パズルの魔法――「魔法使いの嫁 SEASON2」22話レビュー&感想

©2022 ヤマザキコレ/マッグガーデン魔法使いの嫁製作委員会

解放の「魔法使いの嫁 SEASON2」。22話ではリズベスの過去が語られ、フィロメラが遂に心の内を叫ぶ。彼女達を捕えているのは「パズル」である。

 

 

魔法使いの嫁 SEASON2 第22話「Give a thief enough rope and he’ll hang himself.」

mahoyome.jp

 

1.人はパズルである

チセ達に願いを口にしようとするも、すんでのところで禁書のささやきにそれを遮られてしまったフィロメラ。一方、屋敷の地下ではリズベスが儀式の準備に入っており……

 

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当主「お前もそろそろ、養子を取るべきじゃないか?」
リズベス「は?」

 

謎解きの「魔法使いの嫁 SEASON2」。22話ではサージェント家当主リズベスが子や孫にどんな思いを抱いていたかが明かされる。孫のフィロメラを虐待し使い潰さんばかりに扱う非道なこの女性にもしかし、そこに至るまでの苦悩はあった。彼女もまた、自分がフィロメラをそう呼ぶのと同様にかつて「できそこない」扱いされていたのだ。

 

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リズベス(私は劣ってなどいない)

 

リズベスは魔術師としての適性が無かったわけではない。諜報者の家系であるサージェント家の仕事ができなかったわけでもない。主からの評価も高い、間違いなく有能な当主……しかしそれでも周囲の人々から彼女はできそこないと呼ばれていた。子供がなかなか産めない一点をもって、「劣っている」と烙印を押されてしまったのである。故にリズベスは養子をとるのではなく、執念の末に自らの腹に子を宿した。
リズベスにとって息子アダムとは、レッテルを剥がしたい一心から作り出した自分の部品に等しい存在であった。アダムは20話で母を「僕をもう一人の自分とでも思っているような人」と評していたが、これは当を得た指摘だったと言える。

 

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リズベス「こんなにも小さく無力な存在であるのかと思うと無性にかわいらしくて、ひどく気持ち悪かった」

 

リズベスにとってはおそらく、産んだという事実だけが目的だったろうアダムの出産。しかし乳母に育てられているはずが後をついてくる子の姿は、彼女の中に予期せぬ愛情を育てもした。人体実験の材料として買い与えた少女イリスに息子が惹かれているとは想像もせず、駆け落ちされるまで彼の口車をつゆほども疑わなかったほどに。
リズベスは息子の行方を突き止め謀略を尽くして連れ戻そうとするも、帰ってきたのはアダムは自ら命を絶ち塵も残さなかったという報告と、彼とイリスの間に生まれた孫娘フィロメラのみ。そしてフィロメラがアダムに似ていれば似ているほど、彼女はアダムの不在を認識せずにはおられなかった。自分の構成部品が欠けてしまっていると感じずにはいられなかったのだ。その結果起こした行動こそが孫娘への虐待、そして禁書で集めた魔力を用いてアダムを復活させようという企みであった。

 

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リズベス(違う、違う。私がほしいのはあれじゃない!)

 

孫娘を犠牲にしてまで自分の部品としての息子を求めるリズベスの執着は度を越したものだが、一つの示唆を与えてくれてもいる。それは「私」という存在が自分だけでは成り立っていない事実だ。子供を産めないが故にリズベスができそこない呼ばわりされた過去しかり、アダムに似ているが故にリズベスがフィロメラに抱いた憎しみしかり……肉体的には独立しているはずの個々人にはしかし、過去や周囲の人物が内側深くにまで絡み合っている。例えるなら、劇中登場するいくつもの魔術が絡んだパズル・・・のように。

一人の人間は存在自体が一つのパズルであり、いかに有能で明晰な人物であってもその難解さからは逃れられない*1だが、このパズルは解けないパズルなのだろうか?

 

 

2.パズルの魔法

一人の人間という、他者が複雑に絡み合ったパズルを解くにはどうしたらいいのか? この難問への挑戦は本作において、魔術と魔法、リズベスと主人公チセの二人によって試みられている。

 

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リズベス「不安? なら……恋しくなるような記憶など、忘れてしまいなさい!」

 

リズベスが採ったパズルの解法。それは魔術による記憶や意識の操作だ。彼女はフィロメラから両親の記憶を消したり、アダムがフィロメラのため作った人造精霊アルキュオネの意識に役目を果たせぬようロックをかけるなどしていたことがこの22話で明らかになっている。頭に呪いのボルトのようなものを埋め込まれ従わされていた人狼の例が象徴するように、彼女は人の思考から複雑さを取り除く手口に長けているのだ。
他者との絡み合いがパズルを複雑にしているなら、他者そのものを消して単純にしてしまえばいい。これがリズベスがパズルを解くために使った”魔術”である。だがこれはパズルの解き方としても人の尊厳の観点からも邪道なのは言うまでもない。ここで選ばれるべきはそんな魔術ではない。

 

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アダムを甦らせるためには自分が贄として必要と明かされ、儀式のための陣に横たえられたフィロメラが絶望の淵で思い出したもの。それは前回禁書の暴走でチセやそのクラスメートのルーシー、アイザックを物理的・精神的に取り込んでしまった際にチセから投げかけられた言葉だった。「(ずっと遠くに)行きたい? 行きたくない? 分かるまで手伝うよ」……そして時を同じくして駆けつけたチセは、今にも贄として吸い込まれようとしているフィロメラにまた問う。「あなたが望んでいるなら、わたし達はそれを止められない。フィロメラはどうなりたい?」と。

 

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フィロメラ「わたしが、もし望んでいいなら……」
フィロメラ「助けて!」

 

チセの問いが示すもの。それは祖母に愛されたいと願っては裏切られ続け孤独へ閉じこもったフィロメラへのパズルの提示だ。あなたは己だけで成り立つ単純な存在ではないし、自分達はあなたというパズルを構成する部品になりたいという表明だ。チセに続いてルーシーに促され、アイザックに励まされたフィロメラの胸にはこれまでのいくつもの出来事が去来する。交わしたたくさんの言葉が、自分を構成する無数の他者が浮かび上がってくる。自分が複雑であると、一人ではないと受け止めたフィロメラの口から自然とあふれたのは「助けて!」という他者・・への言葉であった。

 

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叫びを聞き止めたチセは師エリアスやルーシー達級友の助けを受け、つまり自分がパズルであることを活かして”魔法”の鎚で儀式の陣の破壊とフィロメラの救出に成功する。自分というパズルの複雑さを知り、その複雑さは敵だけではなく味方でもあると示すチセの行いは発想としては逆転していながらもけして摂理を無視してはいない。”魔術”に長けたリズベスのような空理に陥ってはいない。リズベスは既に対価を払った陣ですら破壊されたことに驚くが、二人の違いを見ればこれは意外でもなんでもない当然の結果と言えるだろう。

 

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フィロメラ「わたし、ずっと誰かにわたしを助けてほしかったのね」

 

15話で魔術師のパズルに挑戦した際、チセの魔法はパズルを全て自動で解いてしまった。言ってみれば解かずに解いてしまった。この22話で彼女が見せたものもまた同じだ。パズルを解かずに解く、その不可思議こそはチセが見せた、文字通りの”魔法”なのである。

 

 

感想

というわけで、アニメまほよめ2期22話レビューでした。本文では触れませんでしたが、前回フィロメラに取り込まれたチセ達がバラバラ→再結晶したという劇中の説明がきっかけでこのレビューを書くことができました。”魔術”に長けた言葉が飛び交うようになってしまったネットを思うと、今回チセが見せた”魔法”がいっそう輝いて見えてきます。19話で使った「大道」の概念も重なるところがあるかな。

 

今回はチセ、フィロメラ、ルーシー、アイザックの声に込もった情熱はもちろんですが、リズベス役の定岡小百合さんの声から要所要所で覗く柔らかさもとても印象的で。やったことは本当に酷いし勝手なのですが、アダムを間違いなく愛していたと感じられるのが切なかったです。

さて、物語も残り2話。どういう決着をつけることになるんでしょうか。

 

 

*1:良くも悪くもまっすぐリアンなどはその好例だ