諸共の炎――「ダークギャザリング」21話レビュー&感想

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

焼き尽くす「ダークギャザリング」。21話では強大な少年霊と花魁の霊が激突する。伝説の花魁が見せる美しさは、ただの美しさではない。

 

 

ダークギャザリング 第21話「旧I水門/瑰麗」

darkgathering.jp

 

1.多彩なる役割分担

旧I水門の少年霊の強さは、Sランクでも群を抜いたものだった。夜宵はこの恐るべき相手への勝利条件を語るが、敵に捕まってしまい……?

 

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裏切りの「ダークギャザリング」。21話では危険度Sランクの心霊スポット・旧I水門の少年霊との戦いが始まるが、「なり代わり」の巫子を一蹴してみせたその強さは圧倒的だ。スケッチブックに描けば距離を無視して相手の体を「肉団子」にでき、肉団子を食べれば少年霊が更に強くなる。鬼子母神の人差し指でも貫けない硬度の4本腕を生やした姿に変化することもでき、Sランクでも群を抜いて強いという夜宵の評も頷けるというもの。かつて彼女は「圧倒的な個」という言葉を使ったが、この少年霊はそれにかなり近い存在と言えるだろう。

 

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圧倒的な個に集団が対抗する方法はもちろん、集団の強みを活かすことだ。集団だからできることの一つには役割分担があり、今回夜宵、そして仲間である螢多朗や詠子達はそれをフル活用している。捕まった夜宵を助けに行く際は無限回復する形代を持つ詠子が助けに行くことで少年霊からの攻撃を防いでいるし、同じく捕まって溺死させられそうになった螢多朗は夜宵に助けてもらった直後、彼女を担いで移動することで夜宵の背丈の低さによる水辺での遅さをフォローしていた。強大な霊である”卒業生”の解放前に少年霊のスケッチブックを使用不能にすることで、強いとはいえ形代を持たない彼らの防御上の弱点をカバーしている点に至っては役割分担は霊相手にまで成立している。そして更に興味深いのは、この役割分担は見ようによっては敵味方すらを超えていることだ。

 

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夜宵(煽った甲斐があった)

 

今回夜宵は少年霊をわざと挑発して攻撃させているが、これは卒業生の宿ったぬいぐるみで攻撃を受けてその敵意を少年霊に向けさせるためだった。少年霊ともっとも相性のいい卒業生、邪悪な花魁の霊は夜宵を嫌っておりただ解放すれば逆に自分達に攻撃してくる恐れがあったからだ。目論見通りにことは運び花魁の霊、「魄啜繚乱弟切花魁(はくていりょうらんおとぎりおいらん)」は夜宵ではなく少年霊に刃を向けるが、この時夜宵と少年霊の間には敵味方を超えた役割分担が成立している。またその後も夜宵は弟切花魁の最後の呪いを発動させるため手鏡を投げ込んで彼女に自分の顔(攻撃で醜く傷つけられた顔)を見せるなどといったことをしているが、こちらでは逆にあえて味方に敵対的行為をする役割分担が行われていると言える。

 

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夜宵「煌めいて。魄啜繚乱弟切花魁」

 

役割分担は手を取り合うことばかりでなく、時に敵対的な行動の結果としても生まれる。これは螢多朗が上述の溺死の危機の際、恋人の詠子に自分より先に夜宵を助ける(それから二人で自分を助けてもらう)よう頼む場面などからも言えるが、その不思議をもっとも味わった者は別にいる。誰あろう今回の主役とも言える花魁の霊、弟切花魁の生前である。

 

 

2.諸共の炎

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

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弟切花魁は貧困の家族を救うため、自分の美しさを売り遊女になった女性である。人命すら救う天性の美貌を誇りとする彼女の生前はしかし、悲惨なものだった。花魁としてNo.1の座にあった彼女は美しさに惚れ込んだ伊藤という男に身請けを申し出られるなど絶頂期を迎えていたが、その伊藤は弟切花魁の注いだ酒でなぜか瀕死に。一命をとりとめた彼に毒を盛られた恨みとして顔面が砕けるほどの殴打を受けてしまったのだ。おまけに疫病に罹患した彼女は辻で体を売ろうとしても化物呼ばわりされるまでに落ちぶれてしまう。そして、そんな弟切花魁の前に現れた後輩の遊女・紅のかけた言葉は更に彼女を絶望させるものだった。なんと紅は、伊藤に身請けされたというのである。

 

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紅「昔からね、あたしが一番美人だったんだよ。常に一番だった……そのはずなのに一番の座にはあんたがいた。屈辱だったよ」

 

紅は言う。昔から自分こそもっとも美しかったはずなのに、弟切花魁が一番の座にいるのが屈辱だったと。絶対に認められないから毒を盛ったのだと。そして、かつて紅が新造として入った時にくれてやった手鏡で弟切花魁が見せられたのは、殴打と病で美しさとは全く無縁に変わり果てた己の顔であった。

 

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紅「来た甲斐があったよ、最高に愉快だ。姉さんのこーんなみじめな様を見れたんだからね! あは、あははは!」

 

弟切花魁が受けたのは裏切りである。それは愛した人や自分を慕っていると見えた人の敵対という役割分担のようなところにもあるが、それだけではない。紅が毒を盛ったのは弟切花魁が美しかったからこそなのだ。弟切花魁が第一に大切にしてきた、最大の味方であったはずの美しさはむしろ彼女の人生を決定的に転落させるきっかけとなっていた。そして殴打と病を経た今、弟切花魁の顔にはもはやかけらほどの美しさも残っていなかった。そう、彼女は何よりも「美しさ」に裏切られたのだ。

 

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「絶対に許さない」。そう心に決めた弟切花魁は夜、忍び込んだ館で紅に油をかけ火をつけ、自らもその火の中で死んでいく。紅だろうが弟切花魁だろうが、美女だろうが醜女だろうが燃やしていく炎はある意味で平等だ。そこに裏切りはない。嘘もない。敵だ味方だ個だ集団だと区別することなく燃やす恨みの業火とは、見方を変えればあらゆるものを飲み込む真に瑰麗(かいれい)たる炎ではあるまいか?

 

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夜宵「3つ目の呪い。命を糧に燃え盛り、全てを焼き尽くす怨念の業火……炎上楼閣」

 

圧倒的な力を持つ少年霊に対し、花魁が見せたものは圧倒的な美である。全てを焼き尽くす諸共の炎こそ、美に翻弄された女がたどり着いた美しさの化身なのだ。

 

感想

というわけでダークギャザリングのアニメ21話レビューでした。「役割分担」「敵味方」みたいなワードは浮かびつつもどうも花魁の生前の話に結びつかないな……と頭を悩ませたのですが、視聴を繰り返す内に炎で全部諸共にしたらいいのではとレビューの方向性が決まった次第です。これはまた強烈な「人」だな、と感じました。彼女に魅入られてしまいそうで次回が怖いです。

 

 

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