私を巡る魔術――「魔法使いの嫁 SEASON2」18話レビュー&感想

©2022 ヤマザキコレ/マッグガーデン魔法使いの嫁製作委員会

混濁の「魔法使いの嫁 SEASON2」。18話では禁書を盗んだ犯人が正体を現す。異形のその姿からは、全ての人間が逃れられない「魔術」が見えてくる。

 

 

魔法使いの嫁 SEASON2 第18話「Coming events cast their shadows before.」

mahoyome.jp

 

1.フィロメラの変貌

禁書を誰が持ち去ったのかは依然分からないまま、閉鎖されたカレッジはクリスマスを迎えようとしていた。チセは友人達のためにお守りを作り、アルキュオネを通してフィロメラにも渡そうとするが……

 

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潜んでいたものが顔を出す「魔法使いの嫁 SEASON2」。18話では盗難で行方不明となっていた禁書「カルナマゴスの遺言(の写本)」の所在が判明し、犯人が生徒の一人フィロメラ・サージェントだったことが明らかになる。チセ達にとってこれは驚愕に値する事実だが、意外に思った視聴者はあまりいなかったのではないだろうか。前回のフィロメラの体調不良は明らかにこれまでと異なる身体的影響を伴っており、禁書の方が術者に影響を与えているというチセの師エリアスの推測と一致するものだったからだ。つまりミステリー的な驚きはこの18話にはなく、目を向けるべきは他にある。1つヒントとなるのは、チセからもらったお守りに対するフィロメラの行動だ。

 

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チセはクリスマスプレゼントとして「いばらのルーン」のお守りを作り友人達に配っていた。フィロメラの分は彼女に仕える人造精霊アルキュオネに託され、アルキュオネは少しでも助けになればとお守りを差し出すのだが――それに対するフィロメラの行動はこれこそ驚くべきものだった。彼女はなんと、差し出されたお守りを飲み込んで・・・・・しまったのだ。

 

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お守りが飲むためのものでないのは当然として、フィロメラの行為は二重に異様である。なぜなら、諜報者の家系である彼女にとって他人からもらったものの飲食や使用は体が拒絶するレベルで禁じられた行為のはずだからだ。しかしフィロメラは何のためらいもなくお守りを飲み込んだ上、「もっと欲しい」とアルキュオネの体に手を伸ばし彼女の中に隠していた禁書を無理やり引き出してしまった。日頃のフィロメラからはおよそ想像もできない言動であり、エリアスの推測が当たっていたことはこの一事からも伺える。

 

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フィロメラ「わたし、お迎えしないといけないのです。地獄にいるお母様とお父様を」

 

禁書に完全に主導権を握られ、フィロメラの体は異形へと変わっていく。その後に魔力を欲してクリスマスパーティーの会場に現れた、縄のような髪と暗黒のような肌に覆われた存在を見て彼女と判別できる人はまずいないだろう。だが、これはフィロメラが別人になってしまったことを意味するのだろうか? 否。変貌してしまった彼女に対し、アルキュオネはこう言っているのだ。「混ざってしまわれている」……と。

 

2.私を巡る魔術

髪を縛るリボンを除き面影すらなくなってしまったようなフィロメラはしかし、全くの別人になってしまったわけではない。なぜか? それはこの異形の存在がしかし、フィロメラ以外の誰が思うはずもないことを口にしているからだ。

 

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フィロメラ「わたし、あなたがとても恐ろしかった……」

 

例えば暴走したフィロメラが最初に襲った生徒は己の主家筋に当たるヴェロニカ・リッケンバッカーであったが、その際フィロメラが口にしたのは魔力への渇望ではなくヴェロニカに抱いていた恐怖の告白であった。彫像のように笑みを絶やさぬ彼女にフィロメラはかえって不気味な恐ろしさを感じていたが、もちろん自分の仕える相手にそんな感情を打ち明けられるわけがない。これは本来口にされるはずのなかった、しかし間違いなくフィロメラだけの感情である。

 

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フィロメラ「本当に嫌になる。いつもあなたは正しくて、強くて、まっすぐで……ためらいがなくて」

 

またフィロメラは偶然遭遇した親戚の少年リアンからの追撃を退けるが、この際も彼女が口にしたのはリアンへの嫌悪という今まで明かせなかった思いであった。彼の不器用なまでのまっすぐさ純粋さはフィロメラにとって己がみじめに思えるほどまぶしいものだったが、それを打ち明ければ彼女は更にみじめな気持ちになっていたことだろう。これもまた、本来口にされるはずのなかったフィロメラだけの感情だ。奇妙な話だが、フィロメラは禁書が混ざって純粋な自分でなくなったからこそ自分の思いを吐き出せたのだった。

 

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ルーシー「あんた、わたしの記憶にもう一度潜ってくれない?」

 

フィロメラに限らず私達は、自分だけでは、自分らしくあるだけでは「自分」たり得ない。チセのルームメイトであるルーシーは今回「自分の記憶でも気が付かないことってあるわ」と語りチセに自分の記憶(過去に「ウェブスターの悲劇」で自分の一族が惨殺された際の記憶)に潜ってもらっているが、これなどは自分だけのものを当人のみで把握する難しさがよく現れていると言えるだろう。そして、逆説的に見ればこれはその人だけのものに他人が介入できる「魔術」の指摘でもある。教師の一人アレクサンドラが劇中で解説しているように、呪われていると思い込まされてしまった人間には偶然の不運が偶然には見えなくなってしまうものだ。

 

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リズベス「もうすぐお前を取り戻してみせる。……アダム」

 

人は他人によって自分たり得るが、同時に他人によって自分を自分以外のものに変えられもする。確かにフィロメラは禁書が混ざった結果己の思いを口にできたが、周囲にいる人の魔力を手当たり次第奪おうとする今の彼女はやはりチセ達の知るフィロメラではない。こうした矛盾は今回明かされる、フィロメラの祖母リズベスの孫娘への酷薄な仕打ちが実は亡き息子アダムへの強い愛情から生まれているらしい描写からも見て取ることができる。フィロメラの心と同時に己の心も破壊している彼女は、矛盾に――「人を呪わば穴二つ」のことわざ通りの状況に陥っている。

 

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チセ「つまり……この呪いが解けることはないんですね」

 

一人で生きられない私達にとって、フィロメラ達が陥った状況はけして他人事ではない。私を巡るこの「魔術」は、生ある限りけして解けない呪いなのだ。

 

 

感想

というわけでアニメまほよめ2期18話のレビューでした。OP2でチセが持っていたのはこのお守りだったんですね。いばらのルーンについては11話で教師ターリクが「人間にとって都合のいい形で守護されるとは限らないルーン」と説明していましたが、フィロメラが陥った状況は正にそんな感じ。前回のエリアスの推測から、カレッジ内の人間を調査するのでなくむしろ何もしないことで燻り出そうとしたのであろうライザ学長の手腕も今回のテーマ通りの「魔術」的……
話数としては折り返しですが、ここから6話どんな展開が待っているのか。チセ達の奮闘に期待したいと思います。

 

 

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