"もう一人"になる時――「星屑テレパス」10話レビュー&感想

©大熊らすこ・芳文社/星屑テレパス製作委員会

変化を願う「星屑テレパス」。10話では遥乃の内面にスポットが当たる。彼女が踏み出す時、そこには鏡のような”もう一人”が生まれる。

 

 

星屑テレパス 第10話「泣虫リスタート」

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1.今回の立役者:動画

選手権予選敗退の失意の底から決意を新たにし、二学期を迎えた海果。登校するとクラスは選手権で海果達ロケ研が飛ばしたロケットの動画に盛り上がっていて……?

 

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生徒「これ、どうやって飛んでるの?」
生徒「火薬だって」
生徒「火薬!?」

 

鏡を見る「星屑テレパス」。海果だけでなくロケ研全体の再起への道が描かれる10話では、注目すべき小道具が登場する。メンバーの一人遥乃が撮影していた、モデルロケット選手権でのロケット打ち上げ動画だ。二学期が始まり海果が登校すると、クラスはこの打ち上げに沸いていた。

 

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海果「た、高く飛んだら優勝というわけじゃなく……」

 

目標値を大きくオーバーして予選敗退、部への昇格も絶望的と大失敗だったはずの海果達の打ち上げは、クラスの他の生徒にとってはけして蔑みの対象ではなかった。当然だろう、ペットボトルロケットだって誰もが飛ばすわけではないのに、クラスの仲間が火薬式のロケットを打ち上げていたなんて事実が話題にならないわけがない。数週前の私達同様選手権のルールさえ知らないにしても、クラスメイト達がロケ研に向けた称賛は予選敗退とはまた別に海果達がもぎ取った結果ではあった。

 

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海果「こ、こんなに酷かったんだ。消えたい……!」

 

カメラが変われば見え方も変わってくるように、動画の存在は見る者に新しい視点を与えてくれる。海果は遥乃に頼んでこれまた大失敗と感じていたスピーチの動画も視聴、改めて悔しさを「踏みしめる」が、これは彼女が自分を客観視できるようになった証だ。自分の動画を自分で見る構図の通り、ロケット打ち上げやスピーチは海果達にとって「もう一人の自分」として機能していると言えるだろう。……だが、それは動画だけの話だろうか?

 

2."もう一人"になる時

自分に新たな視点をもたらしてくれる、もう一人の自分。動画に限らぬそれを探るヒントとなるのは、事実上今回の主役を務める宝木遥乃だ。

 

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遥乃「瞬ちゃんはもう、学校に来ないかもしれません。……あっ」

 

以前も書いたように、遥乃はいつも笑顔を絶やさないたおやかな少女だ。けれど今の彼女は少し様子が違っている。ロケ研の一人にして大会以降顔を見せていない瞬の家を訪れても以前のように笑顔でシャッターを開けたりせず、帰りも瞬はもう学校に来ないかもしれないと口にして自分で驚いたりする。まるで普段と現在で自分が乖離してしまったかのよう……つまり自分がもう一人・・・・いるかのようになってしまったのが今回の遥乃なのである。

 

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ユウ「遥乃と、ちゃんとおでこぱしーするのはこれが初めてだね」

 

同じくロケ研の仲間であるユウが迷いを見抜いてくれたことで、遥乃は自分の思いを素直に口にする。かつて一緒にピアノを学んだ友達がコンクールの後で夢を諦めてしまった時に感じた、夢に敗れて傷つく人を見ることへの恐怖。結果に執着する瞬がかつての友達になってしまうのではと、選手権の前から懸念していた中途半端さ。けれど一方で遥乃は、挫折を味わいながらも立ち上がってきた海果の強さに導かれもしている。海果のような強さが自分にも宿りますように、と憧れもして新しい一歩を踏み出す。
ユウと海果の立場はそれぞれ違うが、遥乃に対してもたらした効果は共通している。それは遥乃にとっての「もう一人の自分」になったことだ。ユウの指摘は遥乃が必死で隠そうとした自分を見つけ出したのだし、海果はこうありたいと思える自分を遥乃に指し示してみせた。ロケットを鮮やかに映すと共に海果の拙いスピーチを容赦なく記録した動画の場合もそうだったが、「もう一人の自分」のありようは一つではないのだ。

 

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遥乃「決めました! 遥乃、そういう人になりたいです。優しくて前向きで……えっと、かわいい?人になります!」
祖父「ははは! そりゃ楽しみだ。いつかきっとその先で、遥乃だけのものを見つけられるさ」

 

かつて自分が友人からピアノの夢を奪ってしまったと考え、夢を見ることそのものを恐れるようになってしまった幼い遥乃に、彼女の祖父はこう提案した。「夢は自分で見なくていい。遥乃は人の夢を応援できる人になればいい。夢があるのに踏み出せない人、失敗して落ち込んでる人、今にも諦めてしまいそうな人……そういう人達を応援するんだ」と。遥乃はこの言葉に目を輝かせ、「そういうことができる、誰よりも優しくて前向きで強い(かわいい)人になりたい」と決心したのだが、考えてみるとこれは奇妙な話だ。彼女にとって祖父の提案は夢を持つことの代わりになったのだが、理想の自分を描くことが夢でなくてなんであろう。幼き日の遥乃を立ち直らせたのは、夢という名の「もう一人の自分」であった。

 

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遥乃「応援席からじゃなにもできない、本当の意味で同じ目標に向かう仲間じゃなくちゃ、悔しい気持ちを共有することも傷ついた仲間に声をかけることもできない」

 

選手権での失敗、そして瞬に何の言葉もかけられなかったことで遥乃は、今の自分のあり方の誤りを知る。応援席にいるだけでは何もできないことを知る。けれどそれは、幼き日に目を輝かせた「もう一人の自分」までもが誤っていたわけではない。この10話で1人瞬の家を再訪した際、遥乃はこう言っているのだ。悔しい気持ちを共有することも傷ついた仲間に声をかけることもできないなんて「そんなの、わたしのなりたかった自分じゃない」と。

 

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遥乃「だからわたしは変わりたい。自分だけのものを見つけて皆と、瞬ちゃんと対等になれるように。そしていつか瞬ちゃんのように、目標に向かって得られる人にわたし……」

 

遥乃が願うなりたい自分とは「誰よりも優しくて前向きで強い(かわいい)人」だ。そして彼女は、自分の周りに既にそういう人がいることを知っている。対等になりたいと願う海果が、ユウが――誰よりも瞬が、遥乃にとっては目指すべき「もう一人の自分」なのである。だから彼女は、瞬が負けっぱなしでいることが許せない。輝きを失ってしまうのが許せない。海果が4話で言った「かっこよさ」の象徴であるゴーグルを瞬が捨ててしまえば、自身がそれをかけて発破をかけようとする。それは遥乃が「もう一人の瞬」になる瞬間であり、瞬がかつて見せていた輝きを奪い取る瞬間だ。だから遥乃が去ってシャッターを下ろせばガレージは闇に包まれてしまう。「雷門瞬」が持っていた輝きは消え失せて、彼女は「わたしはお前らが思うほど何かができる人間じゃないんだ、何も」とまで口走ってしまう。けれどそれは遥乃が自分の輝きをきれいさっぱり持っていったからこそ瞬がさらけ出せた、今回遥乃が見せたのと同じ「もう一人の自分」なのではないだろうか。そのことはきっと、共に選手権に強い思いを抱いていた点で瞬にとって「もう一人の自分」である海果が次回果たす役割にも大きな影響を与えることだろう。

 

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人にはいくつもの自分がある。己の、そして他人の「もう一人の自分」を行き来しながら、少しずつ変わっていくのが私達人間なのだ。

 

感想

というわけで星屑テレパスのアニメ10話レビューでした。「動画はもう一人の自分」「遥乃が強さを見せたから瞬が弱さを見せられた」という見立てはできたものの、中盤をどう繋げてレビューを書くかに四苦八苦。じいじ、嘘は言ってないがなかなかタヌキだな。
遥乃という人間に確かに血が通っているのを感じられた回でした。次回、瞬の内面がより深く見られそうで楽しみです。

 

 

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