おそろいの星灯り――「星屑テレパス」9話レビュー&感想

©大熊らすこ・芳文社/星屑テレパス製作委員会

キラキラ照らし合う「星屑テレパス」。9話では海果がもう一つの星を見る。星は空にばかりあるとは限らない。

 

 

星屑テレパス 第9話「惑星グラビティ」

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1.どん底の選手権

いよいよ始まったモデルロケット選手権、彗は観客を沸かせるスピーチの上に目標値ほぼドンピシャという驚異的なスコアでロケットを打ち上げた。海果は自分も彗のように完璧にやらねばと言い聞かせてスピーチの壇上へ向かうが、階段に足をかけた瞬間自分は彗のようにはなれないとはっきり感じてしまい……

 

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輝きを見つける「星屑テレパス」。9話はモデルロケット選手権のてん末から始まる。部への昇格を目指し優勝狙いで選手権に臨んだ海果、ユウ、遥乃、瞬のロケット研究同好会であったが、結果は散々なものだった。海果は自分のスピーチがどんなだったかすら覚えておらず、「ウルトラハイパワードリィーム号」の打ち上げは1回目は失敗して記録なし、2回目は目標高度を大きくオーバーして予選敗退……およそ褒めるところのない、大失敗としか言いようのない終わり。4人は悔し涙を分かち合うといったことすらできず、大会終了後は空中分解するようにバラバラになってしまった。

 

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ユウ「あれ……なんでだろ。見えなくなっちゃった、キラキラ」

 

「およそ褒めるところのない」と書いたが、実際この失敗が辛いのはおよそフォローできるものが見つからないところだ。海果が堂々とスピーチできていたら、あるいはロケットがちゃんと飛ばせていたら、4人は悔しいなりに胸を張れたかもしれない。けれど結果を求めた瞬はもちろんのこと、結果も過程も特別だと受け止めるつもりだった遥乃もこの失敗には何も言えない。彗との差を痛感した海果に自分には何もできないと泣いて走り去られたユウは「見えなくなっちゃった、キラキラ」とつぶやくが、「キラキラ」が――星が見えなくなってしまったのは4人全員がそうだ。

 

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海果「こんなことならわたし、ずっと一人でいればよかったんだ」

 

星を目指して空を見上げていた海果達はしかし、彗や選手権という空のあまりの高さに星を見失ってしまった。ならば彼女達のロケットは地に落ちるしかない。それもただの地表ではなく、飛び上がった分だけより低い場所へ。星を見失った海果達は、文字通りのどん底に落ちてしまったのだった。

 

 

2.彗が感動した理由

どん底から見る世界は暗い。地表より更に低い底の底から見える空は一層遠く、まして星などは未来永劫届かないようにすら思える。でも、本当にそうだろうか?

 

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彗「当日は天候もベストじゃなかったのに、空へ伸びる軌道がきれいで力強くて本当にワクワクしたんだ。だから、この感動はちゃんと伝えておきたいな……って」

 

選手権から数日、部屋に閉じこもっていた海果は妹の穂波から頼まれた買い物の帰りに彗に遭遇する。呼び止めた彼女が伝えたのは、海果達のロケットの打ち上げが「いい打ち上げ」だったこと……天候も良くない中で打ち上げたそれの軌道がきれいで力強くワクワクしたという、お世辞抜きに彼女が感動した事実であった。
お世辞抜きとは言っても、彗が覚えた感動は結果に対する慰めにはならない。過程が現れているわけでもない。けれど彗があの打ち上げに感じたのはおそらく、海果を代表としたロケ研4人そのものだ。

 

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海果達のロケット、ウルトラハイパワードリィーム号の成績は確かに酷いものだった。エンジンに点火するのが下手くそ、技術は拙い、勢い余って目標値をオーバーするほど高く飛び上がるそれは選手権の予選を突破するレベルには到底達していない。けれどそんなふうに不器用ながらまっすぐ飛ぼうとしたあのロケットは、競技機体である以上に海果達の分身だ。どんなに気の利いたおしゃべりよりも雄弁に海果達を語るスピーチだ。海果達自身すら気付かぬ内に込められていたその言葉をテレパシー・・・・・のように受信したからこそ、彗はあの打ち上げに感動を覚えたのだろう。もし海果達がいきなり他を圧倒するようなモデルロケットを作り上げていたら彗は、そして私達視聴者はそこに彼女達のリアルを感じることはできなかったはずだ。フォローのしようもないどん底の結果にしかし、それでしか伝えられないものは――見えてこないものは確かにあった。

 

 

3.おそろいの星灯り

言葉とは違うものが伝える、自分自身ですら気付かないメッセージ。それは彗がモデルロケットから感じた海果達らしさに限らない。

 

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海果「ごめん、ごめんね! わたし、わたし、『宇宙に行けない』って、ひどいこと言った……! 絶対連れて食って約束したのに、一緒に行こうって約束したのに。ごめん、ごめんね……!」

 

宇宙に居場所を求めた自分にとって、ロケ研はもう一つの居場所になっている。彗との話で自分の気持ちに気付かされた海果はユウともう一度話をしに彼女の家=灯台へ向かうが、ユウは留守にしているどころか夜になっても帰ってこなかった。灯りもつかなくなっており、痕跡すら消えたように荷物もない灯台の有様に海果は悟る。ユウは出て行ってしまった、自分が酷いことを言ったからいなくなってしまったのだと、これまたテレパシー・・・・・を受けたように感じ取る。結果だけ見れば彼女は帰ってきたが、海果が感じたユウとの別れはおそらく嘘ではない。記憶喪失の宇宙人を名乗りおでこぱしーを始めとした人ならざる力を持つ彼女はきっと自分で考える以上に海果との繋がりに依存した存在であり、こんな別れは嫌だと海果が叫ばなければ「明内ユウ」がもう一度姿を現すことはなかったろう。

 

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海果(明内さんの歌に導かれるように、わたしの中で確かに何かがきらめいた)

 

ユウが自分について理解していないように、人にとって言葉を伝えるのが一番難しい相手は他人でなく自分である。そして、自分で気付けない自分を教えてくれるのはいつだって他人だ。スピーチとしてのウルトラハイパワードリィーム号の打ち上げや居場所としてのロケ研を海果に気付かせてくれたのはメンバーではなく他人の彗だったし、ユウは今回海果とのやりとりを通して記憶の一部を取り戻してもいる。それは他人が、自分では照らせない場所にも光を当てる灯りになってくれているのと同じではあるまいか。だから再会したユウは海果の中に消えるわけのない灯りを、海果はユウを通して自分のキラキラを見つけることができるのだ。

 

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海果(明内さんがくれた勇気、みんながくれた勇気。次の一歩を踏み出すためのわたしの強い願い。これが、わたしのキラキラ……!)

 

自分でも気付かない内に私達が発する言葉は、テレパシーのように他人に届いてやがて自分に帰ってくる。それは因果応報などというよりはむしろ、自分の意志を伝え合うコミュニケーションの裏面的な真実であろう。私達の中にある「キラキラ」を見つけることはすなわち、自分と他人を照らし合うおそろいの星灯りを見つけることなのである。

 

感想

というわけで星屑テレパスのアニメ9話レビューでした。うわー、これはすごい密度。「どん底の星」の題でレビューを書き始めたのですが途中で彗がなぜ海果達のロケットに感動したのか分かり、更にそこから「キラキラ」について考えが伸びて……と1話で2,3歩進んだような感覚があります。キャスト陣の演技につい聞き入り、そこから各種音響にも自然意識が向くようになって耳の方でもいつも以上に集中する視聴時間となりました。

とても良いものを見させてもらいました、スタッフの皆様ありがとうございました……と最終回じみたことを書きたくなりますがアニメだけでもまだ3話残っているわけで。これからの話がいっそう楽しみになる回だったと思います。

 

 

 

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