見えないロケット――「星屑テレパス」11話レビュー&感想

©大熊らすこ・芳文社/星屑テレパス製作委員会

何度でも飛ぶ「星屑テレパス」、11話の副題は「再戦シーサイド」。だが、再戦するのは海果と瞬の二人ではない。

 

 

星屑テレパス 第11話「再戦シーサイド」

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1.彗達に教わったもの

スピーチの動画を繰り返し見る中、何事かを決意した海果。翌日彼女達ロケ研は彗の竜岡科学技術高校を訪れ、ロケットの作り方を学ばせてもらい……?

 

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海果「きょ、今日はありがとうございました!」
彗「こちらこそ! いい刺激になったよ」

 

再戦の「星屑テレパス」。11話は再びロケ研の4人が集う話だが、だからといって海果、ユウ、遥乃、瞬ばかりを映す30分というわけではない。前半はモデルロケット選手権の失敗から未だ立ち直れぬ瞬以外の3人が竜岡科学技術高校の宇宙研究開発部部を訪問する様子が描かれており、モデルロケットの作り方の実際的な部分を知れる回ともなっている。ただ、ユウや遥乃が訪問の前後で「瞬のための海果の秘策」について触れている点からも分かるように、前半と後半はけして切り離された内容ではない。

 

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海果「わ、すごい! これまで肝心な部分は雷門さんがやってくれてたから、こういうの何も知らなかったです……」

 

昨年の選手権優勝校である竜岡科学技術高校宇宙研究開発部部の面々、彗、音々、みちるの3人から海果達が教わるのは、もちろんモデルロケットの作り方である。フィンを角度のズレなく接着する方法、パラシュートを機能させるためのヤスリがけ、糸で吊るして分かる重心の位置……ただ、そこで海果が学んだのは適切な技術だけではなく、肝心なところをこれまで瞬がやってくれていて自分が何も知らなかった事実でもあった。海果はモデルロケットを通して、この場にいない瞬ともコミュニケーションを交わしたと言ってもいいだろう。

 

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彗「どんなに自信満々に作ったロケットでもさ、それが本当に成功するか射ってみないと分かんないんだよね。知らないことだらけだよ、僕もこのロケットの調整だって全部自分の失敗から学んでるし。知らないなら知るしかない、どんどん作って打ち上げる! 失敗したら直す、分からないところは人に頼ればいい。そうやって少しずつ、確かなものにしていこう」

 

海果が瞬とコミュニケーションを交わした直後なのを念頭に置く時、彗のこの言葉もまたモデルロケットのトライ・アンド・エラーの話に留まらない。知らないことだらけだったり失敗から学ぶ他ないのはロケットの打ち上げもコミュニケーションも変わりはしないからだ。海果は秘策=瞬にもう一度ロケット勝負を挑むため彗に教えを乞うたのだが、彗の言葉は同時に瞬とのコミュニケーションのための教えともなったのだった。

 

 

2.見えないロケット

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彗達の教えで自らモデルロケットを作れるようになった海果達は、最初に誘った時のように瞬にロケットの打ち上げ勝負を挑む。それはペットボトルロケット対決のつもりが瞬がモデルロケットを持ち出したかつてとは違う全くの同条件、先日まで素人だった海果達がメカニックの瞬に挑む真っ向勝負――にはならなかった。瞬は指定した規格より出力の低いエンジンを自分のロケットに載せて飛ばしたため、打ち上げ高度は海果達の半分にも満たなかったのだ。勝ったら話を聞いてほしいという海果達に瞬は「勝ったらの話」「わたしに勝ってみろ」と返していたが、彼女はそもそも勝負そのものを拒絶していたのだった。

 

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海果「ごめん、ごめんね。雷門さんのこと何も分かってなくて、ごめんね……」

 

自分のモデルロケットを打ち上げる際、海果が見た瞬の顔は穏やかだった。「これでいいんだ」とでも言いたげな表情だった。彼女は知っていたのだろう。選手権の時はまともにロケットを作れなかった海果達が、今度はちゃんとしたロケットを仕上げてくることを。自分の技術がなくとも宇宙に向かって真っ直ぐ進んでいくことを。だから瞬は身を引こうとした。一人で全てを仕切って無様に失敗した自分こそ海果達の足手まといだからと、別れを告げようとした。……けれど彼女はその直後、無言のメッセージが自分の思った以上にあけすけに海果に伝わったことを知る。テレパシー・・・・・のように自分の内心を表現していたことを知る。ことさらに自分を卑下する瞬を海果は突き放すどころか抱きしめて涙し、瞬のことを何も分かっていなかったと謝ったのだ。

 

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海果「ま、前勝負した時はゴーグルのことしか言えなかったけど、今日は仲間としてちゃんと言うから聞いて」
海果「また、一緒に宇宙を目指そう。雷門さん!」

 

海果はもう一度勝負すれば瞬は本気で受けて立ってくれると、勝てばまたロケ研に戻ってくれると考えていた。弱い自分と違って色んなものを吹き飛ばせるほど強いのだから、と。けれどそれは間違いで、勝負そのものを拒絶した瞬の心は本当は海果と同じくらい脆いものだった。自分のきつい言葉遣いは他人を傷つけてしまうと――海果に合わせて言うなら「わたしの言葉は誰にも届かない」と――苦しんでいる一人の人間に過ぎなかった。海果は全く勘違いしていたのであり、選手権での失敗から長足の進歩を遂げてもなお瞬とのコミュニケーションに失敗したのである。けれど今の海果はその失敗にくじけなかった。なぜならこれは、再びモデルロケットを作ろうとしている海果の選手権での失敗と何も変わりはしないからだ。誰あろう瞬達の存在から、もう一度立ち上がる強さを海果はもらっているからだ。

 

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先に彗の台詞を引用したように、どんなに自信満々に作ったロケットも成功するかどうかは発射してみなければ分からない。ロケ研は、海果達4人の集まりはそれ自体が彼女達の作ったロケットであり、誰にも負けないはずのこのロケットの打ち上げ結果は散々なものだった。海果もユウも、遥乃も瞬も互いを理解したつもりで本当は何も知らず大失敗してしまった。けれど今は海果達に教えるだけの知識を持つ彗もそうであったように、私達は失敗を通して人もロケットも知ることができる。瞬がつい口にしてしまうきつい物言い=失敗も、本当はユウや遥乃にそれ以上のことを伝えていた。傷つけるようなことを言う時本当は瞬が一番傷ついているのも、同好会が進めるよう誰よりも強い態度でいたのも、ちゃんと皆に届いていた。

 

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瞬「今だって本当は、また……わたしもお前達と、ロケット作りたい……!」

 

言葉も思いも何度だってわたしが届けるから、なくなったりしない。海果の言葉に、瞬は遂に本当の思いを打ち明ける。一緒にロケットを作るのが嬉しかった、なくしたくなかった。今だって本当は、海果達とまたロケットを作りたい……この「ロケット」がモデルロケット以上の意味を持っているのは明瞭であろう。それは居場所であり、夢であり、関係性であり、何よりも海果達4人そのものだ。

 

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今回の副題は「再戦シーサイド」だが、この再戦は海果と瞬のモデルロケット勝負を指してはいない。4人だけの見えないロケットをもう一度作ろうとする決意こそ、海果達がこれから挑む「再戦」なのである。

 

感想

というわけで星屑テレパスのアニメ11話レビューでした。瞬のモデルロケットが瞬の表現で、みたいなところで頭がグルグル回っていたのですが、ふと「竜岡科学技術高校訪問の大成功って、ロケットの打ち上げの成功と同じようなものなのでは?」という見立てが浮かんでこういったレビューになりました。以前出ないのがいいと言っていた「ツンデレ」出ちゃいましたが、まあ今回くらいはいいか(感動で基準がガバガバになっている)。

 

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彗「着きました。丸聞こえです。」
意訳「イチャつくのは一旦やめようか」

 

竜岡科学技術高校の残り2人の人となりが伝わったのも今回面白かったところで。音々とみちる、自分が彗の世話をするんだと競ってる体でむしろ古式ゆかしきケンカップル感があります(どちらかと言うと音々優勢かもしれませんが)。来年の音々の卒業の際にみちるはどうなってしまうのか!?

 

さてさて、ロケットとテレパシーという意想外な組み合わせの物語もアニメはいよいよ来週最終回。タイトルを冠した副題の30分で、何を見せてくれるのか楽しみです。