大道を往け――「魔法使いの嫁 SEASON2」19話レビュー&感想

©2022 ヤマザキコレ/マッグガーデン魔法使いの嫁製作委員会

地を這う「魔法使いの嫁 SEASON2」。19話でチセ達は学園の外へ旅立つ。飛べない私達の進む道は、目に見える道とは限らない。

 

 

魔法使いの嫁 SEASON2 第19話「Man’s extremity is God’s opportunity.」

mahoyome.jp

 

1.道探しの魔法

魔術書によって変貌したフィロメラの肉体は限界を迎え始めていた。自滅する者に手をかけるまでもないとライザは捨て置くが、チセは納得できず……

 

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ライザ「諦めなさい。あれは見るからに魔術書の中にいるものの侵食を受け過ぎている」

 

常ならざる道を見る「魔法使いの嫁 SEASON2」。19話では同級生のフィロメラを取り戻すためのチセ達の戦いが始まるが、それはカレッジ対サージェント家といったようなシンプルな構図ではない。学院長のライザはカレッジの封鎖を続けることで魔術書を盗んだ犯人であったフィロメラをいぶり出したが、それ以上のことを積極的にはせず彼女の求めに応じて封鎖の解除すらした。フィロメラは魔術書に心も体も侵食されつつあり、放っておいても自壊するのが目に見えていたためだ。

 

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ライザ「チセ・ハトリ。君の友人を守りたいなら、みじめったらしく己の満足を撫でるだけの情愛を引っ込めなさい」

 

手遅れとしか思えぬフィロメラ一人の命よりも生徒や教師の健康や安全を優先するライザの判断は、学院の長として理に適っている。「筋が通っている」「理路整然としている」と言ってもよく、チセはフィロメラを見捨てる判断に言い返すことができなかった。けれど我慢すべき状況なのも、関わりの薄いフィロメラを助けようとするのが自己満足に過ぎないというライザの指摘ももっともだと理解しながらもチセはそれを飲み下せない。

 

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「我慢しなきゃなんてことも、自己満足だなんてことも分かってる。だけど、今我慢したらあの子は死ぬじゃないか」……チセの苦しみは、フィロメラを死なせたくない思いを通す「道」を見つけられない苦しみである。逆に言えばこれは、道を見つける前に走り出す自制心をチセが獲得した証だ。だから彼女の師であるエリアスはその成長を褒めると同時に、自分達が魔術師ではなく魔法使いであることをチセに思い出させる。約束という契約――いつかポプリを一緒に作るとチセはフィロメラに約束していた――を結んだのなら、魔法使いはそれに従わなければならないと。エリアスはつまりチセに、フィロメラを助けるための筋だとか理路だとかいった「道」を教えてやったのだった。

 

 

2.大道を往け

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思いや力を通すために必要な「道」は、目に見えるものばかりとは限らない。これは何もエリアスが見せた例が最初ではない。劇中、フィロメラの祖母リズベスの命で彼女の回収に現れた人狼が使用したショートカットは文字通り「裏道」と呼ばれているし(しかも代価に必要な肉を人を殺して調達するというのが一層「裏」らしい)、ライザにしても魔術書を盗んだ犯人をあえて泳がせ突き止めたやり方は調査という正道から外れた魔術的なやり方だ。ただ、フィロメラを追うためにチセが通る「道」はそれらといささか異なっている。

 

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「裏道」を通って消えたフィロメラを探すべくチセが採った方法。それはなんと、巨大な赤い竜と化して地脈に潜りフィロメラの魂の匂いをたどって彼女を追うというものだった。地脈とは地面を流れる力の巨大な通り道、いわば「大道」だ。そしてこの大道には人や獣を引き寄せる力も備わっているが、フィロメラを追おうとするチセの行動はこれもまた多くの人を引き寄せた。師にして魔法使いであるエリアス、それぞれ異なる理由でフィロメラを追いかけたい同級生、善行へのボーナス目当てという題目で同行する臨時教師のザッケローニ……同級生の一人ゾーイの一族では地脈を「母の背骨」と呼んでおり言葉が違っても同じ概念があることが指摘されているが、すなわち異なる理由でチセと行動を共にする者達は「言葉の違う同じ概念」に等しい。そう、チセの行動はそれ自体が地脈と同じ効用を発揮しているのだ。

 

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「飛べぬなら地を這え 底を往け」……赤い竜と化す時、チセはそう唱えた。私達は空を飛ぶように自在に進むことはできない。考えを改めることはできてもその人間特有の変えられない部分は存在するし、卑屈な生き方を強いられれば大抵の人間はそこから抜け出すことはできない。けれど地を這い道を進むことしかできない私達は一方で、地の底に流れる大きな道に触れられる時がある。小手先のテクニックに留まるような裏道ではなく、世界の摂理とでも呼べるような大きな道に触れられることが。

 

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フィロメラ「アルキュオネ、わたしどうして二人を取り戻したいんだろう」

 

裏道そのものが本道だと錯覚した時、人は道を見失う。フィロメラは両親を甦らせるためと自分に言い聞かせて祖母リズベスの指示で魔術書を盗んだが、それに身も心も蝕まれてまで役目を果たした彼女を待っていたのは暗闇だ。リズベスはねぎらってはくれないし、両親を2人とも蘇らせると答えてもくれない。そもそもフィロメラは両親の顔も覚えておらず、自分がなぜ彼らを取り戻したいのかも分からない。魔術書の影響で崩壊しようとしているのは彼女の肉体や精神以上にフィロメラの存在そのものだ。だからこの19話は、そんなフィロメラにどうすべきか彼女の人造精霊であるアルキュオネが考え直すところで幕を閉じる。フィロメラの父アダムによって生み出された時の記憶(記録)に「潜り」、自分が何をすべきかを――己の「大道」を探す場面で終わる。フィロメラを、もう一度道に戻してあげるために。

 

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アダム「君にはこの世でいちばん大事な仕事を任せよう」

 

人は自分の意思で全てを決めることなどできないが、その不自由さは私達を縛るだけの鎖ではない。理に従って動かなければならないから、私達は大道に繋がる道を往くことができるのである。

 

感想

というわけでアニメまほよめ2期の19話レビューでした。「道の違いはささいな違いに過ぎないが、それが大きな意味を持つことがある」みたいな感じで当初は書こうとしたのですが、どうも途中で筆が止まってしまってですね。引っかかっている部分でウンウン言っている内にチセが地脈を進んでいるのは竜になった時だけに限らないのではないかという仮説に至りました。今回の副題は和訳すると「人事を尽くして天命を待つ」になるそうですが、天命=大道と考えたらいいのかしらん。スケールが大きくなってきた。

チセの前に現れた冬の女神の動向も気になりますが、次回は過去の話が中心になるのでしょうか。フィロメラの両親に何があったのか、怖いなあ。

 

 

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