次のステージを目指す「星屑テレパス」。5話では海果の途方もない夢が僅かずつ形になり始める。居場所の意味は一つではない。
星屑テレパス 第5話「無限ドリーマー」
1.己の所在
ペットボトルロケット勝負を経て、瞬を加えた4人で宇宙を目指すこととなった海果達。瞬のようなモデルロケットを作ってみたいと考えるが、それにはお金も必要で……?
笑原「不良じゃんこら! でも、学校に来てくれて、先生嬉しい……! ぐすっ……!」
瞬「うお……」
居場所を知る「星屑テレパス」。5話アバンは瞬が担任の笑原に叱られ、その後抱きしめられる場面から始まる。許可なくバイクで登校してきたのを指摘されても瞬は動揺する様子は見せなかったが、自分の登校を笑原が泣くほど喜んだのには面食らってしまった。自分がそこまで心配されているとは彼女は想像もしていなかったのである。
瞬「ほらこれ、ガチロケットの打ち上げ費用一覧! まとめたから読め!」
遥乃(調べてくれたんだ……)
アバンの瞬がそうであるように、自分がどこにいるかに対して人は意外と無知だ。海果達はペットボトルロケットの次のステップとして瞬が前回見せたモデルロケットに目をつけるが、それなりに高価なモデルロケットは子供の小遣いでどうにかできる代物ではない。あくまで有志でやってきた彼女達は、自分達の活動が部活動として行うべき段階に達していることに全く気付いていなかった*1。
2.他者の目線
自分は今どこにいるのか? 己を見ることのできない私達にとって、自分の現在位置を知るのは案外難しい。とはいえこれはあくまで個人の限界である。自分で見えないなら見える人に見てもらえば、つまり他人に見てもらえばいい。海果は今回、そうした他者の視点に大いに助けられている。
瞬「さっきの申請書、役職の欄勝手に書いといたから。せいぜい頑張れよ、部長さん」
例えば部活動には部長職がつきものだが、ロケットを作る「ドリーム☆ロケッとぶ(仮称)」の部長として選ばれたのはなんと海果であった。もちろん彼女は立候補したわけではなく、これは瞬が申請書類にこっそり書き込んだだけに過ぎない。しかし部長が誰か?と考えたなら確かに海果以外の適任者はいないだろう。ロケットを作って宇宙に行くのはあくまで海果の夢から始まった話だから、ユウや遥乃といった他の人間では部を動かす推進力たり得ない。途方もない夢に向かって皆を引っ張れる人間は、瞬と話をするため果たし状を叩きつけるような馬鹿げた行動力を秘めた海果以外にはいない。
またこの5話では宿泊学習も催されており、班別ワークショップで意見を求められた海果は頭が真っ白になってしまうがユウが手を重ねてくれたおかげで我に返ることができた。我に返るとは自分がどこにいるかの再認識であり、ユウは海果にここは別に緊張の必要ない場所だと教えてあげたと言えるだろう。
これらの出来事から言えるように、他者の存在は私達に己がどこにいるかを教えてくれる。そして面白いのは、他者が見る場所もまた一つとは限らないことだ。
3.居場所の意味
他者の存在は、私達に自分がどこにいるかを教えてくれる。だが、他者が見る場所は一つとは限らない。
笑原「それと! 部活名ももっとかっこいいものを考えること!」
ユウ「えぇ!? 自信作なのに!」
瞬「だろうよ……」
他者による場所の指摘のもっとも多い例、それはもちろん第三者としての目線だろう。新たに仲間に加わった瞬はメカニックとしての知識から海果に費用面の問題を指摘したし、部活動の申請を受けた笑原も活動内容を具体的に練っておくようになど助言を与えている。これらはいわゆる客観的な意見であり、物事の実現には欠かせない目線だ。だが本作はこれとは別の、目に見えないもう一つの場所があることもまた教えてくれている。
海果「い、行こう!」
ユウ「え?」
海果「宇宙! 絶対!」
宿泊学習の夜、部屋から出てなかなか帰ってこないユウを心配して外に出た海果が見たのは、浮かない顔で星空を見上げる彼女の姿だった。自分を見つけた瞬間いつもの明るい調子に戻るユウの強がりをしかし、海果は見逃さない。記憶喪失の彼女が、自分の母星はどこだろうと寂しさを感じている――寂しさを感じる”場所”にいるのを見逃さない。
宇宙人のユウが宇宙に戻る手助けをしたいと願う海果の目線は、第三者の客観的な目線からはもっとも程遠いものだろう。けれど、ユウの心がどこにあるか海果が見つけられたのは第三者とは異なる目線を持っていたおかげだ。ユウを大切に思うからこそ海果は、ユウ自身が見ないふりをしてしまった気持ちを
笑原「大きな変化は小さなきっかけから、かな。この申請、何がなんでも通してあげなきゃな!」
世界には、人の心には第三者ではなく相手を強く思う者にしか見つけられない場所がある。例えば笑原は「ドリーム☆ロケッとぶ(仮称)」の申請を何がなんでも通してやろうと心に決めたが、そうまで肩入れしたのはこれを単なる部活の一申請として扱わなかったからだ。引っ込み思案だった海果や不登校だった瞬にとっていかに大きな”場所”になるかを感じ取ったためだ。それに気付けたのはひとえに彼女が一人ひとりの生徒を見ていた、己の心の中に生徒の「居場所」を作っていたおかげだろう。そう、海果はロケットを作って自分の「居場所」を探すのを目標としていたが、居場所とは誰かに気に留めてもらえるスペースに他ならない。それは目には見えない、物理や客観では計測できない類の座標だ。
ユウ「行こうね宇宙、ぜったい!」
私達は己の所在を、いや己の心の所在を自分で見ることはできない。「居場所」に私達が感じる安心とはすなわち、自分の心がどこにいるかを知れた喜びだ。目に見えない心の座標を教えてくれるところに「居場所」のもう一つの意味は隠されているのである。
感想
というわけで星屑テレパスのアニメ5話レビューでした。ちょっと調子を崩してしまっており、今回は当初「2つのルート」みたいな感じでまとめようとしたのですが6割ほど書いたところでなにか違うとぶん投げ。アバンをもう一度考え直してこういったテーマになった次第です。高森奈津美さんは笑原先生みたいなキャラが本当に合うなあ。
海果は強くなっていくのであり、強さがあらわになっていくのでもある。彼女の次の一歩が楽しみです。
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— 闇鍋はにわ (@livewire891) November 7, 2023
笑原先生の活躍も見逃せない5話。他者と居場所の関係について書きました。#星テレ#星屑テレパス
*1:同時に瞬もまた、自分がわざわざ費用を調べるほどに海果達を気にかけている自分に気付いていなかった