痕跡が教えてくれること――「小林さんちのメイドラゴン」14話感想

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クール教信者双葉社/ドラゴン生活向上委員会
TV未放送エピソードだった「小林さんちのメイドラゴン」14話が2期最終話の後で放送となった。今回は14話のテーマと、それがこの順番で放送されたことについて感じたことを書いてみたい。
 
 

小林さんちのメイドラゴン 第14話「バレンタイン、そして温泉!(あんまり期待しないでください)」

 

1.痕跡の物語

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小林さん「トール達はドラゴンの中でも美形でスタイルがいいから、人間の姿でもそう変わる……だから"素"ってことか」
 
僕はアニメ「小林さんちのメイドラゴン」1期を「痕跡の物語」として解釈している。元いた世界で傷という名の痕跡を負ったトールが、小林さんと共に新たな痕跡をその上から積み重ねていく。再放送を視聴していないのでだいぶ記憶は薄れているのだが、当時僕にはそういう物語として見えていた。なので、この見方に基づくと14話からも共通する「痕跡」を見つけ出すのは容易だ。会社で小林さんへのチョコに現れる思いの痕跡だったり、人間に姿を変換した時にも残るドラゴンとしての美しさの痕跡であったり……切り離されているはずのAパートとBパートを繋ぐトールからのチョコは特に分かりやすい痕跡であろう。
 

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カンナ「探したらあった」
小林さん(やってしまった……!)

 

痕跡というのは不思議なものだ。元あったものがかすれていった結果なのだからオリジナルそのままではなく、しかし全くの別物でもない。例えば才川はカンナに最初にチョコを渡したい思いこそ叶えられなかったが、あげたチョコを自分の指ごと舐められたことでいつも通り「ぼへぇ~!」の至福を味わう。またトールの惚れ薬入りのチョコは小林さんの体を手に入れたい彼女の願いを叶えてはくれなかったが、一方でチョコ自体は一度は断られたにも関わらず事故で小林さんの腹中に収まっている。
 

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トール「小林さん、これ受け取ってください!今度は普通のチョコです!」
 
オリジナルとは決定的に違う、しかし確かに同じもの。矛盾するようだが、この14話が描く「痕跡」はそう定義付けられるだろう。トールが小林さんの体を手に入れる手段だったはずのチョコ渡しはいつの間にかそれ自体が目的に代わり、しかし結果として「手を握る」形でトールの当初の願いは叶えられる。痕跡は時にバカバカしく、時には痛々しいくらい切実だ。……そして、アニメにおける2期とはつまり1期の「痕跡」である。
 
 

2.痕跡が教えてくれること

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アニメ「小林さんちのメイドラゴン」1期が放送されたのは2017年1月。2期が放送されたのは2021年7月。4年半の間には大きな出来事があり、監督も武本康弘氏に代わり石原立也氏が務めている。私達は今この14話を見る時、1期にあって2期にないものに敏感にならずにはおられない。記憶力の悪い僕でも、14話のカンナの足のむっちり加減には「そう言えば1期はこうだったな」と懐かしい気持ちになってしまった。
 
アニメにおける2期とはつまり1期の「痕跡」であり、全てが1期のままではいられない。2期を見終えての14話の視聴は、京都アニメーションの久しぶりのTVアニメに沸き立った私達にそれがやはりかつてと全く同じではない事実を突きつける。
 

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だが同時に、少し時計を巻き戻したこの14話はやはり2期が1期の延長線上にあることも証明してくれる。相変わらず才川はカンナが大好きでエルマは食欲魔神で、同時にこの時のトールは遠慮なく異界の材料を使おうとしたし彼女とエルマはまだ仲直りしていなかった。それは未来が過去に残す痕跡とでも呼べるもので、分かちがたく1期と2期を結びつけていく。違うだけでも、同じだけでも両者の間にある川を越えることはできない。
 
 

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これまでとこれからは悲しいくらい違うもので、しかし間違いなく同じでもある。僕は「今」この14話を見て、そんな風に思うのだ。