私とあなたの強弱――「小林さんちのメイドラゴンS」6話レビュー&感想

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クール教信者双葉社/ドラゴン生活向上委員会
強きと弱きが共にある「小林さんちのメイドラゴンS」。6話、翔太はルコアに対する主導権を取り戻そうとする。弱者の立場から強者へ変わろうとするわけだが、つまり今回は強弱のバランスを見直すお話だ。
 
 

小林さんちのメイドラゴンS 第6話「合縁奇縁(片方はドラゴンです)」

毎日ルコアの奔放な接触アプローチに悩まされている翔太。本来なら自分が主人のはずなのに……。一人前の魔法使いを目指す身として、主導権を取り戻さなければ、と一念発起する。そこで翔太は、ルコアの弱点を探り始めるのだった。
 
 

1.翔太と滝谷の話の共通点

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6話は小林さんとトールは後景に下がり、ドラゴンと住まいや行動を共にする他の人間の話3本で30分が構成されている。
 
1.翔太がルコアから主導権を取り戻そうとする話
2.滝谷がファフニールに言うことを聞いてもらおうとする話
3.才川とカンナが一緒に遠くまで歩く話
 
3番は特殊として、1と2には分かりやすい共通点がある。「弱者が強者に対抗しようとする話」ということだ。翔太はルコアの接触アプローチに翻弄されて困っているし、滝谷は両親が来る日はファフニールに別の場所にいてほしいと頼むが聞いてもらえず困っている。その力に天と地の差がある以上、人間はドラゴンに対しては弱者とならざるを得ない(主人と使い魔、世帯主と居候なのに!)。だからそれを覆すにはどうすればいいか――強弱のバランスを見直させるにはどうすればいいかと翔太や滝谷は悩むのだ。
 

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トール「ルコアさんはあまり一つの場所にいられる性質じゃない。ちゃんと気に入ってそこにいるはずです」
 

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滝谷「ならせめて聞かせてよ。気位の高い君がなんで相性呼びなんて許可したのか。リスクあるなんて知らなかったよ」
 
だが話が進むにつれ、二人は自分とドラゴンの関係が必ずしも単純な強弱ではないことを知る。翔太は子供に過ぎない自分はルコアに見合っていないと思っていたが、普通はひとところに留まれない彼女が居着いているのは認められている証拠なのだと知った。滝谷はファフニールが自分に許す相性呼び(ファフくん)が主従の契約関係を結べるものだと知った。自分が弱者で相手は強者とばかり思っていた翔太と滝谷だが、実際は自分が思うより認められていたし、なんならそれを覆すことだって十分可能だったのだ。
 
 

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だが、翔太や滝谷は結局ドラゴンとの関係を変えたりしない。そもそも必要がないのだ。自分達が単純に強弱で分けられる関係でないと分かった以上、壊したり逆転させる理由自体が彼らの中からは失われている。あるいは、腕力ではなく対戦ゲームのような形で勝負してもいい。「強弱のバランスの見直し」は、別の形で果たされているのである*1
 
 

2.まとめとしての才川とカンナの話

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自分が弱者と思っている人間が強者とのバランスを見直す話。先の2本はそう解釈できるが、3本目は少し違う。ドラゴン・カンナは人間・才川に正体を明かしていない。彼女たちの間では、先の二組のような(見かけ上の)強弱の関係は未分化である。
 

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カンナ「ずるい!」
才川「ずるくない!」

 

未分化であるが故に、才川とカンナの関係は都度都度変わる。普段主導権を握っているのは才川だが、調子に乗った彼女に救い船を出すのはカンナの方。また才川はカンナのかわいさをいつも堪能しようとしているが、カンナの行動は往々にして才川の想像を超えるのでダメージを受けるのは才川の方。そしてカンナのかわいさという強さに才川は何度もやられるが、彼女は不死身の勇者の如く蘇ってくる。
 
言うまでもなく、二人の関係は永遠にこのまま続きはしないだろう。いずれは別れか正体を告白する時が訪れ、カンナと才川はドラゴンと人間という強弱に直面することになる。だが、その先には必ずしも破滅が待っているとは限らない。
 

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カンナ「わたしも変わるのかな」
才川「そりゃあもう!もっともっとかわいくなるわ、楽しみね」

 

才川の放言がきっかけで川が合流するところまで歩いた二人だが、出会った老夫婦はこれは川の流れを変えたところなのだと言う。逆らい難く思える流れも変わるし、変え得るものと才川とカンナは知る。
二人の川は、今はまだ合流していない。水浴びの意味一つとっても想像するものは違うし、カンナの言う「変わる」の意味を才川はそれほど深く捉えていない。けれどいつか合流する時、二人は川の流れを変えるし変わるだろう。洪水が起きないように、お米が作りやすいように。その関係があふれることなく実り豊かなものになるよう。
翔太とルコアや滝谷とファフニールのように、いつか「強弱のバランスの見直し」をするずっと先の未来へ。そのかけがえのない道のりを彼女たちは歩んでいるのだ。
 
 

感想

というわけでメイドラゴン2期の6話レビューでした。お休みしてすみません、と書いて更に結局書いて二重にすみません。
川を主題に書けと言わんばかりの内容だったのに囚われ過ぎてしまい、見て感じたものがほとんど有毒化して出口を見失ってしまいました。
ちなみに川を主題に書いた感想は「イマワノキワ」のコバヤシさんの感想が大変秀逸です。これを読めば川については全部掴めると思います。
 
 
一晩経って、本作の大テーマとして仮定している「バランスの話」として書けば僕が書く意味もあるのじゃないかな……と思いついて書くことができました。あー、サッパリした。書き終わって、ようやくすっきり6話を観終えられた気がします。気持ちの良い回でした。
 

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クール教信者双葉社/ドラゴン生活向上委員会
間が抜けてても幸せそうな君が好き。
 
 

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*1:大人ドラゴンが人間の真似をして子供かわいがるようになったのも「強弱のバランスの見直し」か