二人だからごちそうになる――「小林さんちのメイドラゴンS」9話レビュー&感想

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クール教信者双葉社/ドラゴン生活向上委員会
思いあふれる「小林さんちのメイドラゴンS」、エルマ尽くしの9話は彼女の労働環境への訴えから始まる。待遇改善を求めたエルマが今回得たのは、一体なんだろうか?
 
 

小林さんちのメイドラゴンS 第9話「いろいろワケがありまして(エルマざんまいです)」

待遇改善を要求する――!それはエルマの一言から始まった。小林さんたちの勤める会社は、極めて“黒”に近い。そこにエルマがようやくおかしいと気付き、旗を掲げたのだ。改善などどうせ無理だろうと高を括っていた小林さんだったが、ドラゴンのバイタリティは予想を遥か上回っていて……
 

1.エルマというキャラの優秀さ、扱い難さ

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小林さん「これいいね!」
エルマ「本当か!?」
小林さん「早速部長に提出だ!」

 

3パートで構成される今回はまずエルマが残業の低減を求めるところから幕を開けるが、考えてみればこれは今まで起きなかったのが不思議なくらいの出来事だ。今でこそポンコツ食欲魔神のイメージが強いが、元の世界では聖海の巫女とも崇められた彼女からすれば具体的な改善案を出すのは容易いこと。事実今回も、凄まじいスピードで改善案を改良したり労働組合を組織しようとしたりとその手腕は発揮されている。
 

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エルマ「修正したぞぉぉぉ!」
小林さん「だから早いよ」

 

しかしエルマの優秀さは人間基準からすればチート行為じみたものであり、それで労働環境が改善されては物語がリアリティを失ってしまう。彼女の優秀さを否定することなくリアリティを保つためにはどうすればいいか?――そう、相手側にもチート行為じみた優秀な人間を配置すればいい。改善案を受け取った専務は翔太の父、つまりある種のチート行為である魔法・・の使い手である。
 

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専務「さて。では、仕事の話をしようか」
 
もちろん彼は改善案のインクを動かして書き換えてしまうだとか、そういった直接的な形では魔法は使わない。エルマが聖海の巫女ではなく社員として自分を規定した時点で、そうした手法は使わない紳士協定が両者の間では結ばれている。今回専務が使うのはそういう魔法ではない。
 

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小林さん「だがしかし、専務は狡猾だった。道理と詭弁を使い分け、そのことごとくをいなしていったのだった」

 

小林さんが言うように専務の対応は狡猾だ。改善案の提出、集団での訴えとあくまで正攻法で訴えるエルマに対し、菓子による買収や道理と詭弁を使い分けてことごとく彼女の要望をいなしていく。正しさは確かにエルマにあるのに通らないのだから、言ってみれば専務は「言葉の魔法」を使っている。というより、それくらいの人間を擁して初めて、小林さんの会社はエルマありでもリアリティを保てると言った方がいいだろう。
 

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後に続くキャンプ話でも、千里眼を持つエルマの引率では翔太がいなければ迷子やブチギレからの正体隠しは成立しなかった。彼女は本来、食べ物で言うことを聞くチョロさがなければ釣り合いが、バランスが取れないほど扱いの難しいキャラクターなのである。
 
 

2.二人だからごちそうになる

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エルマ「今日は休日。美味しいお菓子を食べて過ごそう!」

先の段では、エルマというキャラは扱いが難しいことについて触れた。今回の話では専務や翔太がピンチヒッターを務めたが、そこに見えるのは彼女にパートナーがいない事実だ。
 

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本作のドラゴン達は基本的に、人間のパートナーを得ることによってそれへの理解を深めている。トールにとっての小林さん、ルコアにとっての翔太、カンナにとっての才川、ファフニールにとっての滝谷、イルルにとってのタケト……だがエルマだけはそういうパートナーを持っていない。
もちろんパートナーを得なければ人間を理解できないなどということはなく、彼女はむしろドラゴン達の中でも特に馴染んでいる方だろう。調和勢という所属もあるし、何より彼女が優秀なのは会社での話を見ても明らかだ。
 

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しかし優秀であることは、一人でできることはそれだけで全てを満たしてはくれない。かつてその優秀さで人々を導いた彼女を待っていたのは、一人孤独・・に崇められ共にいたトールからも見切りをつけられる寂しい結末であった。
 

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エルマ「美味しかったのは、お前が隣にいたからだ!」
 
眼鏡が似合って真面目で優秀で、美人でスタイルも良く眼鏡の似合う完璧なエルマにしかし欠けているもの。それがパートナーだ。誰かと一緒にいられる幸せだ。だから彼女は胸の丈を打ち明ける今回、トールを求めずにいられない。「トールが一緒にいたからご飯が美味しかった」……喧嘩も仲直りも一人ではできなくて、それこそはエルマにとって最高の"ごちそう"だったのである。
 

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小林さん「はーい、引き分け」
 
かくて今回、その優秀さ故の孤独なキャラを浮き彫りにしたエルマの物語は、トールと共に足をくすぐられて笑い転げる姿を描いて終わる。そこにはいつも二人がこだわる勝敗ではなく、引き分けというバランスの取れた幸せがある。パートナーが、二人一組となる存在がいたからこそ、彼女はそこにたどりつくことができた。
「待遇」改善を要求したエルマが得たもの。それは、トールと自分の「対偶」な関係だったのだ。
 
 

感想

というわけでメイドラゴン2期9話のレビューでした。まさかのダジャレである。いや自分でもどうかと思ったのですが、試しに仮説として考えて視聴したら全体との適合率がすごく高いんだもの。まあ対偶という概念自体、本作の大テーマとして見立てている「バランス」と非常に相性のいいものなので。
いろんな表情を見せるエルマがとてもかわいらしく、仲直りしたいと涙する場面に至ってはトールの反応もあってほとんど愛の告白を見ている気分になってしまいました。幸せで満腹です。
 

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星座占いもまさかの自分の誕生月にエルマが来てとても幸せな気分です。クレープ屋さんの前に行ったらエルマに会える?マジで?
 
 

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