仏に入れる魂はいずこ――「ダークギャザリング」17話レビュー&感想

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

謎と恐怖の「ダークギャザリング」。17話では夜宵と詠子が事故物件の内見に向かう。二人が遭遇する心霊現象からは、「仏作って魂入れず」のことわざの意味が見えてくる。

 

 

ダークギャザリング 第17話「受胎告知の家」

darkgathering.jp

 

1.受胎告知の家はミステリー

卒業生ハウスを作るべく、以前の住人が大量殺人の挙げ句に心中した格安事故物件を訪れた夜宵と詠子。「受胎告知の家」の異名をとるこの家で二人を待つものとは……?

 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

夜宵「どえらい化け物がいるかも」
詠子「見たいような見たくないような……」

 

恐怖が一つでない「ダークギャザリング」。17話はいつもとちょっと趣の異なる回だ。これまでの本作は強力な霊を求めて有名心霊スポットを訪れ、そのいわくもH城址のようにある程度判明しているケースが多かった。しかし今回の事故物件「受胎告知の家」は取り扱いに注意の必要な強力な霊・卒業生を置いておける格安な物件を探してたどり着いたに過ぎず、どんな霊がいるのかは当初不透明だ。この家で起きたことのあらましは家主から前回語られているが、前の賃借人が殺人事件を起こした上、突入した女性警官が突然の妊娠の上10日後に子供に腹を突き破られて死んだというおぞましい話はそれだけでは理解に苦しむ内容である。実際に踏み込んでみても、霊は最初こそ水に毒(睡眠薬?)を盛ったりもしたがその後は積極的に攻撃してこないなど不可解な点が目立つ。今回の悪霊には謎がある――ミステリー的である、と言ってもいいだろう。

 

一般的に、ミステリーは眼前の「現象」に対して「説明」がつかないところに生まれる。現実に起きている現象はいわば「体」であり、その説明は「心」だ。旧旧Fトンネルで危うく死にかけた詠子は前回、恐怖に怯える心を恐怖を渇望する肉体で乗り越える形で両者を一致させたが、そこから続くこの事故物件内見も心と体の不一致の問題を抱えているのである。

 

 

2.まやかしの光

「受胎告知の家」は心と体の不一致を抱えている。夜宵と詠子が幻視するこの家の過去から見えるのは、この不一致が悪霊の誕生以前にまでさかのぼることだ。

 

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今は家主すらよりつかなくなったこの事故物件にはしかし、かつては幸せが満ちていた。仲の良い夫婦と一人娘が暮らす、一家団欒という言葉がぴったりの家庭……しかしある日を境に彼らの生活は一変してしまう。ささいな喧嘩で夫が妻を押したところ彼女は頭部を強打し死んでしまい、以来彼らの家にはその罪を責める手紙が山のように届くようになったのだ。
悪気がなくとも誰かを傷つけてしまうように、私達の行動はしばしば心と体のズレを伴う。妻殺しと父が母を殺した現象――「体」を背負うには彼らの「心」は清らか過ぎ、だからこそその隙間に魔が入り込んだ。彼らの家を訪ねたある男が、「天使様」が救ってくれると称して娘にとんでもないことを吹き込んだのだ。

 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

???「天使様が君を救ってくれる」

 

ある男が娘にささやいた、「天使様」を呼び出す方法。それは母の骨から作った祭壇に父親と成した子を殺害して捧げ、更に子の霊に大量の一般人の霊を食わせ、最終的には生きた女性に宿らせ肉体ある存在として産ませるというあまりにもおぞましい所業であった。母の生前なら、娘は全てを聞く前に耳を塞いでいたに違いない。だがこの時の彼女には他に道は見えなかった。父が母を死なせ周囲から責めさいなまれる罪深き「体」を背負うため、相応の狂った「心」を持つ他なかった。娘がこの外道な振る舞いに見たものとはつまり、自分の心と体を一致させるただ一筋の光明であった。

 

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娘の霊「最後の詰め……生きてた時は失敗した」

 

娘は救いを願ったに過ぎない。バラバラになった心と体を繋ぐ方法を求めたに過ぎない。しかし男に吹き込まれた外道から生まれるのが救いの天使であるわけがなく、儀式は最終段階でつまづくこととなる。「天使様」なる霊は確かにできあがったが、それを産ませようとすると天使様は女性の腹を突き破ってしまい母体ともども死んでしまうのだ。つまり天使様という「心」はそれに見合った「体」を持てない。しかし娘は今度こそはと願って家に入ってきた女性に天使様を宿らせては死なせていく……心と体の不一致に苦しめられた彼女は天使様に光明を見たが、その正体は両者の一致を信じさせながらも永遠にたどり着かせないまやかしの光でしかなかった。

 

 

3.仏に入れる魂はいずこ

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

心と体の一致は、釣り合いをとることは人にとって永遠の課題である。「受胎告知の家」の家族のように、満たされている者でも一寸先に闇が待っていない保証はどこにもない。詠子の「心」はストーキングするほど恋人の螢多朗に夢中だがもう少しマッチョな「体」になってほしいとも感じているし、今回の話で彼女は天使様の霊に宿られ腹部にその顔が浮かび上がるが、実態としてはまだ天使様は肉体を形成しておらず追い出しさえすれば後遺症の心配はなかったりもした。逆に言えば、敵対者のそれを意図的に分離させてしまえばこれほど有利な状況はない。

 

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詠子「大丈夫、螢くんのおかげで覚悟は決まったから。お姫様抱っこされるまで絶対に死なない!」

 

この17話の夜宵と詠子は二人で心霊現象に立ち向かっているが、その役割は例えるなら心体の分担である。夜宵が推理などで頭を働かせる一方、螢多朗不在で有名心霊スポットでもない「受胎告知の家」での詠子は基本的に襲われるばかりの立場だ。天使様が宿ろうとする詠子は「体」の、それに対処しようとする夜宵は「心」の象徴となっていると言えるだろう。詠子が覚悟を決め、夜宵が鬼子母神の人差し指による霊的攻撃で彼女から天使様を追い出したように二人が一緒なら怖いものはない。しかし再度「受胎告知の家」に入った際、二人は今度は幻覚と神隠しによって分断されてしまった。娘の霊のこの作戦は、彼女達を引き離すことでその心と体の一致を解くところに肝があったと言える。

 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

詠子(ま……まずい!)

 

夜宵と引き離され、娘の霊に井戸に突き落とされた詠子は天使様の徘徊する音に息をひそめる。巨大な頭の天使様の頭が覗き込めば光は全く遮られ詠子も見つからない……はずの井戸の中を照らしたのは、なんと夜宵からの着信を受けた詠子のスマホであった。姿の見えない相手の場所を着信音で探ろうとした彼女の行動は「心」の担当らしく理に適っていたが、その行動は実「体」としては詠子を危険にさらす結果となってしまったのだ。

 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

「仏作って魂入れず」ということわざがある。きれいに仕上がっているようで肝心なものの抜けた状態を指す言葉だが、肝心なもの=魂を探すのは容易いことではない。頭脳に発する理屈だけでも、体から生まれる感情だけでもそれを見つけることはできない。心と体が一致するところにこそ、仏に入れるべき魂は隠されているのだ。

 

 

感想

というわけでダークギャザリングの17話レビューでした。いつもアバンが前回の流用ということもあってテーマ探しに悩んだのですが、前回の詠子の再起を鍵に見ていくことで描写が自分の中でまとまっていきました。ちゃんと今回の「魂」を見つけられているといいのですが。上田麗奈さん演じる娘の悲惨な凶行が強烈な今回の話を、書くことが見つかるまで繰り返し見るのに耐えた私を誰か褒めて。

 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

しかし夜宵の人差し指連打、北斗百裂拳か何かみたいで笑ってしまいました。いや、基本的に画面に一度に指が映ったりはしてないんですが。今に始まった話でないですが小学生の動きとは思えない。

 

 

 

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