心と体、首と胴体――「ダークギャザリング」16話レビュー&感想

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

やめられない「ダークギャザリング」。16話では詠子がとある首塚を訪れる。彼女がそこを訪れるのは、彼女自身の首と胴体が切り離されているからだ。

 

 

ダークギャザリング 第16話「物件」

darkgathering.jp

 

1.切り離されたもの

旧旧Fトンネルの強力な悪霊の獲得に成功した夜宵達。しかし消耗も激しく、やつれた螢多朗は休息を余儀なくされる。詠子も危うく命を落としかけた経験から恐怖が心に巣食っており……

 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

再スタートの「ダークギャザリング」。本作は普段は螢多朗や夜宵が物語の中心だが、今回は仲間である詠子にスポットを当てた内容となっている。彼女は前回までの旧Fトンネルでの事件で死にそうな目に遭ったのだから、心の整理が必要になってくるのは当然のことだろう。

 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

詠子(考えると震えてしまう。昨日のことが、頭をグルグルして離れない……)

 

超のつくオカルト好きの詠子だが、そんな彼女も旧旧Fトンネルでの体験にはすっかり参ってしまっていた。一人神隠しに会い、友人となった少女が自分を道連れにしようとする悪霊で、連続殺人鬼の悪霊に惨殺されかけた経験はあまりに強烈で、今までの自分の認識の甘さを痛感せざるを得なかったのだ。恋人の螢多朗や家族同然の夜宵と一緒にいたい思いは変わらないが、これからも心霊に関わりたいかと考えると震えてしまう……今の彼女は心と体が一致していないと言えるだろう。そう、例えるなら首と胴体が切り離されているように・・・・・・・・・・・・・・・

 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

心霊スポット探索を続けるべきか、もうやめるべきか? それを問うために詠子が向かったのが梟首された平将門首塚なのは必然である。さらし首にされるとは心と体の不一致の極限であり、胴体のある関東まで首だけで飛んでいった将門の伝説はつまりこの不一致解決の試みにほかならないからだ。首塚には彼女の首=心もまた眠っているのであり、そこへ向かおうとする時詠子は将門と逆に首無しの胴体になっていると言えるだろう。果たして、「考えると震えてしまう」「昨日の出来事が頭をぐるぐるして離れない」首を切り落として体だけで首塚へ向かった時、詠子の足はすくみはしなかった。むしろむしろ鼓動と比例するようにその速度を早めていた。彼女の心はもう一度体と一致することができたのだ、首と胴体が繋がるのと同じようにして。

 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

詠子「それで再確認できたんだ。これがわたしなんだ、って」

 

心と体がバラバラになっても「もう一度恐怖を」と体が望む詠子は、首と胴体を切り離されても「もう一度戦を」と首が望む将門と裏返しながらよく似ている。そんな彼女が将門の首塚で自分を再発見するのは当然の結果なのである。

 

2.心と体、首と胴体

詠子が中心となるこの16話は、心と体の不一致を修正しようとする話である。そのように考えた時、アプローチの方法は必ずしも心からである必要はない。詠子がするように、体の方から心を一致させるような方法でも不一致は修正できる。

 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

詠子「この仮説を検証したい。だから……手伝ってくれるよね、安奈」

 

体の方から心と一致させる方法として、詠子が最初に試みたのは「身代わり」の改良であった。夜宵の考案した身代わりは霊を閉じ込めたぬいぐるみや人形に自分達のダメージを肩代わりさせるもので霊が強いほどその効果を増すが、攻撃されて欠損した部位にはそのままダメージが通ってしまう。これは極めて霊的=心的なアプローチだ。対して人の形の型にスライムと形代を入れればちぎられようが自動的に形状が修復され、霊の強さに関係なく無限に修復できるという詠子の発想は極めて身体的である。彼女は旧旧Fトンネルで自分をはめようとした少女・安奈の霊をこの身代わりに封じ込めて「わたし達、ずうっと友達だよ」と語りかけているが、半永久的に壊れないこの人形が示すように彼女の言葉はけして嘘ではない。

 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

詠子「ということで! 呪物の隠し場所兼卒業生ハウスを作っちゃおう!」

 

もう一つの一致は、H城址で拾った呪物や強力な霊の保管場所についての発案である。悪霊育てに長けた夜宵は”卒業生”と呼称される強力な霊を複数所持しているが、自室では抑えきれず周囲の家に霊障を起こすこれらの霊は各所に隠して必要に応じて回収しなければならない問題を抱えていた。そこで詠子は周囲に人のいない事故物件を買えば卒業生をまとめて置いておけるのではないか?と提案するわけだが、「霊をどうするか」ではなく「霊を保管する場所をどうするか」という彼女の発想はこれもやはり身体的なものと言えるだろう。詠子は夜宵や螢多朗と異なり霊感を持たない=霊から切り離されているが、それを身体的アプローチという形で逆利用してみせているのである。

 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

夜宵「れっつごー」
詠子「すと!!」

 

うまい話には裏があるように、物事には一致が付き物。これは詠子達がマッチングサイトで見つけた格安の家屋にしても同様で、100円という売価には売価なりの恐ろしい事故物件事情が潜んでいる。大量殺人事件の被害者が生まれ変わろうとして中に入った人間に妊娠の呪いをかけるなどという噂は、霊にしては身体的・・・でなんとも恐ろしげだ。だがそんな恐ろしい物件だからこそ「ダークギャザリング」に相応しいとも言える。

心と体はバラバラのままでは用をなさない。そして、両者を一致させる道は必ずしも一つではないのだ。

 

感想

というわけでダークギャザリングのアニメ16話レビューでした。今回も難しかった……「家(族)」の話かな?と当たりをつけてみるも全然ピンとこず、「首」から前半について書いている内にようやく心と体の一致というテーマで全体の描写を繋ぐことができました。
詠子だからできること、そして彼女の存在感がぐっと強まる話が続いているのだなと思います。いやしかし受胎告知の家って。次回も怖そう……

 

 

 

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