始まりと終わりの距離――「星屑テレパス」12話レビュー&感想

©大熊らすこ・芳文社/星屑テレパス製作委員会

彼方照らすアニメ「星屑テレパス」。最終回12話では海果とユウが誓いを繰り返す。その約束に必要なものは、一番遠くて一番近いところにある。

 

 

星屑テレパス 第12話(最終回)「星屑テレパス

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1.迷子の明内ユウ

同好会を再発進に導いた疲れか、熱を出して倒れてしまった海果。ユウ達は見舞いに訪れるが……?

 

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海果「み、皆の意見をまとめて、活動計画もう一度考えてみよう。わたし達のペースでしっかり、一歩ずつ、空に届くロケットを目指せるように」

 

大熊らすこ原作の漫画を映像化したアニメ「星屑テレパス」。いわずもがなこの12話は最後を締めくくる回だが、ここまでには本当に様々なことがあった。あがり症の海果と宇宙人を名乗るユウの出会い、笑顔を絶やさない遥乃や物言いに遠慮のない瞬と一緒になっての同好会設立、モデルロケット選手権への参加と挫折、再起……高校に通うのも恐れていた海果はいまや名実ともにロケット研究同好会の会長だ。その成長を疑う者は誰もいないだろうし、彼女の身近には今回それを強く実感する者がいる。海果が走り出すきっかけとなった出会いを与えてくれた少女、明内ユウだ。

 

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海果「ま、まさか、わたしの風邪が……」
ユウ「ち、ちが! ちが、うんだけど……なんか……」

 

(自称?)宇宙人らしく破天荒な行動を見せてきたユウだが、今回の彼女はいつものようには皆を振り回さない。なぜか? それは風邪をこじらせた際のうわごとをきっかけに、ユウが海果を強く意識するようになったためだ。今までは挨拶か何かのように気軽にしてきた「おでこぱしー」が急に恥ずかしくなったり、会長らしく皆を引っ張りまた頑張る海果がキラキラ輝いて見えたり……海果のちょっとした仕草にドキドキしてしまう今回のユウは周囲から心配されるほど調子がズレていて、普段のほとんど脳天気な明るさが迷子になってしまったようですらある。いや、実際迷子なのだろう。成長していく海果の輝きの前に自分を、いや自分の現在位置を見失ってしまったのがこの12話のユウなのだ。だが、12話かけて海果は1話と別人になったのだろうか? 否。

 

2.始まりと終わりの距離

海果は確かに大きく成長を遂げたが、かといって別人になったわけではない。それは彼女の決心や頑張りを見ればよく分かる。

 

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瞬「いや、確かに自分の目標に正直にとは言ったが……コミュ力かよ」
海果「ど、同好会あんまり関係なくてごめん……!」

 

例えば海果は同好会の再起にあたって会だけでない自分の目標を立てたが、それは「ちゃんと人とお話できるようになりたい」という1話時点でも抱えていた問題だった。12話かけて成長した彼女はしかし、コミュニケーションの不得手さそのものを解消できたわけではない。あくまでそれと向き合う必要性を認識できたに過ぎない。だから今回海果が踏み出す一歩も、前の席のクラスメートである木梨との今更ながらのメッセージアプリの交換程度の小さなものだったりする。しかもそのきっかけとなった話もモデルロケットへの気持ちばかりが先走っており、けして上等なコミュニケーションとは言い難いものだった。

 

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遥乃「海果ちゃん、本当に強くなりましたね」
瞬「あいつはずっと強いだろ」

 

同じくロケ研の遥乃が物語を通して応援するばかりの自分から脱し、それでもまだ自分だけの目標を見つけられてはいないように、人はそう簡単に変わらない。それは硬い結束で結ばれていたはずの海果達4人が選手権での失敗でバラバラになりかけた難しさからも言える。けれどそれは、見ようによっては逆も然りのはずだ。今の海果の別人のような部分は、かつてはなかったものなのか? いや、そうではあるまい。その日のロケ研の活動終了後、ユウを心配して一人「秘密基地」へ戻る海果を本当に強くなったと語る遥乃に対し、瞬はこれまでの海果の言葉を思い出しながらこう返している。「あいつはずっと強いだろ」……と。そう、海果のまっすぐさは成長の産物ではない。ほんの少しあがり症に隠されないようになっただけで、その点以外は何も変わりはしない。

 

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ユウ(海果、いっぱい心配してくれてる。海果……)

 

海果の前で平静を装うも装いきれず、やっぱりドキドキしてしまうユウはしかし、海果から「おでこぱしー」を受けて安堵する。彼女が自分を心配してくれているのを感じてようやく落ち着きを取り戻す。なぜか? まぶしくてキラキラで温かい、まっすぐなその気持ちの伝え方が以前と同じだったからだ。自分の前にいるのが1話と変わらない海果だと分かったからだ。自分を見失ってしまっていたユウは、変わらない海果を通して変わらない自分をもまた見つけ直すことができたのである。

 

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海果「まだ全然頼りないかもだけど、だけど!」
ユウ「ううん、海果ならきっと大丈夫。だから……」
海果・ユウ「絶対一緒に宇宙、行こうね!」

 

人は遠くへ行くことができるけれど、長い時間の中でしばしば自分がどこにいるのか見失ってしまう。どこから来たのか分からなくなってしまう。しかし本当は、私達がたどりつく遠くはもっとも近い場所にあるものだ。始まりと同じ場所にあるものだ。「自分の作ったロケットで宇宙に行って、宇宙人の仲間を探す」かつての海果の夢が、「皆で作ったロケットで宇宙に行く」今の夢と同じところにあるように。別人であるはずの二人がしかし、その夢のために「絶対一緒に宇宙行こうね」と同時にもう一度誓いを重ねるように。それが灯台の灯りとなって多くの人を、画面の向こう側の私達をも照らしてくれるように。その重なりの前には全ての隔たりが消失し、次元や距離すら意味を失う。何もかもが届く、超能力のような奇跡がここにはある。

 

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最終回となる12話は、作品名と同じ「星屑テレパス」の副題を冠している。もっとも遠く最も近い、始まりと終わりを繋ぐ12話こそはこのアニメが見せた最大の「テレパシー」なのである。

 

感想

というわけで星屑テレパスのアニメ最終回12話レビューでした。海果の高熱とユウのおでこの熱さ、灯台の灯りから「熱と光」みたいにまとめられないかな?とあれこれ考えてみたのですがどうも最後までたどり着けず。諦めて寝ようとしたところで「始まりと終わり」の見立てが浮かんで布団から体を起こしました。24時を回ったので「日を改めます」ってSNSに書いたのは嘘にはなってませんが、二重の意味ですみません……

 

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海果が皆と話しているところ以上に、瞬が皆と会話してたりお菓子食べてるリラックス具合にぐっと来てしまう。あとメッセージアプリのアイコンに普段は髪に隠れるピアスと耳の写真を持ってくる木梨さんのセンスも言及しておかずにいられない。

 

 

dwa.hatenablog.com

「一歩一歩」の重さに嘘をつくことなく、それでいて時に距離を飛び越えるようにして見る人の心に迫ってくるアニメだったと思います。特に9話は、自分がアニメレビューを書く理由を思い出させてくれる本当に素敵な回でした。この物語を見せてくれた皆様に心からの感謝を。ありがとうございました!

 

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