愚痴は始まりの叫び――「魔法使いの嫁 SEASON2」21話レビュー&感想

©2022 ヤマザキコレ/マッグガーデン魔法使いの嫁製作委員会

混沌の「魔法使いの嫁 SEASON2」。21話ではチセ達がフィロメラの心の内に踏み入る。彼女の言う「叫び」とはいったい何を指すのだろう?

 

 

魔法使いの嫁 SEASON2 第21話「A burnt child dreads the fire.」

mahoyome.jp

 

1.敵も味方もごちゃまぜ

魔術書に侵食されたフィロメラの体は崩壊し始めていた。ゾーイの邪眼による時間稼ぎとアルキュオネの案内で彼女と再会したチセ達が彼女にできることは……?

 

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ゾーイ(キツい、目を使うのってこんなに疲れるんだ。昔から上手く使えなくてバカにされてきたけど……でも、今はそうも言ってられないよな!)

 

弱音を否定しない「魔法使いの嫁 SEASON2」。21話では人狼を足止めするゾーイの奮闘や、バラバラになったフィロメラの心を拾い集めようとするチセ達の姿が描かれる。フィロメラの心の中、OPでも見られた子供の頃の姿でのチセ達とフィロメラのやりとりが印象的な回だが、視聴者の心に特に残るのは下記のチセの言葉ではないだろうか。

 

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チセ「(自分を助けたいと思ってくれる人など)いなくても叫んでほしいんだ、どうにかなりたいなら。ほんとは叫ばなくたって泣かなくたって助けが来たらいいと思う。だけど世界はそんなふうにできてない。敵も味方もごちゃまぜの中で、これが欲しいって叫ぶしかないんだ」

 

「敵も味方もごちゃまぜの中で、これが欲しいって叫ぶしかない」……30分を振り返る時、チセの言葉のこの箇所は重層的な意味を持つ。なぜなら21話はそれ自体が敵も味方も「ごちゃまぜ」なのを描いた回でもあるからだ。

 

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アルキュオネ「2階の執務室へ。ですが子供達だけで。あなたはここに残ってください」

 

例えばチセ達一行がフィロメラに再会できたのはアルキュオネが場所を教えてくれたおかげだが、彼女はチセの師エリアスだけはフィロメラのところへ向かうのを許さなかった。チセの監督と盗まれた魔術書が同行理由の彼は場合によってはフィロメラを犠牲にするおそれがあり、フィロメラのための人造精霊たるアルキュオネにとって一行は「敵も味方もごちゃまぜ」だったのである。

 

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フィロメラ「ここは……学校?」

 

また魔術書の影響からかほとんど自己を同定できなくなってしまったフィロメラはチセの助けで過去を思い出し自分を取り戻していくが、そこには誰かの夢や記憶に潜る力を持つチセの過去も混ざり込んでいた。バラバラになったフィロメラの心を拾う目的からすればチセの過去は外れなのだが、二人の境遇にいくらか重なる部分があると知ることはフィロメラが自分を取り戻す過程でマイナスになってはいない。舞台となるある種の精神世界がフィロメラではなくチセの通った学校の再現となっている点や辛い過去がフィロメラに自分を取り戻させる点を含め、ここでは様々な要素が「敵も味方もごちゃまぜ」だ。そしてこのように「ごちゃまぜ」に着目した時、最初に引用したチセの言葉はそれ自体が「ごちゃまぜ」であることもまた見えてくる。

 

 

2.愚痴は始まりの叫び

チセの言葉はごちゃまぜである。具体的に言えば、ごちゃまぜになっているのは「優しさ」と「厳しさ」だ。

 

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チセの言葉は優しい。誰にも助けを求められず苦しみを抱え込んできたフィロメラに手をさしのべ、その力になろうとしている。
けれど一方で、チセの言葉は厳しい。叫びも泣きもしない者を助けてはくれるように世界はできていないと切って捨て、最初の一歩はフィロメラ自身で踏み出すように求めている。両者はごちゃまぜだ。

 

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優しさと厳しさがごちゃまぜのチセの言葉には、そのどちらにも振り切れない塩梅がある。自分から助けを求めるよう促す点では自助を勧めているようにも見えるが、一方でチセはフィロメラに具体的な方策まで要求しているわけではない。実際、フィロメラがこれまで自分で状況をどうにかできた余地など無い。

今回彼女はチセの級友ルーシーの一族が皆殺しにされた「ウェブスターの悲劇」に関わっていた(家業の一つである暗殺=人殺しに慣れるため、実行車である人狼に同行するよう命令された)ことが明かされるが、祖母リズベスに虐待を受けていたフィロメラが命令に逆らえるわけも、事情を知ることすら許されないのにルーシーに真実を明かせるはずもなかった。何かできたのかもしれないが、それは同じくチセの級友アイザックが指摘するように「どんなことも、どうとでも言えちゃう」程度の話に過ぎない。

 

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フィロメラ「そんなにわたしを責めるのなら、教えてよ!」

 

チセがフィロメラに望むもの。それは助けを求める意志ただ一つである。何をしても咎められるのみでもはや謝ることしかできない自分が、謝ることすら否定されたらどうしたらいいのか。事情も知らされなければ止める力も持たなかった自分が、どんな顔で真実を明かせばよかったというのか。ルーシーに詰め寄られたフィロメラが返す言葉は具体的な解決には程遠く、しかしこれまで見せることのなかった感情にあふれている。言ってみるならそれは、どうにもならないからと彼女が押し殺してきた「愚痴」だ*1。どうしたらいいか分からないが、どうにかなりたい思いが生み出す叫びだ。どれだけあいまいだとしても、この叫びだけは彼女自身から発しなければならなかった。

 

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チセ「……いいよ」

 

この21話ではフィロメラは結局、「本当にそれでいいの?」と不意にささやく魔術書によってまた自分をバラバラにされ消えてしまった。「敵も味方もごちゃまぜ」なのはいつも変わらないから、私達はそれが怖くて時に自分の気持ちにまで嘘をついてしまう。けれど今回の冒頭でゾーイが邪眼を使う負担を内心こぼすことで自分を奮い立たせたように、愚痴くらい吐かなければ私達はままならないものに抗うことすらできない。

愚痴とは始まりの叫びだ。助けてくれる人がいなくても、敵も味方もごちゃまぜだとしても、ただの感情に過ぎないとしても、どうにかなりたいなら叫ぶ他にないのである。

 

感想

というわけでアニメまほよめ2期21話レビューでした。「『泣き言を言えない』と泣き言を言ってはいけない」みたいなお話なのかな……ということで書き進めながらも終わりにちょっと迷っていたのですが、泣き言はアイザックの言う「愚痴」なんだなと気付いて着地点が見つかった次第です。子供の姿になるのに合わせて声の年齢も下げているキャスト陣の演技が印象的でした。あと、カットが変わったらアルキュオネを既に戦闘不能にしてるエリアスの容赦のなさときたら。
次回はリズベスがアダムやフィロメラにどんな感情を抱いていたのか見られる回なのでしょうか。とても気になっていた部分なので放送が待ち遠しいです。

 

 

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*1:アイザックが以前「愚痴」について触れていたのを思い出して欲しい