もう一つの距離――「星屑テレパス」3話レビュー&感想

©大熊らすこ・芳文社/星屑テレパス製作委員会

彼方を目指す「星屑テレパス」。3話では4人目の主要人物・雷門瞬が登場する。ユウや遥乃と大きく異なる彼女が海果に提示するのは、新しい”距離”だ。

 

星屑テレパス 第3話「爆薬メカニック」

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1.瞬の言葉の距離

海果、ユウ、遥乃のペットボトルロケットは改良を重ね順調に飛距離を伸ばしていた。しかしペットボトルロケットではどれだけ作っても宇宙には届かない。優秀なメカニックが必要と考えていた彼女は、クラスメートの雷門 瞬(らいもん またたき)に協力してもらおうとするが……?

 

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海果(悔しいけど、今のわたしには何もかも足りてない)

 

千里の道を歩む「星屑テレパス」。前回ペットボトルロケットで宇宙への第二歩を踏み出した海果達だが、この3話では早くも壁に突き当たっている。ロケットの飛距離が伸び悩んでいる、という意味ではない。改良を重ねた5号機は82mの飛距離を記録しているがこれはあくまでペットボトルでしかなく、100号機まで作ったとしても宇宙まで行けるわけではないからだ。表面的な距離ではなく飛距離そのものが意味を失いつつあるからこそ、海果は壁に突き当たっているのである。そして、これは今回新たに登場する同級生の雷門瞬からも言えるものだ。

 

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瞬「自分のことくらい、自分で話せるだろ」

 

瞬は海果と同じ高校に在籍こそしているものの、まともに通学もせず一人でロボット製作をしている変わり者の少女である。一方で海果のようにすぐあがってしまうなどということはなく、物言いはむしろ過剰なほど率直だ。言葉の距離が短い・・・・・と言ってもよく、そんな彼女はロケット製作を手伝ってもらおうと家までやってきた海果に天敵として立ちふさがる。瞬は海果がユウに話を代弁してもらうことをよしとせず、自分の口で語るよう求めたのだ。

 

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海果(雷門さんは、何も間違ったことは言ってなかった。わたしが勝手に思いこんでたんだ、明内さんと宝木さんがいるだけで、自分が少し変われたように……)

 

「言葉の距離が短い」点からすれば、瞬がロケット製作への協力という目的を聞いて話を終わりにしないのは奇妙に思える。しかし「お前、なんで宇宙に行きたいんだ」と問うているように、瞬が聞きたいのは海果の目的ではなく理由の方だ。他人に代弁してもらうのではそれを語る言葉として「遠すぎる」。瞬に一蹴された海果が味わった挫折とはつまり、ペットボトルロケットと同じく距離にまつわる挫折であった。

 

2.海果と瞬の距離

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歯に衣着せず言葉の距離が短い瞬と、あがり症ですぐ詰まってしまい言葉の距離が遠い海果。前半が示すように二人は対照的で、繋がる余地などないように遠く離れて見える。だが、本当にそうだろうか? 落胆と共に帰宅した海果がその日夢に見たのは、3年前に中学で初めて瞬と同じクラスになった頃の思い出であった。

 

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海果(か、かっこいい……! どうすればあんな自己紹介をさらりと!?)

 

「雷門瞬、趣味はロボット製作。今は大型ロボットの製作のため勉強中、それ以外は特に興味なし」……近寄りがたさに満ちたこの自己紹介に、海果が感じたのはむしろ憧れだった。あがり症で友達を上手く作れない彼女にとって、一匹狼のように自分から孤独を選択する瞬の姿はとてもまぶしく見えたのだ。経緯こそ違えど自分と同じく一人である彼女に親近感を抱いたと言ってもいいだろう。そう、この頃の海果と瞬は実はとても近いところにいた。

 

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ユウ「う、宇宙人だからね! テレポーテーションくらいするよそりゃ!」
海果(わたしの布団の上に!?)

 

距離の指標は一つしか無いわけではない。それを裏書きするように、海果は自室で目を覚ました瞬間ユウとおでこがぶつかるという奇妙な状況に遭遇する。宇宙人であるユウは海果が気になって学校で会うまで待つことができず、なんとテレポーテーションで部屋までやってきたというのだ。つまり彼女にとっては学校までの2,3時間が自分の住む灯台と海果の家よりも「遠かった」のである。

 

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ユウは言う。海果と瞬は本当はそう遠くないところにいて、海果が自分の言葉を灯りにすれば相手を近くに感じられるはずだと。それはまっすぐな気持ちで繋がれた自分達の近さと同じなのだと。一般的な距離感を無視したユウのこの激励は、海果に一つの光明を見せることとなる。

 

3.もう一つの距離

ロケット製作の誘いを断られてから数日、海果は毎日瞬の家を訪ねていた。連日やってくる彼女に根負けした瞬はシャッター越しに話を始めるが、そこでは彼女の「言葉の距離」の新しい一面が見えてくる。

 

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瞬「宇宙工学なめ過ぎだろ!」

 

これまで描かれたように、瞬の言動は率直である。ろくすっぽ知識も経験もないのに有人ロケットを作るなどという海果の無謀を容赦なく指摘し、宇宙を目指すのは居場所を見つけたいからだと海果が話しても「自分探しのスケール、見誤りすぎだろ」と辛辣だ。だが、彼女が自分の考えを全てストレートに語っているかと言えば話は別だ。

 

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例えば、どうしてロボットを作っているのか問われた際に瞬は「わたしは興味あることしかしない主義なんだ、それだけだよ」と返しているが、これは海果の時と同じ基準で考えれば落第ものの回答だ。なぜロボットに興味があるのか聞かれているに等しいにも関わらず、興味があるから作るのだというのでは答えにならない。変わらぬ簡潔な口ぶりのようでいて、この時瞬は自分の気持ちを語ることを避けている。

 

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瞬「……けどまあ、宇宙くらい好きに目指せば」

 

また先に述べたように瞬は海果が宇宙を目指す理由を辛辣に評価したが、一方で「好きに目指せば」とも語りけして否定はしなかった。海果の話を聞いた人の多くがしたように彼女を嘲笑ったりはしなかったのだ。「お前の口から出たそれが、お前自身の本当の言葉なら」と続けた言葉は事実上の応援であり、苛烈な言いように反して瞬は海果に寄り添いすらしている。一見「言葉の距離が短い」ように見える口ぶりの実態は、むしろ遠回しに表現された彼女の優しさであった(考えてみれば初日、機械に近づこうとしたユウを瞬が止めたのも機械でなく彼女の安全のためだ)。

 

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海果「雷門さん! わ、わたしは例え何百年何百光年かかろうとも絶対に宇宙に行ってみせる! だから、負けない!」

瞬「おい、勝手に決めんな!」

 

率直に見える瞬は実のところ、海果以上にコミュニケーションの難しい性格をしている。そんな彼女と共にいるためには、「近い言葉」と「遠い言葉」の両方が必要だ。自分の夢を打ち明ける「近い言葉」に続いて海果が口にした「遠い言葉」……それは瞬にどちらがペットボトルロケット遠くまで・・・・飛ばせるか決闘を申し込むというものであった。「シャッター越しでも口にはできることを直接言うため、わざわざ勝負をする」……こんな遠回しなやり方があるだろうか? だが瞬は「ほんと馬鹿だな、アイツ」と海果に呆れつつも微笑んでいた。瞬のそれより遥かに遠い海果の言葉がしかし、何よりも速く彼女の心に届いていた。

 

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コミュニケーションとは不思議なもので、遠く離れた相手に電話ではなく直接話をしに行ったり、いつも近くにいる人にあえて手紙で感謝を伝える方が気持ちが届く時がある。今回のラストで自分は不甲斐ないと思い込んで泣き出してしまった海果を励ますのに、ユウよりも超能力を持たない遥乃の疑似おでこぱしーの方が――額を通して意思疎通する超能力がなくても気持ちは伝わっていると告げる方が――適していたように。先のユウの言葉に倣うならこれらは、お互いがそう遠くないところにいると見つけられたということなのだろう。

 

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瞬「ほんと馬鹿だな、アイツ」

 

言葉とは灯りである。暗闇の中ではあまりにも遠くに感じられる人と人をテレパシーのように繋ぐ、もう一つの距離を照らす灯りなのだ。

 

感想

というわけでアニメ星屑テレパスの第3話レビューでした。今回はアバンでロケットの映像を見て海果が妄想に走りますが、彼女の心が一瞬にして宇宙に飛んでいる→物理的な距離を無視している→今回は距離の話なのではないか?と気付くまでが長かったです。果たし状で話が終わらないのはなぜだろう?という部分まで含めてテーマとしてまとめるとこのようになりました。

 

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瞬「そうやって、また黙るのか」

 

海果に向けたこの「また」って数秒前のことなのか、それとも中学2年の時のことなのかどっちなんでしょうね。海果達がこの子の素直な言葉を引き出してあげられますように。

 

 

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