大事なものは谷間にある――「小林さんちのメイドラゴンS」8話レビュー&感想

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クール教信者双葉社/ドラゴン生活向上委員会
父の日から始まる「小林さんちのメイドラゴンS」。8話は提供通り「チチに始まりチチに終わる」、物語そのものが両の乳房に挟まれるような構成になっている。今回はこれが示唆するものに着目してレビューを書いてみたい。
 
 

小林さんちのメイドラゴンS 第8話「世界に一つだけの(好きな言葉を続けてください)」

何やら部屋に籠り始める翔太。父の日のプレゼントとして魔術道具を制作するため、難しい魔術書を読み漁っていた。その難易度が高いため手伝おうと名乗り出るルコアだったが、自分一人の力でやり遂げたい、と断られてしまう。だがやはり制作は失敗続きで……。 

公式サイトあらすじより)

 
 

1.成果物の価値

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トール「気休めでしょう。いつも一緒に燃えてなくなるので」
小林さん「生々しい体験談だな」

 

今回は翔太がタリスマンを作る話、トールが風邪薬を探す話、イルルが人形の持ち主を探す話の3本立てだが、共通するのは成果物そのものはさほど価値のあるものではないことだろう。トールからすればタリスマンは人間と一緒に焼ける気休め同然のものだし、彼女の世界には風邪を治すどころか不死をもたらす薬だってある。イルルが持ち主を探す人形も高価とはされているがしょせん人形で、高校生が持つには幼いと嗤われる程度のものに過ぎない。
 

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翔太「お父さんに僕の実力を見せたいのに、これじゃ全然駄目で……」
 
気休め同然の護符、たかだか風邪を治す薬、あくまで人形。しかしそれらのために翔太やトール、イルルは必死に駆け回る。なぜか?彼らが探すものの価値はそれそのものには無いからだ。
父に自分の実力を見せたい、弱った小林さんに不安を感じずにいられない、自分がかつて捨てた人形に重ねて見てしまう……それぞれの大切な人や記憶と自分を結ぶアイテムだからこそ、翔太達は意固地なくらいそれらを追い求めている。価値とは、単独で発生するものとは限らないのだ。
 
 

2.価値の在り処

価値とは単独で発生するものとは限らない。これは実は、翔太達3人だけが体現しているわけではない。
 

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タケト(一見普通だけど、なんだ後ろに連れているパツキンメイド!?慣れているのか平然としてやがる、日常的にやらせてるのか? 確実にヤバイやつだこいつ……)
 
例えば翔太がプレイするオンラインゲーム。このジャンルのゲームの楽しみ(価値)はクリア報酬とは限らず、時間の共有そのものにもある。
例えばトールが小林さんのために作ったデスおじや。食材それぞれは悪くなくとも、食い合わせが悪ければそれはゲテモノ(負の価値)にもなる*1
例えばタケトから見た小林さんとトール。私達にはすっかり当たり前の光景も、初対面の彼からすれば驚くに値する価値がある。
 

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小林さん(実際、効いたかどうかは分からないけれど……そんな顔されたら、何入ってても効いたって言うよ)
 
単独では限界を迎えた価値も、何かと組み合わせとなれば新しく生まれ変わることもある。そしてその価値を少しでも誰かと共有できたなら、そこにはまた新たな価値が生まれてもいく。自分はプレゼントをもらえたわけではないルコアが、翔太の喜びと成長にこそ嬉しくなるように。ほとんど治りかけの状態でも小林さんがトールの薬を飲んで、それが最高の笑顔を生み出すように*2。イルルが自分を重ねた人形の拾い直しが、その思い入れを知ったタケトとの関係にも影響するように。
 

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価値とは、何かと何かの狭間に現れる幻影のようなものだ。それは両の乳房に、いやその谷間に人がどうしても惹き付けられてしまうのと同じことであろう。単なる狭い空間に過ぎないはずのそこにしかし、無限にも等しい夢がある。
 

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タケト「ばっお前……どこ挟んでんだよ!?」

イルル「ここが落ち着くんだ」

 

大事なものは、谷間にこそ存在するのである。
 

感想

というわけでメイドラゴン2期8話のレビューでした。この作品で父の日言われても空耳せずにおられんな、と思ってたら早々に作品内でツッコミが入って平伏。分かってますよねー。
三本三様のかわいさがあって素敵な回でした。タケトがいるとイルルは無垢さが際立って、小林さん達と一緒にいる時とは別の魅力がありますね。
次回はたっぷりエルマの回ということで、こちらも楽しみにしたいと思います。
 

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しかしこのスッと傘を開くトール。黙ってると一昔前の作品の有能メイドや執事みたい。
 
 

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*1:看病で作ってくれたのだからゲテモノと拒否できない、というのもある種の負の価値か

*2:熱では会社を休まない小林さんが、薬の副作用の猫化で同僚との関係性の価値を損なうから出社できないというのも面白い