代役の「ダークギャザリング」。19話では螢多朗が奮闘する。彼に今回求められる役割と、それに必要なものはなんだろう？
ダークギャザリング 第19話「登楼」
1.螢多朗に求められているもの
Sランクの心霊スポット・旧I水門に向かう前にもう1体の卒業生を回収すべく、廃墟となったラブホテルを訪れた夜宵、螢多朗、詠子。しかし足を踏み入れた瞬間、螢多朗は二人と引き離されてしまい……？
夜宵「どうやら、花魁の卒業生を入れたことで秘密の部屋が彼女のお気に入り以外通さない疑似遊郭になったみたい」
代えざるを代える「ダークギャザリング」。今回は”卒業生”の回収回である。周囲に悪影響を及ぼすため各所への封印すら必要とした強大な霊・卒業生……その回収が困難なのは13話の「殉国禁獄鬼軍曹」回収で既に明らかだが、この19話はその時とはまた少し違った苦労がある。今回の卒業生である邪悪な花魁の霊は夜宵のことを大いに嫌っており、己の宿る形代の隠し場所に霊的に干渉し彼女が入れないようにしてしまったのだ。このため回収には花魁に嫌われておらずむしろ積極的に誘われる可能性のある男性、つまり螢多朗の協力が欠かせず、実際彼はラブホテル内で一人幽世へ移動させられ卒業生回収をほぼ単独で担うこととなった。夜宵や詠子の助けなく卒業生の隠し場所へ赴く今回、螢多朗は夜宵の代役となるよう求められていると言えるだろう。表現を変えるなら、螢多朗は夜宵に「なり代わる」よう物語に要請されている。
螢多朗（追われてるんじゃない、誘導できてるって考えろ！）
優秀な学力に基づいた現状把握、ただ逃げたり怯えるのではなく積極的に立ち向かおうとする思考の転換……螢多朗は孤立無援に等しい状況ながらも奮闘し、どうにか卒業生の隠し場所へたどり着くことに成功する。だが、卒業生を回収する＝代役を務めきるにはまだ十分ではない。そのことを螢多朗は、隠し場所で目にした驚きの光景から知ることとなる。
2.なり代わりの真髄
螢多朗（詠子じゃない！ こいつは……卒業生だ！）
卒業生の隠し場所、秘密の部屋にたどり着いた螢多朗が見たもの。それは浴槽で捕縛された詠子の姿であった。恋人である彼女がそんな状態なのを放っておける訳もなく、螢多朗は詠子を縛り付ける縄を解こうとするが――自ら肌をさらして抱きつき「帰ったらもっといいことしてあげる」とささやく彼女の行動に疑念を隠せない。果たして目の前の女性の正体は”卒業生”たる花魁の霊であり、その目的は螢多朗に自分の封印を解かせることにあった。彼女もまた、自由になるため一時的に螢多朗の恋人に「なり代わ」ろうとしたのだ。
螢多朗が最初は疑いもしなかったように、花魁の「なり代わり」は視覚的には完璧であった。それにも関わらず別人とバレてしまったのは、螢多朗がH城址の霊のお守りを身に着けていたのもあるが彼と詠子の関係性を見誤ったためだ。その後も彼女は螢多朗に呪いをかけて脅したりもう一度誘惑するなど様々な手段を講じるが、逆に螢多朗に騙されたり「そんな安い女の子じゃないんだよ！！」とかえって激怒させてしまい全く上手くいかなかった。
「なり代わり」というと対象を上手く真似ることばかりに目が行きがちだが、目を向けるべきはむしろ他者との関係性にある。逆説的に言えば、関係性さえ同じなら行動そのものはあべこべだって構わないのだ。幽世から帰還した際に既に卒業生の回収（黒縄による封印強化）を終えていた螢多朗を夜宵は「一人でよく頑張った」と褒めるが、実際は彼は一人でそれを成し遂げたわけではない。現世と幽世で隔てられて何も見えない状況でしかし、夜宵が地縛霊の邪魔を妨げたり詠子が螢多朗同様に霊障で呪いを受けた左手に導かれて引っ張ってくれたおかげだ。だが一人でなかったとしても今回の螢多朗が夜宵の代役を、「なり代わり」を果たせたのは誰が見ても明らかだろう。
螢多朗「花魁が優秀な人だっていうのは歴史で勉強したよ、おそらくあなたもそうなんだと思う。でも、僕の彼女だってすごいんだ」
ラブホテルを去る前、螢多朗は回収した花魁の形代に語りかける。花魁は優秀な女性だと聞いているしあなたもそうなのだろうが、自分の彼女もすごいのだ……と。確かに詠子はオカルトを学問したいという遠大な野望を持つ優秀な女性だが、螢多朗が言っているのはそういうことではあるまい。かけがえのない、「なり代わり」など他の誰にもできない人だからこそ、螢多朗は自分の中では詠子がどんな優秀な人間相手だろうと「なり代わ」れる存在だと花魁に語りかけているのである。つまりこれは、彼がこの卒業生回収を通して見つけた「なり代わり」の真髄の報告に他ならない。
螢多朗「詠子、本当にありがとう」
詠子「うん……」
この19話は「なり代わり」を巡るお話である。そして、なり代わりの真髄は他者との関係性に、なり代わりようのない部分にこそ潜んでいるのだ。
感想
というわけでダークギャザリングの19話レビューでした。結論的には「シン・エヴァンゲリオン劇場版」のレビューで書いたのと同じようなものなのでちょっと躊躇いもあったのですが、「なり代わり」に関する話なので腹をくくってレビューを書き進めました。とはいえその先に繋がりそうな部分もあって、螢多朗が果たしたのはあくまで一時的ななり代わりなのに対し、今回の終盤では継続的ななり代わりをやってのけている恐るべき存在が示唆されてもいる。他者との関係性すら偽れてしまうというのは今回の話からすれば相当な難敵なわけで、卒業生回収の苦労やこれから向かう心霊スポットへの心配すら食ってしまうのは、「なり代わって」しまえるのは当然のことだと思います。
詠子の見せられないものを隠すための髪型変更が芸細な回でした。今回ドスの利いた声を聞かせてくれた花魁役の日笠陽子さんの卒業生解放の時の演技はもちろんのこと、そして次回もえげつない話が待っていそうなところもおっかな楽しみです。
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なり代わりの真髄――「ダークギャザリング」19話レビュー＆感想https://t.co/dwGrlpypgk
— 闇鍋はにわ (@livewire891) November 13, 2023
螢多朗奮闘の19話、彼に求められた役割とそれに必要なものについて書きました。花魁のキャスティングに今後の期待も高まり。#ダークギャザリング
