勝負の場所――「星屑テレパス」8話レビュー&感想

©大熊らすこ・芳文社/星屑テレパス製作委員会

競う場所を知る「星屑テレパス」。8話ではモデルロケット選手権が間近に迫る。しかし、海果達の勝負の場所は選手権だけではない。

 

 

星屑テレパス 第8話「出陣ウルトラハイパワードリィーム」

hoshitele-anime.com

1.遥乃vs瞬!?

モデルロケット選手権に備え試作機の打ち上げデータを取り始めた海果達ロケット研究同好会(ロケ研)。しかし、ロケットに搭載するパラシュートがなかなか機能せず……

 

©大熊らすこ・芳文社/星屑テレパス製作委員会

遥乃「選手権に使用するロケットにはペイロード、いわゆる積載物として生卵を積むんです」

 

夏を迎える「星屑テレパス」。8話ではモデルロケット選手権の詳細が明らかになる。高く打ち上げた方が勝ちというイメージを抱いていた人は私だけではないと思うが、競技としてのモデルロケットはそれよりずっと複雑だ。点数は大会公式が定めた飛距離や滞空時間からどれだけ離れているかで決まり、点数が少ない方が=規定の飛距離や滞空時間との誤差が小さい方が良い結果とされる。加えてロケットには宇宙飛行士を想定して卵を搭載することになっており、降下時に卵が割れたりヒビが入ってしまってはいけない。出場者達が勝負する”場所”はロケットの強さ比べのようなものではないのだ。

 

©大熊らすこ・芳文社/星屑テレパス製作委員会

瞬「なんじゃこりゃ!?」
遥乃「あらぴったり!」

 

勝負は単純な強さからは少し離れたところにある。これは今回序盤のお菓子作りの場面でも同様だ。同好会の一員にして優秀なメカニックである瞬は打ち上げを繰り返してもパラシュートが機能せず卵が割れてしまうことに悩んでいたが、気がつけば同じく同好会の遥乃の(打ち上げで割れた、そして瞬が腹いせに割った卵を使った)お菓子作りに巻き込まれていた。

遥乃はいつも笑顔を絶やさぬたおやかな娘だが、人の扱いについてはなかなかのやり手だ。瞬がロケットについて悩んで生返事をしている間にエプロンを着せてしまったり、甘いもの好きな彼女にこれから作るのは卵たっぷりの甘ふわシフォンケーキだとささやいて結局一緒にお菓子を作らせたり……瞬にとっては、遥乃は気がつけば自分を丸め込んで=負かしてしまう難敵と言えるだろう。ただ今回の場合、二人の勝負はもう少し先のところまで続いている。

 

©大熊らすこ・芳文社/星屑テレパス製作委員会

お菓子作りのさなか明かされたのは、瞬のロケット作りへの意欲は負けず嫌いな性格が原因ではないということだった。彼女は海果達の宇宙への夢を叶えるには自分がロケットを作って勝つ他ないし、そうできなければ自分には皆と一緒にいる意味がない=資格がないと考えていたのだ。けれど遥乃は瞬のその考えをやんわりと否定し、以前は顔も合わせてくれなかったあなたがこうやって一緒にお菓子を作ってくれているのは私にとって大金星の勝利なのだと言う。途中でメレンゲをかき混ぜる役を巡るじゃんけんが挿入されていることから分かるように、これもまた”勝負”だ。勝って結果を出さなければ負けとする瞬と、相手を負かすばかりが勝ちではないと考える遥乃の思想の勝負。

 

©大熊らすこ・芳文社/星屑テレパス製作委員会

瞬「嫌いなものが一つもないなんて、そんなの本気で好きになれるものが一つもないのと同じだろ!」

 

結果も過程も全て否定しない遥乃の思想は優しい。にこやかに相手を包み込む、彼女の作るシフォンケーキのように柔らかい考え……しかし今回の瞬はそれに丸め込まれない。嫌いなものがなければ本当に好きなものもないという瞬の言葉は錐のように鋭く遥乃の心に刺さり、雲行きは怪しくなるが――ここではそれは、同好会の一人ユウがケーキを食べに補習を抜け出してきたためにひとまず棚上げになる。強いて挙げるなら、空気を読まないユウもしくは皆が好きなシフォンケーキがここでは勝者となったのだった。

 

 

2.それぞれの勝負どころ

©大熊らすこ・芳文社/星屑テレパス製作委員会

勝負は思わぬところにある。これは中盤の本番用モデルロケットの製作でも同様だ。学校が夏休みに入り海果達は8月半ばの選手権の本番用ロケットの製作に入るが、その仕事ぶりは瞬から見ると稚拙極まりないものだった。接着はガタガタ、処理もいちいち不十分……腹に据えかねた瞬は外で石でも拾ってろとまで言い、海果は涙をこらえながら外に駆け出してしまったほどだ。

 

©大熊らすこ・芳文社/星屑テレパス製作委員会

瞬(機体の形状精度と打ち上げデータのサンプル数、この2点が勝敗を分ける鍵。そして、資金と経験で劣ったわたし達にできるのはとにかく精度を上げること!)

 

海果達に怒鳴る際に瞬は「本気で勝つ気がないなら帰れ!」と叫んでいるが、つまり瞬の目には海果達が”勝負”に臨もうとしているようには見えなくなっていた。そしてそれには理由があった。設計を担当した彼女は大会規定に則れば個々のロケットにほぼ性能差がなく、資金と経験で劣る自分達が良い結果を出すには精度を上げるしかないと考えていた。接着や塗装、研磨といった部分が勝負どころだからこそ、瞬はそれが十全にできない海果達に勝負の意志がないように感じてしまったのだ。しかし後に分かるように、これは彼女の思い込みでしかなかった。

 

©大熊らすこ・芳文社/星屑テレパス製作委員会

海果「ら、雷門さん!」

 

設計資料を確認している最中、瞬はそれに紛れていた海果の「ロケットノート」を見つける。火薬にイグナイターを付けるのも満足にできない彼女はしかし、それでもモデルロケットの仕組みについて勉強は進めていた。そしてページをめくる中で瞬が見つけたのは、かつて自分が書き込んだ「選手権優勝!!!!」の下に海果が書き添えた「絶対みんなで叶えよう!!!」という言葉であった。そして海果は、同好会の会長として強くありたいと願う彼女は、誰に頼ることなく自分の意志でまた戻ってきた。海果の心にも間違いなく、勝利への思いはあった。

 

©大熊らすこ・芳文社/星屑テレパス製作委員会

瞬「先に言っておくが、お前ら全員、当日足引っ張ったらただじゃおかねえからな!」

 

「勝ちたいのは瞬ちゃんだけじゃないですよ」と遥乃が言い添えたように、海果達は別に勝負に挑むつもりがないわけではなかった。瞬と彼女の間にあったのは、言うならば勝負どころがどこかの違いだけだ。だったら、それを踏まえれば二人は一緒に勝負に臨める。瞬は前言を本気ではなかったと撤回し海果に風向きの読み方やパラシュート周辺のセットを練習するよう言うが、これは海果にどこで勝負してもらうかを彼女が再考した結果だと言えるだろう。

 

序盤の遥乃と瞬、中盤の瞬と海果のように、勝負は思わぬ場所でも発生するものだ。それは意外な発見や共闘の母でもあるが、同時に思わぬ勝負の存在に気付いた時に人はすくみもする。8話の最後、海果はその壁に直面することとなる。

 

 

3.勝負の場所

©大熊らすこ・芳文社/星屑テレパス製作委員会

ユウ「じゃじゃーん! ウルトラハイパワードリィーム号でーす!」

 

いよいよ訪れたモデルロケット選手権の予選当日。苦心の末「ウルトラハイパワードリィーム号」を完成させたロケ研は顧問の笑原先生と共に会場に来ていたが、海果には打ち上げとは別にやることがあった。チームの代表は打ち上げ前に自分のロケットにスピーチをすることとなっており、会長の海果はあがり症ながら大勢の前で自分達のロケットについて発表しなければならなかったのだ。とはいえメインは打ち上げであり、スピーチはあくまで添え物に過ぎない……はずだった。会場で竜岡科学技術高校の宇宙研究開発部部長、秋月彗と再会するまでは。

 

©大熊らすこ・芳文社/星屑テレパス製作委員会

彗「スピーチお互い頑張ろうね。小ノ星さんの機体紹介、楽しみにしてる! いざ、尋常に勝負だ!……また打ち上げでね」

 

前年度優勝校の部長である彗は1年上の先輩でもあり、対抗意識を燃やす瞬に挑発されても余裕を崩さない。海果がリーダーと知った彗はお互いスピーチ頑張ろうねと励まし、明るいノリでそれを「いざ、尋常に勝負だ!」など冗談めかして言うほどだ。だが、彗に憧れる海果にとってこの言葉は単なる冗談では済まないものだった。そう、彗は「勝負」という言葉を――この8話の裏側で流れ続けていた言葉を海果にかけたのだから。

 

©大熊らすこ・芳文社/星屑テレパス製作委員会

皆が注目しているのは確かにロケットの打ち上げである。スピーチで勝った負けただなどと、大半の人はそもそも考えもしないだろう。しかし海果にとっては違う。これは以前のイベントで堂々とスピーチを披露した憧れの人に、リーダーに挑む海果だけの勝負なのだ。原稿を完璧に覚えたはずなのにつっかえつっかえになってしまう、会長なのに技術も未熟で足を引っ張っている(と思っている)自分が彗に「勝てる」だなどと、今の彼女には思える道理がない。今回ラストの海果の顔は誰に何を言うでもなく暗く沈んだものになっていたが、それは彼女が突然発見した”勝負”に、勝てる自信が全く持てない故に生まれた表情なのだろう。

 

©大熊らすこ・芳文社/星屑テレパス製作委員会

かくて各人がめいめいに”勝負どころ”を見つめながら、モデルロケット選手権はいよいよその幕を開ける。出場者が競うのは予選の突破だが、本当に競われているのはそれのみではない。たった1つの勝負にしかし、勝負の場所は無数に重なり合っているのだ。

 

 

感想

というわけで星屑テレパスのアニメ8話レビューでした。今回は後半の選手権当日をどう位置づけたらいいのか、どうして海果は暗い顔になるのかが全然分からず何度も視聴を繰り返し。アバンで海果が風呂場近くで火薬にイグナイターを付ける練習をする場面から「場所」が鍵になりそうだとは感じつつ、それに繋げるものとして「勝負」が浮かぶまでが長かったです。
モデルロケット選手権の競い方も面白く、勉強になる回でした。さてさて、次回海果達の勝負に待ち受ける結果やいかに。

 

 

<いいねやコメント等、反応いただけると励みになります>