冬休みの魔法――「魔法使いの嫁 SEASON2」24話レビュー&感想

©2022 ヤマザキコレ/マッグガーデン魔法使いの嫁製作委員会

しばしの夢の「魔法使いの嫁 SEASON2」。最終回24話で事件はひとまずの解決を見る。ひとときの休息とは、それ自体が魔法のようなものだ。

 

 

魔法使いの嫁 SEASON2 第24話(最終回)「The show must go on.Ⅰ」

mahoyome.jp

1.終わりらしからぬ終わり

リズベスの干渉を受けるもそれをはねのけ、禁書の神格を送り返すフィロメラ。危機は去り、フィロメラはリズベスにウェブスター家を襲わせた理由を問うが……

 

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良き次の季節を願う「魔法使いの嫁 SEASON2」。最終回となる24話前半でフィロメラを巡る騒動は解決し、後半では主人公チセ達との「冬休み」が描かれる。祖母の呪いからのフィロメラの離脱、チセの家での友人達の幸せな時間と余韻たっぷりの内容だが、ただ幸せだけに目を向けられる内容というわけでもない。

 

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ヴェロニカ「上手く持ってきた? そう、偉いわね」

 

カルタフィルスによる事件については解決したアニメ1期と異なり、この2期は様々な問題の残された終わりとなっている。問題となった禁書は事件後再び盗まれその犯人はリズベスに従属を強いられていた人狼の子供であることが明らかなっているし、チセ達には明かされていないがこの人狼の子供を使役しているのはなんとカレッジの同級生ヴェロニカであることが終盤では示されている。チセがフィロメラを救いに行く際に赤いドラゴンに変化したことが大問題になるという魔法使いマリエルの指摘も残されているし、ラストが次篇「獣殺し」への予告で締められているようにこれはあくまでひとときの休息に過ぎないのだ。だが、完全に解決できなければ無意味かと言えばそんなことはあるまい。

 

 

2.冬休みの魔法

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ひとときの安息に過ぎずとも意味はある。このことは実は、1クール目の最終回で示されている。そう、学院長ライザがカレッジを封鎖した12話だ。禁書が盗まれ生徒や教師が魔力を奪われる状況下でライザが行った封鎖はもちろん事態を根本的に解決するものではなかったが、それにより生まれた猶予は――いわば「休み」はチセ達に変化をもたらしもした。2クール目を飛ばしてチセがフィロメラを救いに行ったとしても、同じ結果になりはしなかったはずだ。

 

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リズベス「……いつか利用できると思っただけよ」

 

「休み」とはいわば狭間の存在である。何かを選ぶ前、何かに突き進む前、あるいは失敗に立ち尽くす、見ようによっては無為な時間。それを排除した分かりやすい例として挙げられるのはリズベスのサージェント家であろう。息子のアダムいわく失敗を許さないこの家にはつまり無駄がなく、迷いもない。チセの同級生の一人ルーシーのウェブスター家を皆殺しにした理由を問われたリズベスは「知る者は少なければ少ないほど(良い)」と返しているが、口封じとは秘密が恐れる可能性=無駄の排除だからなんともサージェント家らしいやり方だったと言える。ただそんな彼女は全てを話す前に人狼の子供に殺害=自らも口封じされてしまったし、フィロメラを憎みきれない思いに向き合おうとしなかったばかりに裏切られアダムを甦らせることもできなかった。無駄や迷いを排除した果てに待っていたのは己の心すら見えず、己の存在すら無駄とされる末路であった。

 

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チセ(何が正しいか分からないまま、進んでいくしかないんだろうか)

 

人は無駄や迷いと無縁ではいられない。チセはこの事件を通してすぐに自己犠牲に走る傾向に歯止めをかけられたが、一方で代わりに他者を犠牲にすることも覚えてしまった自分は正しいのか悩まずにいられない。フィロメラも自分には何もないという呪いからは脱せたが、今度はポプリを入れる袋に使う端切れをなかなか決められず悩んだりもする。
彼女達の悩みはある意味で贅沢だ。けれど贅沢なそれは、二人が学友達と過ごす冬休みの豊かさとも似ている。長いこと家を留守にされた家事妖精・銀の君が鬱憤晴らしとばかりに作る食べきれないごちそうも、犠牲や袋に何を選ぶかも、選ぶ時間がたっぷりあることも、全ては無駄や迷いに満ちていて、それは豊かであるということだ。チセ達は無駄や迷いの先に道を選んで突き進んで、だからまた無駄や迷いを得られたとも言えるだろう。この24話ではチセから捧げ物を受け取った女神モリガンが少女の姿となって「あなたの次の季節が明るいものでありますように」と祝福する場面があるが、季節の巡りもこれに似たものと言えるかもしれない。

 

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ラスト、はしゃいでいた友人達に誤って倒されてしまったフィロメラの視界には色とりどりの端切れが舞い、それをどけた先には髪も瞳も色とりどりの仲間がいる。切り替わったカメラが映すフィロメラと色鮮やかな端切れは、彼女の生きる世界が色づいた喜びをはっきりと教えてくれる。人生は、そういうものであっていい。

 

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これは一時の、魔術的まがい物の休息に過ぎない。解決されていない疑問も、これから降りかかるであろう問題も山積みだ。それでも、フィロメラが笑えるようになった事実一つでこの休息には魔法のように代え難い意味がある。笑顔をもたらした”冬休みの魔法”こそはきっと、この学院篇でチセが使った一番の魔法なのだ。

 

 

感想

というわけでアニメまほよめ2期の最終回レビューでした。チセとフィロメラ、本物と偽物、魔法と魔術の垣根を前回で越えて「これ以上書くものがあるのか?」とすら思っていたのですが、1クール目が学院の封鎖で終わったのがこの最終話に効いていることに視聴を進めていく内に気付きました。こういう切れ目の面白さは分割ならではの楽しみですね。年末にこの最終話が見られたことも見た人を幸せにしてくれるやり方だったと思います。

作品そのものが豊かさに満ちていているとこれまでも書いてきましたが、それを象徴する2期最終回だったと言えるのではないでしょうか。新篇もまた映像で見られる日を楽しみに待ちたいと思います。種崎敦美さんと聞いて皆が思い浮かべる役はたくさんあるでしょうが、私はやっぱりチセが一番に浮かびます。スタッフの皆様、素晴らしい2期をありがとうございました。

 

 

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