに合格した三矢ユキは恵まれた血統と環境、そしてそれを無駄にしない見識と能力といったアイドルに必要なものを豊富に兼ね備えた少女だった。マネージャーの山本がセンターに選んでいたのは二階堂だったが、デビュー直前にプロデューサーが選んだのは三矢の方――結果、二階堂の負けず嫌いは三矢への殺意にまでなってしまった。
 

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二階堂の殺意はどうすれば解決するか?もちろん、三矢がセンターでなくなればいい。そういう意味で、三矢の死は二階堂の抱えた悩みの解決策ではあるだろう。だがもちろん、彼女の死は事態を解決しても改善などはしない。事務所での彼女の変死は、隠蔽のため事務所と彼女のミステリーキッスにヤクザの強請のタネを与えることとなってしまった。更には三矢の不在をよく似た別人で誤魔化したことによる不振、またいつ自分も三矢の死体損壊・遺棄に関わったと知れるか分からない恐怖に二階堂は気が狂いそうな苦痛を覚える。
解決策を重ねてきたはずなのに、事態は改善しない。泥沼にはまり込むように、螺旋階段を駆け下りるように全ては悪化していく。
 
 

2.解決策にもならぬ解決策こそ

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今井「なんかもう、どうでもよくなりました」
 
解決策が事態を改善してくれるとは限らない。二階堂ルイ推しの今井にとって10億を巡る誘拐で一番心配なのはミステリーキッスのライブに行けない恐れだったわけだが、三矢ユキの死亡報道でライブが中止になればその懸念は解決するにはする。しかしそんな解決、彼が望むわけもない。山本にしてもこの事態は彼が10億円の強奪やヤノの裏切りに関わらなくて済む解決策ではあるが、やはりこんな解決を望むわけもない。人の世を構成する道理はあまりに複雑で、もがこうとも良かれと思おうとも些細なことで目論見は崩れていく。
 
この複雑怪奇な世界の糸を、解きほぐせるものはあるのか。道筋を示せているとまでは言えないが、その複雑さに力強く吠え返している男はいる。剛力だ。
 

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剛力「医者だからではない。……友達だからだ!」
 
町医者如きに扱えるものではないと言われた小戸川のメモリーノートについて、剛力は医者ではなく友達だから小戸川を助けたいのだと言い返す。論理としてはメチャクチャだ。剛力が小戸川のメモリーノートを正しく使える理由には全くなっていない。けれど今回の泥沼にはまり込んでいく回想でだって、そうした行為は未来を生み出してきた。
 

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例えば三矢の死体の第一発見者である二階堂ルイは本来、容疑者として疑われて然るべき立場だ。しかも自分が三矢に殺意を抱いていたことを明かせば、心象が悪くなるのは誰でも分かる。けれどそれすらも嘘偽りなく話した結果、山本は彼女の無実を信じてくれた。
 

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和田垣「わたしさ、このオーディションに落ちた時どうしても認めたくなくて、後で山本さんに直談判したんだ。『入れろ入れろ入れろー!』って」
 
また三矢の代役であった和田垣は本来、4番目とは言えオーディションに落選した人間だった。自分を入れろと直談判するなど、普通は非常識と言われても仕方がないだろう。しかし彼女は結局、代役としてであってもミステリーキッスに加入した。自分以外の人間となる役割を受け入れてまで、彼女は夢への切符を掴んだ。
 
損得や合理からすればバカバカしいはずの脇目も振らぬ行動はしかし、それゆえに世界の複雑な道理から逃れた働きを見せることがある。一介のタクシードライバーに過ぎない小戸川がドブに立ち向かうなんてバカなことをして、少なくともここまで善戦してきたことだって見ようによってはその一つであろう。今日をもっての解散を馬場から申し込まれたホモサピエンスがこれからやる漫才にしても、あるいは。
 
剛力が最後に吠えた懸命さは果たして、この物語を解決する鍵たり得るのか。残り2話、糸はもつれるばかりだ。
 

感想

というわけでオッドタクシー11話のレビューでした。12話で終わりと勘違いしてましたが13話あるのね。三矢ユキと練馬の女子高生の秘密が明かされ解決する!……が変死なので状況は全然改善しないあたり、「解決策が事態を改善してくれるとは限らない」今回の法則が視聴者にも当てはまっているのがすごい。むしろ小戸川がこれまで準備してきた作戦が台無しで混迷深まってるし。
それぞれにどんな結末が待っているのか、ますます目が離せません。