魂の鬼ごっこ――「ダークギャザリング」15話レビュー&感想

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

逃げ続ける「ダークギャザリング」。15話では悪霊との鬼ごっこが繰り広げられる。逃げるのは体だけではない。

 

 

ダークギャザリング 第15話「旧旧Fトンネル」

darkgathering.jp

 

1.続く鬼ごっこ

詠子を助けるべく、危険な旧旧Fトンネルへ入る螢多朗と夜宵。突如として螢多朗の身代わり人形の目が潰れ……?

 

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狂気に触れる「ダークギャザリング」。前回14話では旧旧Fトンネルに潜む連続殺人鬼の霊の残酷な手口が目を引いたが、今回もそれは同様である。なんとこの悪霊は捕えた霊の両目をえぐり、脅して身代わりを探させていたのだ。効率からいっても割に合わないのは明らかで、残酷さがよく伺える仕打ちと言える。捕まればお前達もこうなると見せている、鬼ごっこのつもりなのだという夜宵の例えも当を得たものだ。

 

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「捕まるな、がルール」「詠子を助けて脱出できればわたし達の勝ち」と夜宵はルールを確認し、彼女と螢多朗は無事詠子を連れて旧旧Fトンネルからの脱出に成功する。だが、この「鬼ごっこ」はそこで終わったわけではない。

 

 

2.軍曹殿と鬼ごっこ

ごっこは旧旧Fトンネルを抜けただけでは終わらない。いや、そもそも追いかけられるのは夜宵達とは限らない。

 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

夜宵「散華して。『殉国禁獄鬼軍曹』」

 

危うく捕まりかけながらも旧旧Fトンネルを脱出した夜宵はいよいよ悪霊を捕えるべく、卒業生と呼称する強大な霊を解き放つ。「殉国禁獄鬼軍曹」……前々回で回収するだけでも命がけだったこの霊の能力は恐るべきものであった。先の大戦において南方戦線で戦った鬼軍曹が新たに武器を抜く度、周囲の陣の中の霊や人間は戦地同様極度の衰弱状態に陥り場合によっては100年単位で苦しむというのだから始末に負えない。陣に触れまいと逃げていく夜宵達はここでも鬼ごっこを強いられていると言えるが、注目したいのはもう一つ鬼ごっこが発生している点だ。

 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

既に述べたように、旧旧Fトンネルの霊は残忍に楽しむ悪鬼羅刹の如き存在である。トンネル内には剥がした顔の皮が大量に貼り付けられていたし、後に夜宵に交渉を持ちかけられた際も決め手となったのは今後の人殺しへの渇望だった。螢多朗が「イカれてる」と評するのも無理もない救いがたき悪霊……しかしだからこそ鬼軍曹は天敵となった。

 

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鬼軍曹「まだ、死ねない……」

 

敵兵の霊にまとわりつかれ成仏すらできない鬼軍曹が望むものは死であるが、生前から強い回復力を持っていた彼は死後は更に尋常ならざる不死身の霊となっていた。なにせ斧で体を真っ二つにされた上、五体をバラバラにされ貪り食われても腹中でくっついて飛び出てくるというのだから霊にしても常軌を逸している。しかも当人は間違いなく死を望んでおり「殺してくれ」とばかり言うのだからたちが悪い。殺したはずなのに死なないというのはもはや拷問であろう、そう、旧旧Fトンネルの霊のような殺したがりにとっては特に。

 

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旧旧Fトンネルの霊「コ……コロシテ……」

 

旧旧Fトンネルの霊にとって鬼軍曹は文字通り「鬼」軍曹である。彼は夜宵達を追いかけることばかり考えていたが、自分の方こそ不死の鬼に追いかけられていたのだ。そして陣に捕まってしまった以上、この強力な悪霊ももはや逃げることは叶わない。殺すための力は奪われ、死力を振り絞っても鬼を殺すことができない……対象が殺人だから共感しにくいかもしれないが、こんな状況に置かれて絶望しない者はいまい。「殺してくれ」と旧旧Fトンネルの霊が祈った時とはつまり、鬼ごっこの終わりであった。

 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

鬼軍曹「いつか……誰か俺を殺してくれ……」

 

旧旧Fトンネルの霊と鬼軍曹の対決は、いわば鬼ごっこから逃れられぬ者同士の対決である。「殺してくれ」の祈りに囚われている鬼軍曹自身も願いが叶うことはなく、今回も救われなかった彼は必ずしも勝ったとは言えない。では勝利者は誰か?……ここは夜宵の確認したルールを思い出すべきだろう。彼女はこう言ったのだ。「詠子を助けて脱出できればわたし達の勝ち」と。

 

 

3.魂の鬼ごっこ

ごっこの勝利条件は「詠子を助けて脱出する」こと。一見すると勝利条件は前半で既に満たされているようだが、実はこれはラストまであやふやなものだった。

 

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安奈「認めない! あたしはこんなに苦しんだのにお前は助かるなんて絶対に認めない!」

 

詠子は前回、三崎安奈という女性の霊によって神隠しにあっていた。安奈は旧旧Fトンネルの霊であったが他人を道連れにしてやろうと企む悪霊となっており、その犠牲になった者が更に悪霊化していたことが前回明かされている。旧旧Fトンネルの霊という鬼に捕まった者が更に鬼になっていたのであり、ここにもある種の「鬼ごっこ」は潜んでいたのだ。特に安奈は詠子に始終取り憑くことで鬼軍曹の衰弱能力から逃れ、彼女達が帰路に就こうとしたところで姿を現して事故死させようとするなどもはやすっかり悪霊そのものと化していたと言えるだろう。だが詠子は、そんな安奈を単に罰しようとはしなかった。殺されかけたにも関わらず、少しの間だけでも友達だったからと処分の留保を夜宵に頼んだのだ。

 

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詠子「待って!……その、少しの間だけでも友達だったから……」

 

詠子には安奈に復讐する資格がある。騙され誘導され、死後も旧旧Fトンネルの霊に囚われ続ける恐れすらあったのだから安奈としては何をされても文句は言えまい。けれど、演技だったとしても詠子が安奈に友情を感じたのも事実なのだ。それは甘さや愚かさかもしれないが、良くも悪くも人を人たらしめる要素でもあろう。旧旧Fトンネルから脱出する際の詠子達の様々な助け合いもまた、このような人間性の産物ではなかったか。そう、鬼に捕まれば真っ先に奪われてしまうような。

今回は鬼ごっこの話である。詠子の肉体だけでなく魂もまた助けて脱出できたからこそ、この鬼ごっこは螢多朗達の勝利なのだ。

 

感想

というわけでダークギャザリングの15話レビューでした。うーん、ここのところ見立てはできてるのに文章化すると止まってしまうことが多いな。結論も当初案からポンと跳ねるまでは行ってくれないのがもどかしい。単純に頭の中の交通整理の問題かしらん。

鬼軍曹が能力だけでなくテーマ的にぴったり合っているのが感じられた回でした。さてさて、次回は今回の事件の続きのようですが果たして安奈の運命は……?

 

 

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